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「一人ひとりの会員の力を合わせて,この難局を乗り切りたい」と挨拶する大久保満男会長(円内).上程された全議案が賛成多数により可決確定された. |
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日本歯科医師会は3月15・16日の両日,東京・市ヶ谷の新歯科医師会館において第158回代議員会を開催した.冒頭に挨拶をした大久保満男会長は,歯科界を取り巻く厳しい現状について「これ以上の医療費抑制政策が進めば,日本の医療は崩壊する」と強い口調で訴え,次期診療報酬改定では「プラス改定でなければ良質な歯科医療を提供できない」との姿勢で臨むことを示した.
さらに,医療制度改革については「われわれは歯科医療を医療費抑制のために行っているわけではない」と述べたうえで,国民の健康に寄与することが結果的に医療費抑制につながる,という考えで歯科医療の重要性を主張していきたいとした.
続いて,一般会務,社会保険関係,会計現況の各種報告が行われた.会計現況報告のなかで高木忠雄常務理事(会計担当)は,保有している国債44億円の預け先を日興コーディアル証券から三菱UFJ証券へ全額移し替えたことを明らかにした.これは,日興コーディアル証券が行政処分を受けたことなどに鑑み,取引先としての妥当性を考慮してのことであるという.
その後議案審議に入り,第1号議案「日本歯科総合研究機構の設置について」の議論がなされた.代議員からは「すでに日歯内には様々な委員会やワーキングチームがあるが,研究機構を内部に設置することでうまく住み分けできるのか」(岸田 隆代議員(千葉県))といった質問が挙がったが,「各種チームは諮問により設置されており,課題が終われば解散する.研究機構は,常勤の研究員が自ら問題意識を持って常に情報収集・整理を行う」(大久保満男会長)と説明し,採決の結果,賛成多数により可決された.これにより,大久保会長が当初より掲げていたマニフェストのひとつが実現する形となり,今後は研究員の人選が注目される.そのほか平成19年度事業計画など計16議案が上程されたが,すべて執行部提案どおり可決された.
なお,続いて地区代表事前質問と個人事前質問が行われたが,その質問の一覧は下記のとおり.
○地区代表事前質問の一覧 |
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関東地区「次期診療報酬対策について」
近北地区「歯科のシェア拡大へ向けて,具体的戦略を問う」
東海地区「次期診療報酬改定検討チームについて」
中国地区「保険医療機関及び保険医の指導等について」
東北地区「『口腔衛生週間』の復元について」
東京地区「後期高齢者医療制度・次期診療報酬改定に対する対応について」
九州地区「歯科医師需給問題について」
四国地区「学術・生涯研修の充実・拡充について」
北海道地区「後期高齢者医療制度における歯科医療の具体的あり方を問う」
信越地区「日本歯科医師会の今後の会運営について」
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○個人事前質問の部門ごとの一覧 |
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器材薬剤関係……1問,広報関係……4問,学会関係……1問,中医協・診療報酬関係……3問,医療保険・制度関係……8問,地域保健・産業保健関係……4問,歯科医師需給関係……2問,学術・生涯研修関係……2問,医療管理・税務関係……5問,厚生・会員関係……1問,その他……3問
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地区代表事前質問と個人事前質問の中から一部を抜粋して概要を紹介する.
次期診療報酬改定対策について(茨城県/小舩秀文代議員)
歯科の中医協委員が1名減ったが,次期診療報酬改定にどのように対応するのか.また,新しい医療技術を点数化することが必要だと思うが,どのように診療報酬の骨子をつくっていくのか.
大久保満男会長:渡辺三雄中医協委員を孤立させないために,万全の体制を敷く.万が一,渡辺委員が体調不良などで欠席する際には,近藤勝洪日歯副会長が代理で出席する.また,厚労省の先進医療専門家会議では,学・産が連携して新技術や新薬剤を先進医療として申請していきたい.後期高齢者医療については,歯科医療が(1)低栄養の改善,(2)誤嚥性肺炎の予防,(3)健康寿命の延伸,に貢献できることをアピールしていく.
「口腔衛生週間」の復元について(宮城県/川村皓雄代議員)
現在の「歯の衛生週間」は,以前は「口腔衛生週間」と呼ばれていた.国民に,歯科医師は“歯の専門職”であると同時に“口腔の専門職”でもあり,健全な口腔機能の維持増進を担う医療職であることを啓発するため,「口腔衛生週間」の名称を復元してはどうか.
池主憲夫常務理事:この問題は非常に大きい問題であると認識している.おそらく,当時はむし歯が多かったためにむし歯予防の観点から“歯”の衛生週間と名付けたと思う.しかし,歯科は口腔全体に関与するということが国民にも認識され始めており,サブタイトルなどで“口腔”を付け加えるように検討したい.
歯科医師需給問題について(福岡県/中村 直代議員)
本年2月の中原 爽参議院議員の国政報告で「厚労省は,歯科大学の定員削減は45%程度の削減を行わないと現在の需給バランスは保てない,と言っている.しかし,私立大学の入学者を一律80人減,国立大学を2分の1に削減してもそれには及ばない」といったような発言をしている.現在の需給バランスの原因は,20年来需給問題に手をこまねいてきた日歯の責任であるとも言える.ぜひとも拘束力のある国策として,入学者削減を実現してほしい.
箱崎守男常務理事:昨年8月末の厚労・文科両大臣の合意により,両省で検討が進められている.4年ごとに行われている国家試験の見直しが平成20年に実施されるが,そこでどのような形が出されるのか.また,平成20年度の入学者に対して削減が行われるのかどうか.日歯としては,しばらく推移を見守りたい.また,保険医の定年制については新規参入抑制策の目処が立った後に検討したい.
有病高齢者の抜髄処置について(大阪府/藤本嘉治代議員)
超高齢化社会を迎えるにつれ,有病高齢者も増加している.しかし,日常臨床のなかで有病高齢者(特に在宅診療)には局所麻酔が使用できない.かつてはASP(亜砒酸糊剤)を使用できたが,アスベストが含まれているため現在製造中止になってしまっている.ASPは用法用量を間違わずに使用すれば有用な薬品である.現在使用可能なパラホルムアルデヒド製剤では,十分な効果が得られない.これに代わる薬品の開発を大学や学会,厚労省に働きかけすることはできないか.
稲垣明弘常務理事:ASPが有用であることは認識しているが,製造会社に問い合わせたところ,「すでに生産ラインを破棄してしまった」という.代替薬品の開発を大学や産業界に働きかけていくが,もし開発できたとしても新薬の扱いとなるので,実用化はかなり先になってしまうだろう.
「戦略的広報活動」と新聞広告について(山梨県/三塚憲二代議員) 現在日歯には,国民へのアピール推進チーム,広報調査室,広報委員会があるが,どこに「戦略的広報活動」の要を置くのか.また,来年度予算に全国紙(『読売新聞』)へ意見広告をするために4,500万円を組み込んでいることは評価できる.しかし,4,500万円が通常の広報委員会予算からの支出ならば同委員会の他事業を圧迫しないのか.そして1紙に1回掲載するだけで,果たして効果があるのか.
小谷田 宏常務理事:国民へのアピール推進チームはあくまでも諮問委員会としての位置づけで,具体的活動については常設の日歯広報委員会が取りまとめを行う.また,広報調査室とは機能分担がなされており,相互の連携をしっかり取っている.
4,500万円の予算は別枠で組み込んだものなので,他の予算を圧迫することはない.また,新聞広告はコストがかかるのは確かだが,1,000万部という大部数を発行している媒体は他にはない.その広告効果については,国民向けHPへのアクセス数や国民の意識調査などで判断したい.
保険証の完全個人カード化とICカード化について(愛媛県/須之内淳二代議員)
厚労省は,世帯単位に交付されている保険証をすべて個人単位に切り替えることを決定した.平成22年度からは,保険運営組織にその切り替えを義務付け,完全実施を予定しているようだ.また,個人カード化にあたって,QRコード(2次元コード)の印刷も義務付けようとしているが,どのようなメリット・デメリットがあるのか.
さらに厚労省は,医療・年金・介護等々,社会保険全般を包括化するICカードを作成し,全ライフステージをとおして検診結果を管理するシステムの構築を検討していると言われている.これに対する日歯の見解を伺いたい.
稲垣明弘常務理事:QRコードの付与は任意である.これによるメリットは,(1)レセプト転記ミスによる返戻がなくなる,(2)事務的な手間が省ける,(3)低コストで導入可能,などである.一方ICカードは,オンラインでの医療情報へのアクセスなどに使用されると予想される.しかし,情報漏洩の防止など,実現に向けて課題がまだある.
専門医について(栃木県/新井 武代議員)
現在,4つの学会(日本口腔外科学会,日本歯周病学会,日本歯科麻酔学会,日本小児歯科学会)が専門医制度を認められている.今後,各学会からさらなる申請が考えられるが,一般開業医でも高度な技術を要する,あるいは困難な症例に対して治療を行っている先生は多くいる.知識的にも技術的にも難症例の治療ができる専門医でなければ,国民の理解は得られない.どういう基準で専門医として認定しているのか.また,一般開業医と専門医との間で保険点数の差はつくのか.さらに,名称においても国民に理解しやすいものとなっているのか.
江里口 彰常務理事:国民に医療サービスとしてわかりやすい広告をする,という意味では「専門医制度が必要である」と認識している.現在,2つの学会(日本歯科保存学会,日本補綴歯科学会)から申請を受けているが,今のところ「認めることができない」と回答している.また,一般開業医と専門医の間で保険点数に差をつけることは反対である.名称については,国民にわかりやすいものにすべきと考える.
渡邉眞宏代議員(東京都):多忙で専門医の資格を取る暇のない先生もいる.また,スタディグループなどに入り研鑽を積んでいる若い先生も多くいる.それなのに,専門医と一般開業医を差別してはならない.
岸田 隆代議員(千葉県):保存と補綴は歯科医療のベースである.その領域に専門医制度ができるということは,歯科医療の根幹を揺るがす問題である.反対の意思を表明するため代議員会で決議すべきだ.
大久保満男会長:保存と補綴の専門医制度については,厚労省から諮問があり「基本的な歯科治療である保存と補綴に専門医を設けることは,理解できない」と答申をした.GPとの差を明確にしなければ,認められる専門医制度ではない.
歯科衛生士養成所3年制移行に伴う諸問題について(東京都/櫻井善忠代議員)
歯科衛生士養成所は3年制が進んでおり,歯科衛生士にはさらなる活躍が期待される.しかし,歯科衛生士法のなかに改正を要する個所があると考える.それは,「歯科医師の直接の指導の下に……」しか業務ができない点と,「正常な歯茎」に対してしかスケーリング等が認められていない点である.この点は歯科衛生士の業務範囲に大変影響がある部分である.日歯は,3年制達成の平成24年までに法の一部改正を働きかける意志があるのか伺いたい.
太田謙司常務理事:歯科衛生士法制定時は,まだ歯科衛生士が1年制であった.そのため「歯科医師の直接の指導の下」といった文言が記載されたと思われる.基本的にはご指摘と同じような考えであるが,議論を深めるため学会に諮問しているところである.
公益法人制度改革について
協議事項では,公益法人制度改革について議論の場が持たれ,まず内山文博専務理事から概要について説明がなされた.
内山文博専務理事:平成20年から公益法人制度改革が施行される見通しである.それに伴い役員任期を「3年から2年以内」に変更することが必要である.そのためには,定款の全面的改正,もしくは現定款の役員任期のみ改正する方法があるが,全面的改正は次期会長選出までに間に合わないため,まず任期変更のみを行い,その後全面的改正を行いたい.
浮地文夫代議員(東京都):都道府県歯は日歯の対応を見ている.見本となるべく素早い対応を期待する.
藤本嘉治代議員(大阪府):医療界はこの制度にそぐわないのではないか.三師会共闘で強い反対姿勢を見せてほしい.
大久保満男会長:何らかの形で医師会などと一緒に主張していきたいと思う.
以上のような議論を経て,現定款の役員任期を3年から2年に改正されることが了承された.都道府県歯については「(ほとんどの都道府県歯の役員改選期が重なる)平成21年から役員任期2年制としたい」(大久保会長)との考えから,日歯の情報を公開し足並みを揃えた対応をしていきたい意向.
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