去る3月7日,東京歯科大学(金子 譲学長)では,同大学口腔科学研究センター(所長:井上 孝教授)の平成22年度ワークショップ(於:東京歯科大学・講堂)を有意義に開催した.
この口腔科学研究センターは,平成8年度に東京歯科大学が文部科学省(当時,文部省)の「私立大学ハイテク・リサーチ・センター(HRC)整備事業」の対象施設に歯科大学として初めて選定されたのを機に同整備事業の中核をなす研究拠点として開設されたもので,これまでに6つの研究プロジェクト(各研究期間5年)が行われている.
今回,7番目のHRC第7プロジェクト「口腔アンチエイジングによる生体制御」(平成18年度〜22年度)に関する研究成果や,平成22年度よりスタートした8番目のHRC第8プロジェクト「上皮からみた口腔機能の特異性基盤の概要と疾患制御」の進捗状況に関する発表のほか,本年3月末をもって定年退職される下野正基教授(病理学講座)の特別講演「細胞間結合装置と口腔の機能・病態」が行われた.以下,その概要をご紹介する.
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平成22年度をもって終了となる第7プロジェクトについては,コーディネーターの井上 孝教授による概要説明と総括,5つの研究班の代表者による成果発表が行われたが,今回のプロジェクトで得られた研究成果はHRC第9もしくは第10プロジェクトとして研究が進められていく予定であるという.
●研究成果報告:プロジェクト7「口腔アンチエイジングによる生体制御」
1.概要説明……プロジェクト7コーディネーター/井上 孝教授
2.基礎研究班:
①加齢に関与するシグナルタンパクであるミトゲン活性化タンパクキナーゼの電位依存性カルシウムチャネル修飾作用……遠藤隆行先生
②加齢変化における唾液腺および歯髄組織由来Side population細胞の分析……国分栄仁先生
3.活性班:細胞外環境制御によるアンチエイジング機構の解明……加藤靖浩先生
4.予防班:歯周病菌の歯周局所への定着戦略……稲垣 覚先生
5.再生班:ラジアルフロー型バイオリアクターを用いた骨芽細胞様細胞の三次元培養……荒野太一先生
6.総括
続いて行われた下野正基教授の特別講演「細胞間結合装置と口腔の機能・病態」では,40年にも及ぶ研究の原点となったミラノ大学への留学から現在に至るまでの道程を振り返り,研究者としての情熱を若き研究者に継承すべく,熱のこもった講演が行われた.ミラノ大学留学時代に経験した口腔粘膜上皮および唾液腺における細胞間結合装置の構造と分布の透過型電子顕微鏡とフリーズフラクチャーを用いた観察にはじまり,その後の分子生物学的研究の進歩によりデスモゾーム,ヘミデスモゾーム,ギャップ結合,タイト結合の構造分子について明らかにされてきた状況などを踏まえて,結合装置構成分子から口腔組織における機能と病態について解説されたが,時折,今後の研究につながるようなヒントを織りまぜるなど,若き研究者へのエールが感じられる内容であった.
最後に,平成22年度よりスタートした8番目のHRC第8プロジェクト「上皮からみた口腔機能の特異性基盤の概要と疾患制御」の研究進捗状況について,コーディネーターの吉成正雄教授による概要説明のほか,2つの研究グループのリーダーによる研究内容の説明および進捗状況に関する報告が行われた.なお,本プロジェクトは,口腔を「上皮器官」として捉え,口腔機能の常態維持機構,病態発生機構,免疫機構の解明から非感染性ならびに感染性口腔疾患の制御を目指すことを目的としており,基礎研究をもとにした臨床応用研究にまで進展させる予定であるという.
●研究進捗状況報告:プロジェクト8「上皮からみた口腔機能の特異性基盤の解明と疾患制御」
1.概要説明……プロジェクト8コーディネーター/吉成正雄教授
2.上皮機能研究グループ……リーダー/澁川義幸先生
3.免疫機能・トランスレーショナル研究グループ……リーダー/阿部伸一教授
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冒頭の開会挨拶で金子 謙学長が熱く語っていた「臨床応用可能な成果を目指した研究」が垣間見られ,基礎研究から臨床応用に至るまでの“歯科医療の更なる発展”が期待されるワークショップであった.なお,同センターの研究概要等については同大学のホームページ(http://www.tdc.ac.jp/dept/osc/index.html)に掲載されているので,興味のある方はご参照されたい.
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