極薄アパタイトシート“歯の絆創膏”の歯科治療実用化に向けて
──近畿大学・大阪歯科大学による共同研究記者会見
代表研究者の吉川一志先生(左)と本津茂樹先生(右).
極薄アパタイトシートと製造法.1μm厚さにも製作できるが,歯科臨床には5〜7μmでの応用が検討されている.大きさは最大50mm幅まで製作できるほか,ドームやクラウン形態にも加工が可能(©近畿大学・大阪歯科大学).
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近畿大学(大阪府東大阪市,畑博行学長)と大阪歯科大学(大阪府枚方市,川添堯彬学長)ではこのほど,歯や骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを加工した「極薄アパタイトシート」開発の成功とともに,同シートを“歯の絆創膏”として歯科治療に応用する共同研究を開始し,9月28日,その概要について記者会見を開催した(代表研究者:近畿大学生物理工学部・本津茂樹教授,大阪歯科大学歯科保存学講座・吉川一志准教授).
極薄アパタイトシートは本津教授グループが「レーザーアブレージョン法」と呼ばれる技術などを用いて世界で初めて開発に成功したもので,現在5〜7μmの厚さでの臨床治験が検討されている.また,シート状のみではなくドーム状,対象歯に合わせたクラウン状の形態付与も可能で,本来無色透明であるが,着色も可能.これらの特徴を活かしたさまざまな歯科治療分野への応用が期待され,実用化例として以下のものがあげられる.
①知覚過敏症の治療
露出した象牙質への貼付.固着・再石灰化により治療効果が持続.
②予防・修復歯科分野
萌出第一大臼歯など小児の未成熟なエナメル質の保護・強化(クラウン形状で使用),咬耗・摩耗により失われたエナメル質の修復.
③審美歯科分野
白く着色したシートを貼付することにより,歯質の削除なしで審美層を付与できる.また,ホワイトニング後の歯面への貼付で「後戻り」を防止.
固着・再石灰化の所要時間については,これまでの抜去歯による実験では90日後に歯質との一体化が確認されている.ただしこれは固着状況の観察を行ったのが90日後ということで,実際に本津教授の歯に3枚貼られたシートは「その日に歯磨きしても問題なかった」と,臨床的には術後短時間で実生活に問題ない強度で歯に定着することが示された.貼付法は人工唾液を塗布した歯面にシートを圧接し乾燥させるというもので,将来的には術後10分で確実に定着する術式を確立させたいという.
今後,接着方法と接着メカニズム,シートの適切な厚さ,食事・歯磨きへの耐久性などさまざまな実証実験を重ね,“極薄アパタイトシート”の実用化に向けたデータ収集が進められる.
(2010.10.05)
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