![]() 連載論文「ブラキシズムの治療特に自己暗示法について」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』9月号に掲載された内容を転載したものです.) みなぎしょうご 皆木省吾 池田氏の“健康の維持において,ブラキシズムの健全な抑制は有用”とする論理および臨床的なスタンスに対して大いなる共感を持って読ませていただきました.これまでに氏が報告している論文についても興味深く拝見しています. ここで用いられているオクルーザルスプリントは,従来種々報告されているスタビライゼーションタイプのスプリントとしての作用に加えて,患者自身がブラキシズムという現象の存在を確認し,自己暗示の効果を肉眼的に認識できる利点を有していますが,患者へのフィードバックおよびモチベーションという点においてこの手法の効果が絶大であることに納得しました. 氏の貴重な論が,真に世界の歯科臨床において受け入れられるためには,これらの観察の背景にある氏のオクルーザルスプリントによるブラキシズム評価法の妥当性について,まず確立することを避けては通れないとも考えられます.この読後感では,この点に着目してみたいと思います. まず,このスプリント装着によってブラキシズムの定量化が行えるというオリジナリティーと臨床的有用性について高く評価します.この方法が抱える唯一の未解決ポイントは,スプリント装着時と非装着時のブラキシズムの特性が,同一あるいは相関があるか否かの一点のみと思われます.この点は,私個人の“研究を主目的とした興味”に由来するものではなく,このエポックメイキングな臨床手法が,“臨床的な真の有用性を強示するため”に必須と考えられます. 咬合とブラキシズムの関係について,現時点では必ずしも因果関係が肯定的に報告されているわけではありませんが,その一方でなお関連を示唆する現象を報告する研究が存在していることも事実です.このことを考慮すれば,スプリント装着による咬合や口腔環境の変化が,夜間睡眠時のブラキシズム活性に影響を及ぼしている可能性は完全には否定できないと考えられます. もちろん,氏のスプリント調整については十分に行われているものと理解しますが,スプリント調整手法そのものが多種存在し,また,調整結果を定量的に評価する方法が欠落している現在の歯科臨床・研究においては,残念ながらその点を完全にクリアーするには至らないように思われます. この現状を踏まえた上で前に進むには,“スプリント装着前の睡眠中のブラキシズム活性”と“スプリントを装着し,その後違和感が消失した後のブラキシズム活性”との間に差があるか否かが示されることが望まれます.スプリント装着前の睡眠中の咀嚼筋活動や下顎運動と,スプリント装着後のそれらとの関係が明らかになれば,このスプリントの有用性が疑いもなく明瞭に示されることになります.これはたとえば,スプリント装着前からの筋電図記録を行うこと等によっても達成され得ると考えられます. 臨床研究の基盤をなすのは,現象の正確な観察とそれを普遍化させる論理であると思いますが,ここには大量の貴重な臨床観察に基づいた現象が報告されています.その貴重な現象の認識が,真実としての確信と裏付けをもって広く世界中の患者に臨床応用されることを真に心から期待しています. |