日歯が第172回代議員会を開催

 

2日間にわたって開催された第172回代議員会の様子.事前質問では,昨年末の政権交代以降,渦中の議論であるTPPをはじめとする規制緩和の動きや,医療制度等について問う声が多く,出席した代議員からは関連質問も活発に上がっていた.

 日本歯科医師会は3月14・15日の両日,東京・市ヶ谷の歯科医師会館において第172回代議員会を開催した.大久保満男会長や,石井みどり参議院議員ら各来賓による挨拶に続き,2月8日に投票締切・即日開票された会長予備選挙の報告,そして一般会務報告,社会保険関係報告,地域保健関係報告,会計現況報告などの各種報告がなされた後,議案審議に入った.また,議案審議に引き続き,各地区代表事前質問と個人事前質問に対する質疑応答が行われた.質問の一覧は下記のとおり.

○地区代表事前質問の一覧
北海道・東北地区「現物給付型民間保険の導入に関して」
東京地区「審査支払機関の判断基準の統一化に係る連絡協議会の設置について」
中国・四国地区「今後の日本歯科医師会福祉共済制度について」
関東地区「生活習慣病予防および保健指導における歯科医療の位置づけと研修体制」
近北地区「次期診療報酬改定への取り組み」
九州地区「医科歯科連携事業の全国展開について」
東海・信越地区「3層構造を支える会員歯科医療機関の姿を問う」

○個人事前質問の部門ごとの一覧
学会関係……1問,災害時対策・警察歯科関係……1問,中医協・診療報酬関係……6問,医療制度関係……7問,地域保健・産業保健関係……6問,医療管理・税務関係……1問,厚生・会員関係……3問,その他……1問
 今回の地区代表事前質問と個人事前質問では,医療制度,中医協・診療報酬,地域保健・産業保健関係などに関して多くの質問が寄せられたが,そのなかから一部を抜粋し,以下に概要を紹介する.

現物給付型民間保険の導入に関して(北海道・東北地区代表/佐藤明理議員)
 日歯は以前から,TPP問題に関して「医療に市場原理を導入するような動きには明確に反対の立場をとる」との見解を示しているが,現在国内において,現行の保険業法下では定額保険について原則禁じられている「現物給付」の規制を緩和しようという動きが問題になっている.すでに金融庁の金融審議会においても「保険商品・サービスの提供等の在り方に関するWG」が7回開催され,オブザーバーにも大手民間保険会社が名を連ねていることから,手を替え品を替えての議論に改定の意志を強く感じる.歯科医療界にも現物給付型保険商品が適応される可能性は払拭できず,国民皆保険制度の崩壊や医療機関の選別・囲い込み,実質的な混合診療の導入など,国民が受けられる医療の格差拡大と社会的な混乱が懸念される.この動きを阻止する必要があると思うが,日歯の見解をお聞きしたい.
柳川忠廣常務理事:日歯もまったく同じ問題意識を持っており,先月金融庁に出向いて直接懸念を申し上げた.平成20年度の厚生審議会では,①仮に将来の葬儀費用や老人ホーム入居権利等が「現物給付」として与えられても,実際には価格変動が起こるため保険料や責任準備金の算定が難しい,②実際に“適切なサービスの提供がなされたかどうか”の監督ができない,という点で日医よりも消費者団体からの反対が大きかった.また,同保険の導入は「民間保険で自由診療を行い,公的保険で保険診療を行う」という実質的な混合診療解禁への流れを作りかねないが,金融庁側の回答では「医療は議論の中心にはなっていない」「議論の中心は介護保険など,老後不安を抱えた国民ニーズへの対応」とのことであった.また,民間保険会社による医療機関の“囲い込み”の恐れについては,「保険契約者である患者の利便性を損ねることは決してない」と,商品認可の観点からは考えづらい問題という見解である.ただし「窓口負担分の3割を民間保険で支払う」という点においては,金融庁側は確かに「法改正を必要としない」という認識であったので,ここは日医との連携や日歯連盟のサポートをいただきながらきちんと対応していきたい.

審査支払機関の判断基準の統一化に係る連絡協議会の設置について(東京地区代表/早速晴邦議員)
 これまでの厚労省による「審査支払い機関のあり方に関する検討会」の流れから,すでに審査支払機関においては一次審査における縦覧点検・突合等が行われ,支払基金では顧問が設置されている.こうした中で昨年12月3日に厚労省は,審査支払機関に対して全国および都道府県レベルでの連絡協議会の設置を要請したようである.これに対して日歯は12月21日付で堀常務名の文書にて,地方厚生局の参画により生じる影響や三師会の協議会への参加が十分に担保されていないことなど,懸念を表明して対応しているが,①歯科の独自性について,②協議会の狙いについて,③判断基準の統一化の必要性について,改めてお伺いしたい.
堀 憲郎常務理事:日歯は昨年3月に連絡協議会の設置について議論が始まった当初から,地方厚生局が参画することに対して懸念を抱いて反対の立場をとり,昨年12月の中間報告以降も引き続き行政との議論を繰り返してきた.①については,地方技官の質の格差が歯科にも存在するという現状も踏まえて反対していたが,最終的には一定の質の担保がとれたということで協議会の設置を了承した次第である.②については,審査会の独立性・柔軟性や三師会の参画,国保連と支払基金支部の審査会間格差の是正と理解しているが,行政による統制や医療費抑制観点がないとも限らないので今後とも注視していく必要がある.③については,患者の個別性や疾病構造の地域格差,医療従事者の違い等によって生ずる格差は尊重するが,明らかに不合理と思われる審査格差については統一に異論はない.

地域包括ケアにおける歯科の役割について(北海道/川野正嗣議員)
 世界に類を見ない速度で超高齢化が進行しているわが国において,今後の人口動態などの環境変化は,社会保障システム崩壊への懸念や,医療提供体制変革の必要性を生じさせる.これまで医療提供の機能分化・連携という医療政策が示されてきたが,必ずしも円滑には進んでおらず,地域ごとに在宅医療が整備されるだけでなく介護保険の分野でも地域包括ケアの方向性が明確にされ,双方が一体となることが不可欠である.医科では地域包括ケアシステムの構築が始まり,次期改定においても間違いなくこの方針に基づく要求が行われるであろう.日歯は,会員の診療所が歯科医療提供においてどのように関わるべきと考えているのか,活動の指針等についてお伺いしたい.
佐藤 保常務理事:地域包括ケアシステムはもともと介護が端緒であり,介護をその地域で完結するために必要な医療等を考える側面から社会保障全体としての広がりを持ちつつあると理解している.しかし,医療資源や介護支援に恵まれている地域(都会型)ではシステムが完結するだろうが,そうでない地域ではシステムが十分機能するかどうか疑問視する動きも多くある.次期改定にどう生かすかという方向性についてはまだ十分な情報が集まっていないが,われわれがすでに進めているのは地域包括ケアセンターに在籍している三職種(ケアマネジャー,社会福祉士,保健師)との連携である.ケアマネジャーとはセンターと医科や歯科のかかりつけ診療所との連携に関する議論や教材づくり,これまで歯科との連携が少なかった社会福祉士とは現状を互いに認識し共有しながら,事例検討を進めていく.

病診連携の今後について(大阪府/藤本嘉治議員)
 近年地域歯科医療が変化し,糖尿病や認知症,がん患者の周術期,また在宅診療のなかでより小さな地域でのチーム医療が必要となり,病診連携,診診連携がますます重要になってきた.かかりつけ歯科医として,われわれも関係医学のさらなる研鑽は必要だが,今後,医師や看護師,薬剤師,ケアマネジャー等に対する歯科医療の重要性の周知について,日歯としてはどのように取り組まれるのかお聞かせいただきたい.
佐藤 保常務理事:制度としてどう考えるか,現場の意見をどう反映するかが課題である.がん医科歯科連携の問題を例にとると,がん拠点病院において歯科の口腔内に関する研修を実施するなど,われわれに課せられた要件と同様の制度ができればそれはある範囲で自動的に進んでいくのかもしれない.しかし,先生方が実際に行われている“顔の見える関係づくり”に沿った周知方法としては,これまでのような一方的に話すだけの講演会形式ではなく,具体的な課題を取り上げてその解決策を職種間で話し合うようなワークショップ等の形式を計画している.
山科 透副会長:日歯総研では現在,病院歯科でチーム医療がどの程度機能しているかアンケート調査を実施している.また将来の人材育成という観点から,大学教育において周術期の口腔管理教育に要する時間,教育実習の内容等を医学部のある総合大学や単科の歯科大学に対して調査し,今後のカリキュラムに反映していきたいと考えている.
宮村一弘副会長:今後は小さな地域においてもチーム医療を行う必要性が高まるが,現実の問題として,われわれ歯科医師は歯科医療行為を中心としてチームを組み,医療行為を行うことはできない.歯科医師により指示・指導ができる職種は限定されているので,医療スタッフの業務分担と現行法の構造についても参考にしていただきたい.

(2013.04.02)

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