日歯が第170回代議員会を開催

 
 

今回の代議員会では,公益社団法人移行認定申請に伴う定款や諸規則の改正が行われたが,特に福祉共済規則の改正に関して多くの質問が寄せられた.これについて大久保会長は「非常に苦しい選択であった」と明かしながらも,会員への理解を求めていた.

日本歯科医師会は3月8・9日の両日,東京・市ヶ谷の歯科医師会館において第170回代議員会を開催した.大久保満男会長や,石井みどり参議院議員ら各来賓による挨拶に続き,一般会務報告,社会保険関係報告,会計現況報告の各種報告がなされた後,議案審議に入った.

議案審議――公益社団法人移行に伴う諸規則が改正さる
 審議には計16議案が上程されたが,すべて執行部提案どおり可決・確定された.なかでも1号議案から5号議案は,公益社団法人移行認定申請に必要な,定款ならびに諸規則の改正を図るもので,これまで日歯が総力を挙げて取り組んできた内容の集大成となる.この後は内閣府による認定審査を経て,平成25年4月1日の移行を目指す.
 また,議案審議に続き,各地区代表事前質問と個人事前質問に対する質疑応答が行われた.質問の一覧は下記のとおり.

○地区代表事前質問の一覧
近北地区「ライフステージに応じた歯科医療保険制度へのパラダイムシフト」
中国・四国地区「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に対する日本歯科医師会の今後の対応」
九州地区「医療連携について」
東京地区「歯科口腔保健の推進に関する法律の具現化に向けて」
北海道・東北地区「『歯科口腔保健の推進に関する法律』の問題点と今後の展望について」
関東地区「第18回医療経済実態調査について」
東海・信越地区「会員の長期臨床記録を系統的に整理保存研究する事業を提案する」

○個人事前質問の部門ごとの一覧
中医協・診療報酬関係……3問,医療保険・制度関係……8問,地域保健・産業保健関係……3問,歯科医師需給関係……1問,学術・生涯研修・国際渉外関係……1問,情報管理・調査関係……2問,医療管理・税務関係……1問,厚生・会員関係……3問
 今回の地区代表事前質問と個人事前質問では,医療保険・制度関係などに関して多くの質問が寄せられたが,そのなかから一部を抜粋し,以下に概要を紹介する.

医療連携について(九州地区代表/寺尾隆治議員)
 「口腔ケア」の重要性についてはすでに市民権を得つつあるが,実際の臨床現場における「医療連携」の推進・進捗具合には疑問が残る.特にNSTへの歯科の参画は,摂食・咀嚼・嚥下の観点から非常に重要であり,学術的根拠をもって今まで以上にアピールすべきである.また,マウスガードを要介護者のリハビリツールの1つとして活用することで,歯科ならではの視点から医療に大きく貢献できる可能性を,学術的に調査・立証していただきたい.
佐藤 保常務理事:NSTで歯科が関わる分野としては,栄養摂取(経口移行も含めた歯科的治療・支援)と感染症対策が挙げられ,看護師等からも歯科医師参画のメリットを指摘する声が聞かれる.また,歯科においてリハビリテーションという考え方は非常に重要であり,マウスガードに関する今後の検証は必要だが,廃用症候群や周術期の問題とも絡めてこの先歯科医師がどう関わっていくかについても,ぜひ推進を深めていきたいと考えている.

「歯科口腔保健の推進に関する法律」の問題点と今後の展望について(北海道・東北地区代表/川野正嗣議員)
 平成23年8月に交付されたこの法律は,国民の生涯にわたる口腔の健康の維持・増進を図るための法的基盤として大変有意義である.しかし,あくまでも理念法であり,実効性や予算の裏打ち等もないことから,どこまで効果が発揮できるか不透明でもある.そこで,①現時点における具体的な推進方法とその効果,②成人検診プログラム等の事業を次年度以降も施策とするか,③予防(重症化予防)として保険への導入可能性はあるか,の3点を伺いたい.
佐藤 保常務理事:現在多角的な広報戦略を打ち出しているところではあるが,具体的には,各都道府県や市町村が行う“さまざまなライフステージにおける歯科検診”が挙げられる.この実施により,集められたデータが国の施策に還元され,地域格差の解消等にもつながると期待する.また,成人検診プログラム等の基本的なモデル事業は今まで日歯で進めてきたが,そもそもこれらは国の事業として実施されるべきものであり,その旨を検討委員会にて主張し調整を続けている.さらに,三次予防の視点を持つと現行の医療保険制度下でも十分に対応できる可能性があるため,同法の具現化はパラダイムシフトよりも現行制度のなかで対応していくほうが得策であると考える.ただ,議論の余地があるのは重々承知しているので,今後も意見をいただきながら進めて参りたい.

歯科用金銀パラジウム合金に交わる代替材料について(埼玉県/島田宗範議員)
金パラ材料の代替え材料に関して(兵庫県/末瀬裕一議員)
 市場価格の変動が激しいにもかかわらず保険収載されている金銀パラジウム合金について,前回の代議員会時に大久保会長から「代替材料についてはまもなく紹介ができる」という旨の発言があったが,その後の進捗状況はいかがか.また,6カ月ごとに見直される告示価格の歯科医療費への推定影響率についても伺いたい.
堀 憲郎常務理事:平成23年12月15日に行われた先進医療専門家会議において,「金属代替材料としてのグラスファイバー補強高強度コンポジットレジンブリッジの治療技術」の届出を行った.今後は所定の手続きを踏まえ,可能な限り早く“先進医療”の位置づけを得て,ゆくゆくは保険への導入を期待している.また,この件以外にも早期の開発が進むよう関連企業に働きかけ,各社からは開発実現に向けて鋭意尽力中という回答を得ているが,企業秘密との兼ね合いもあり一定の段階に至らないとなかなか情報が出せないのはご理解いただきたい.なお,推定影響率については当初,厚労省からは「データがない」との回答であったが,その後も要望を続けて明らかになった資料によると,平成22年については0.4%の上げがあったと認識している.

インプラントに関わる保険適応補綴について(千葉県/渡邉敏弘議員)
 インプラントに関する治療は現在,先進医療で位置づけられた「インプラント義歯」,今回の改定により施設基準を伴う「広範囲顎骨支持型装置及び高範囲顎骨支持型補綴」と「インプラント摘出術」を除けば,外科・補綴を含め自由診療扱いである.一方,昨今の臨床現場ではインプラントを埋入した患者を診る機会も多くなった.しかし現行の制度下では,過去に当該治療を受けた患者が経済的な理由等で保険診療を希望した場合,保険収載の補綴物は適用できないため,審美や機能の不全により患者のQOLが損なわれかねない.将来的な対策を考えるべきではないか.
堀 憲郎常務理事:インプラントの問題に限らず混合診療と誤解されかねないような事案については,当局とも繰り返し議論を重ねている最中ではあるが,通知上での明示は厳しいというのが現状である.特に歯科の場合は,治療を一口腔単位で見るのか,一装置単位で見るのか,一歯単位で見るのか……といった医科とは異なる事情があるため,議論がなかなか難しい.しかし今回の改定を受けて,インプラントの議論は加速させる必要があると感じている.この提言を踏まえて来年度の中医協では行政と問題点を共有しつつ,早めに指標を立てられるよう努力して参りたい.

(2012.03.23)

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