これからの口腔ケアをめぐって――口衛学会関東地方会がシンポジウム

 

開催にあたり,口腔ケアに関する現状と問題点を述べる那須郁夫大会長(円内).討論会ではさまざまな職種の参加者から多くの質問が寄せられた.

 日本口腔衛生学会の口腔衛生関東地方研究会は,12月7日,東京・千代田区の日本大学法学部10号館ホールにて,「口腔衛生関東地方研究会・シンポジウム――保健・医療・介護の根底をつなぐ口腔ケア――」を有意義に開催した.

 かつて歯科医師の主な役割は,う蝕治療や予防といった「プラークコントロール」が中心だったが,「8020運動」等により「セルフケア」が人々の間に浸透し,う蝕は減少した.しかし,超高齢社会が進む現在「セルフケア」を自身で行えない患者が増え,「口腔ケア」の必要性が生じた.現代の日本において,歯科医師が行う口腔ケアの役割とは何か,他職種連携や患者と向き合うために考えていくべきことをテーマにした(那須郁夫大会長),として講演が行われた.
 まず,阪口英夫先生(埼玉県 医療法人尚寿会 大生病院 歯科口腔外科部長)が「口腔ケアの歴史と哲学(フィロソフィー)」において,米国コロンビア大学のAustin H Kutscher先生の編纂した「The Terminal Patient:Oral Care」をもとに,終末期医療における口腔ケアの重要性を死生学との関連を交えて解説した.
 渡邊 裕先生(国立長寿医療研究センター 口腔疾患研究部口腔感染制御室)の「病診連携のためのシームレスな口腔ケア」では,シームレスな口腔ケアを阻害する要因を,「場所に関する要因」「機能に関する要因」「歯科医療関係者以外の問題(本人含む)」「歯科医療関係者の問題」の4つに分類し,誤嚥性肺炎の患者に対して肺炎治療のみを行い,“誤嚥”が改善されていない例を挙げ,4つの視点それぞれの問題点について解説した.また,“口腔ケア”を「医療行為のようなイメージがあり,食事介助や身体清拭,排泄ケアのように一生継続的に行うことが理解されにくい」とし,口腔ケアに対する認識の改善をしていくことが,病診連携を発展させるひとつの形であると締めた.
 招待講演の会田薫子先生(東京大学大学院人文社会系研究科生死学・応用倫理センター上廣講座)は「胃ろう問題と尊厳」と題して,胃ろうは,口から十分に食べたり飲んだりできないときに,水分や栄養の補給,薬剤の投与を行う便利なルートであり,人工栄養の摂取として一番優れている“道具”であることを認識し,“道具そのものの是非ではなく使い方”を問う必要性があり,胃ろうを中止することも選択できると語った.また,実際の胃ろうをめぐって起きた問題を提示し,検査等の結果だけで見れば全く同じ状態の患者でも,それぞれの「生き方」や「経験」を踏まえ,家族や本人の意志を尊重して胃ろうにするか否かを決めることが,患者の尊厳を守ることであり,これからの医療のあり方ではないか,と会場全体に問いかけた.
 最後に,平野浩彦先生(東京都健康長寿医療センター研究所)が「終末期高齢者に対する歯科医療と口腔ケアの役割」の中で,『終末期高齢者における歯科医療およびマネジメントニーズに関する調査研究報告書』の厚労省老健事業アンケート結果を報告し,参加者を交えた活発な討論が行われた.


(2013.12.20)

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