日本老年医学会が認知症の終末期ケアをテーマにシンポジウムを開催
高齢者ケアにおける人工的水分・栄養補給法に関するガイドラインの試案を提示

 
 


シンポジウムの最後に行われたディスカッションの様子.なお,同学会ではガイドラインの試案に関して一般からも広く意見を募っている(URL:http://www.l.u-tokyo.ac.jp/dls/cleth/guideline/index.html,意見の送り先:clinical.ethics.jp@gmail.com ).

日本老年医学会(大内尉義理事長)は12月4日,東京都文京区の東京大学安田講堂において平成23年度老人保健健康増進等事業シンポジウム「認知症の終末期ケアを考える――死生観を見つめて」を開催し,高齢者ケアにおける人工的水分・栄養補給法(artificial hydration and nutrition:AHN)に関するガイドラインの試案を提示した(共催:日本老年社会科学会,日本老年看護学会,日本老年歯科医学会,日本老年学会,東京大学死生学・応用倫理センター).
 認知症の終末期など高齢者ケアの現場において“食べられなくなったときにAHNを導入するかどうか”は,迷い・悩みの多い問題であり,関係者の共通理解を形成することは喫緊の課題とされている.日本老年医学会は,関係学会の合意のもと,AHN導入の問題について検討する委員会およびワーキンググループを立ち上げ,平成23年度老健事業としてガイドラインの作成を目指している.
 ガイドライン試案は,現場の医療・介護従事者がAHN導入をめぐって適切な対応ができるように支援することを目的としており,患者本人や家族と十分に話し合い,全身状態が悪化して医学的に快復の可能性がなく,水分・栄養を補給しても生命維持に役立たず,本人の苦痛を増すだけの場合や,延命効果を認めても本人にとって「益」となるか疑わしい場合は,AHNの撤退(中止ないし減量)という選択肢もあることなどが示されている.
 また,「人工栄養法と看取り医療」をテーマとしたシンポジウムでは,歯科・看護・医科・法律の専門家が講演した.この中で下山和弘先生(東京医科歯科大学・高齢者口腔保健衛生学分野教授)は,口腔の健康が全身の健康に関連する研究,食べる楽しみの喪失が高齢者のQOLに大きく影響することなどを解説.経皮内視鏡的胃ろう造設術(PEG)を導入した場合でも誤嚥性肺炎や口腔乾燥を予防するために口腔ケアは重要であること,また嚥下機能の評価とリハビリを継続して行い,食べることができる“口づくり”の獲得を目指すことが大切ではないか,と述べた.

 歯科はこれまで終末期の患者にかかわることが少なかったが,病院や施設,在宅の現場では,口腔の専門家だからできることは多く,期待する声は大きい.超高齢化社会を迎え,医療・ケアチームの一員として積極的なかかわりが望まれている.


(2011.12.9)

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