![]() 7月号特集「臨床の疑問 歯科局所麻酔に関するQ&A」を読んで (『Dental Review(日本歯科評論)』8月号に掲載された内容を転載したものです.) ばんよしひろ 坂 好博 われわれ歯科医師が行う診療行為の中でも,“すべての症例の患者さんに局所麻酔を100%効かせることができる”という自信のある先生がどれだけいるだろうか.おそらく,ほとんどいないのではないかと思う.それだけに,臨床医へのアンケート調査をもとに構成された本特集は,同じ臨床医として,質問事項そのものから興味深いものであった. まず,「麻酔手技について」をはじめ他の項でもふれられているように,確かに麻酔を無痛的に行い十分に奏効させる方法はいくつかある.それはどの文献を読んでみてもだいたい同じようなことが書いてあるし,自分自身でも理解しているつもりである.また,それを補助するための便利な道具もいろいろなメーカーから数多く発売されているから,その上でわれわれが行うべきことは,今まで学んできた理論と知識,そして経験によって裏付けられた処置を,日々の診療で患者さんに有効に実践していくことなのである. 次に,私が麻酔を行うに当たって常に感じていることでもあるインフォームド・コンセントの大切さを,改めて認識させられる質問・回答が多いことに気付く. 実際の臨床現場において,麻酔が完全に効いてほしい時というのは主に抜歯・抜髄を行う前ではないだろうか.麻酔奏効の機序については理解しているつもりではあるが,完全な奏効が得にくくて困ることがある(経験を積むに従って,その頻度は少なくなってきているが).効かない理由は全身疾患の有無や炎症の程度,その時の患者さんの身体状況などさまざまであろうが,ほかにも解明されていない何らかの理由がありそうに感じることもある. しかし,抜髄でも抜歯でも,麻酔が効かないからといって何もせずに中止するわけにはいかない.そのまま麻酔が切れてしまうと再び症状が出てくるからであるが,そういう時に限って,焦れば焦るほどいくら麻酔薬の投与量を追加しても効いてくれないものである.そうかといって,患者さんを押さえつけて治療を続行するわけにもいかない.このような場合は,本文中でも解説されているように,他の麻酔法を試みるなどの対処をし,それでも奏効しなければ,その日は症状を抑えるまでの処置にとどめておくのが賢明であろう.日を改めると難なく奏効するのはよくあることである. そして,ここで気を付けないといけないのが,中断する理由をきちんと,はっきり説明することである.しかも,そのほうがお互いにメリットのあることだということをよく理解してもらわなければならない.この説明も麻酔手技の一部であるということである.そうしないと,“下手な歯医者”のレッテルを貼られてしまうことになるであろう.逆に,ちゃんと説明して次回に完全に治療を完了できれば,“上手な歯医者”として評判が上がることになるだろう.やっていることは全く同じであるにもかかわらず……,である. 以上のことは,麻酔に限らずすべての診療行為について言えることである.相手も人間であるから,説明をすればわかってもらえる.逆に,説明をきちんとできない(しない)ドクターは,そういう意味では失格である.今回の特集を通して私が再認識したのは,知識や技術を得ることと同様に,説明が何より大切だということである. “きちんと説明してわかってもらう”――今はそういう世の中なのである. |