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がん患者歯科医療連携合意書への調印後.左は「生きることは食べ続けることであり,食べることは生きる力を支えること」と口腔衛生の大切さを語る大久保会長,右は「日本のがん治療のリーダーとして,公式に歯科医療との連携を発表することは大きな成果」と語る嘉山理事長. |
独立行政法人国立がん研究センター(嘉山孝正理事長)と日本歯科医師会(大久保満男会長)は,8月31日,東京・築地の国立がん研究センターにおいて「がん患者歯科医療連携合意書」に調印した.以前より静岡県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)など一部の地域機関では,がん患者への口腔ケアに先進的に取り組んでいたが,このたび,国のがん治療の基幹施設である国立がん研究センターと日本歯科医師会が連携を公告したことで,すべてのがん患者が安心して歯科治療を受けられるような社会基盤や,地域医療ネットワークの構築を目指す全国的な取り組みが期待される.
なお,調印式前には,国立がんセンター,日本歯科医師会それぞれに属する立場から複数の演者による発表が行われ,さらには同席したがん患者の方から実体験も語られるなど,歯科医療連携の重要性が改めて確認された会であった.
今回の歯科医療連携事業の要旨
1)背景
がん患者は,手術,抗がん剤投与をはじめとする化学療法,および放射線治療などにより免疫力が低下した状態にあり,また唾液の分泌量低下による口腔内乾燥から,さまざまな口腔内合併症を引き起こしやすい.これまでの認識では,口腔の問題はがん患者の療養生活の質にこそ大きな影響を与えるものの,生存率などがんの治療成績には直結しないと広く考えられてきた.しかし,静岡がんセンターの例のような先駆的な取り組みから「口腔ケアや歯科治療をがん治療の一環として行うと,口腔内合併症のリスクが減る(口腔粘膜炎の発症頻度や重症度の軽減,慢性炎症の急性化を予防)ばかりでなく,がん治療そのものにも貢献できる(局所合併症や肺炎の発症頻度低下)」ことが報告されている.こうした動きは現在,各都道府県にも広まりつつあるが,がん治療施設内の歯科医療職人員には限りがあり,すべてのがん患者に歯科的な対応を十分行き届かせることは困難である.そこで,より質の高いがん治療を提供するために,体制整備の一環として国立がんセンターと日本歯科医師会が協働し,この取り組みを事業化して進めていく方針へと至った.
2)目的
がん患者の口腔衛生状態を改善することにより,口腔合併症などを予防・軽減し,患者の生活の質(QOL)を向上させる.また,すべてのがん患者が安心して歯科治療を受けることのできる社会基盤を構築し,がん治療に対する知識や情報の不足から地域の歯科医院において診療を断られる,いわゆる“がん難民”の撲滅を目指す.
3)対象 今年度は,国立がんセンターにおいて手術を受ける予定のがん患者(年間約4,000名)のうち関東圏(千葉県,埼玉県,東京都,神奈川県,山梨県)に居住する患者を対象とし,歯科医療連携モデルの構築を図る.来年度以降は,抗がん剤などの化学療法や放射線治療を受けている患者,緩和ケアを受けている患者――と,連携システムの充実を図りながら対象を全国的に広げていく.
4)実施方法
①入院前
国立がんセンターでがんの切除手術が決定した患者のうち,3)の対象に該当する患者に対しては,入院手続き(手術の数週間〜約1カ月前)の際に連携歯科医療機関(連携講習を受け,各都県歯科医師会に所属する日歯会員)への受診を強く勧奨する.患者は同センターの担当医から渡された紹介状(診療情報提供書)ないしは受診案内を持参し,歯科治療を受けたのち,同機関の歯科医師・歯科衛生士により口腔内状態の評価が記入された本事業専用の連携表を持ち帰り,担当医もしくは担当看護師に提出する.
②入院時
センターの医師・看護師は連携表を確認し,口腔ケアなどの終了状況を確認.入院後も継続して歯科的な対応が必要な場合は,センターの歯科にて処置を引き継ぐ.
③手術治療時
入院した患者は,連携歯科医療機関で受けた口腔衛生指導方法に従い,手術当日まで口腔ケアを行い手術に臨む.可能であれば,連携歯科医は患者家族の相談に乗るなど,周術期のがん患者が口腔内状態を良好に維持できるようサポートに努める.
④退院後
退院後も継続して口腔ケアや歯科治療を行う必要がある場合には,センターから連携歯科医療機関への連絡票(診療情報提供書)を発行する.その後も必要に応じて,連携歯科医はセンターと密接に連絡を取るよう努める.
⑤連携実績の評価
センターと日歯の双方からなる運営委員会を設置し,本連携事業の実績を評価し,概要を定期的に報告・公表する.この評価結果にもとづき,連携地域および連携対象の拡大を段階的に図る.
5)連携歯科医師認定要件と講習会
当事業における歯科医療連携講習会を「がん患者歯科医療連携講習会」と定義し,この連携を担う歯科医師を「日歯・国がん連携歯科医師」と定義する.認定の条件は,各都県歯科医師会所属の日歯会員であり,かつ都県単位で行われる日歯・センター主催の連携歯科医師の連携講習会を受講した者.
連携講習会は平成22年より原則として年1回開催し,向後3年間は実施する.まず今年度は,山梨県歯科医師会館における9月25日の開催を皮切りに,順次,東京,埼玉,千葉,神奈川にて開催される.連携講習会を受講した会員には,講習会ごとに「連携講習会修了証」を交付する.
今後は平成23年度を目途に,全国の1つ以上の都道府県がん拠点病院と地域歯科医療機関への事業拡大,平成25年度を目途に,全国のがん診療連携拠点病院(現在375施設)と地域連携歯科医療機関との連携事業開始を目標としている.
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