読後感 『ストレスフリーの歯科医院づくり ─診療環境の見直しで 患者さん・スタッフ・歯科医師 満足─』 を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』10月号に掲載された内容を転載したものです.) むらおかひであき 村岡秀明 今は昔,一人一人の患者さんをゆっくり診たいと思っても,次から次へと押し寄せてきて,詳しく説明する時間もなくてイライラする.そういう時代がありました.そして今,アポイントメントブックが完全に埋まらなくて,将来の不安からイライラしてしまいます.どちらにしても,ストレスからは逃れられないと思っていたのですが,この本を読むと今までとはちょっと違う気持ちになれそうです. はじめに,稲葉繁先生が総論を書いています.それは変化してきている現在の歯科医療環境を十分に把握するためです.この本全体から大いなるものを得るためには,どういう心構えで後半の各論(各歯科医院のストレスフリーの実践例)を読めばよいか,ということです.それはとりもなおさず,これからを生き残るための知恵です. 患者さんは口腔内の健康の向上から,スタッフは職場の環境の向上から,そして歯科医師は,技術の向上と患者さんの信頼から,それぞれストレスフリーが得られそうです.そしてそれを的確に結びつけるものは,お互いのコミュニケーションであるようです.しかしそのためには,低医療費政策に基づいた保険診療という統制から脱却する努力をすべきである,とも説いています. 総論が終わると,各論に入っています.この本は9人の執筆者で書かれていますが,各論は各執筆者自身の歯科医院のシステムとコンセプトの紹介が中心になっています.よく「明日からの診療に役立つ」という表現がなされます.理念はわかるが実際にどうやったらよいのかわからないというのは,われわれ開業医には困ります.しかし,この本は各論がまさに明日からの診療に役立つ実践例なのです.といっても,明日からすぐ真似ができるというわけにはいかないようです.というのは,医院の設備を含めた環境から変えていく必要があるからです.歯科医師とそのスタッフの卓越した技術と心構えが,患者さんの安心感と満足感につながっているのだ,と感じさせられました. この本は,読みやすいです.まず表紙のデザインが良い.表題のフォントもいいし,赤い線が一本入ったHYORONというロゴもいい感じです.カリエスフリーの写真は少し小さすぎる感じもしたけれど,全体的には写真の配置もいいし,字も読みやすいし,本の大きさはもうA4ですね. とにかくこの本からは,各歯科医院の清潔さと患者さんへのやさしさが伝わってきます.そのやさしさは患者さんとスタッフと歯科医師のコミュニケーションからできあがってくるものなのでしょうが,それが編集者に伝わり,こんなにやさしく読みやすい本ができあがったのかもしれません. 各事例を読み進むうちに,101頁に中久木先生がおもしろいことを書いていました.「卒業してから10年,20年の間に行った『勇気ある補綴治療』は,大きなものであればあるほど,今はその姿がない,あれは何だったのか?(中略)実は当時から心配しつつ治療し,それが経過不良となって現れて大きなストレスとなっていたのだ」.この一文,ほんとにおもしろいですね.でも,これが進歩というものかもしれませんね. ほんとうにすべての執筆者の事例が「ああ,自分のところも,こんなにしてみたいなー」と思わせるものばかりです.でも,みんな素敵すぎて「自分はこんなにできないなー」と,ストレスになりそー. |
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読後感 『ストレスフリーの歯科医院づくり ─診療環境の見直しで 患者さん・スタッフ・歯科医師 満足─』 を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』10月号に掲載された内容を転載したものです.) かみうらようじ 上浦庸司 従来,歯科領域の雑誌で『増刊』といえば,治療技術を中心としたものが定番であったように思います.しかし本書のように,いわば“患者さんのサイドに立った”ものが発刊されたのは,まさに時代の要請といえるのではないでしょうか.歯科医師には得てして職人的なところがあるため,技術的なものに比べ,経営や人事に関しては軽視する傾向があると思います.しかし,そのようなことでは立ち行かなくなり,視野を広げなければならなくなりました.また,予防を重視するようになれば,患者さんに継続的に来院していただかなければなりません.そのためには,どうしても“ストレスのない診療室づくり”が必須になってきたのでしょう. 最近は“予防”がトピックのように扱われていますが,予防診療において重要なのはPMTCの技術や唾液検査の説明だけでなく,患者さんが来院したくなるような医院づくりであることを本書から感じました.これには患者さんのプライバシーを守るための個室化や,待ち時間をなくす努力(アポイントシステムや計画的な診療),待合室の雰囲気,スタッフの対応,リコールはがきによるお知らせなど,様々な事柄が関係してくると思います.予防診療を医院に定着させるために,医院の総合力が試される時代が到来したといえるでしょう.本書を通じて,決して特別なことをするのではなく,他のサービス業では当たり前のことを確実に行うことを考えてみたい,と感じました. 当院では今,予防歯科とインプラント治療に力を入れています.そのため,今井先生の第7章「カリエスフリーはストレスフリー─予防を優先した歯科医院の実際」と,渡部先生の第8章「ストレスの少ないインプラント治療」が特に参考になりました. 第7章で今井先生は,歯科医院が指導を授けるという「一方通行」から,患者さんが予防に参加する「共同作業」に変える発想の転換を行ったことで予防の成果が上がった,と述べています.これは大変参考になりました.患者さんの主体的な参加で成果を上げる.そのためには来院しやすいストレスフリーの歯科医院でなければなりません.その成果を表したのがカリエスフリーのこどもたちの写真をまとめた「魔法のアルバム」です.これはとても素晴らしいもので,スタッフと患者さんが同じ目標(カリエスフリー)に向かって頑張っている姿が伝わってきました. また,第8章で渡部先生は,インプラント治療を行う手術室はクリーンルームであるべきこと,費用の説明を行う相談室も個室である必要があることを示しています.さらに,インプラント手術時の静脈内鎮静法の有効性についても触れています.従来の外科手術における“ある程度の痛みは我慢していただく”という感覚を改め,痛みを感じさせない,不快な記憶を残さないという配慮が必要であることなど,より患者サイドに立った診療システム(Patient Oriented System)を構築する必要性を痛感しました. 現在,当院では患者さんに気持ちよく診療を受けていただくために,院内の改装や外科室の充実化などを図っているところです.そんな時期とも重なり,本書からたくさんのヒントを得ることができました.自院を“患者さんが来院しやすい”医院に変えたいと考えている先生には,とても参考になる『増刊』だと思います. |
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