84 第Ⅱ章 MTAの適応から考える臨床活用のポイント患者:15歳の女児主訴:歯茎が腫れて膿が出る.現病歴:■カ月前より前歯が腫れてきた.現症:12間に根尖部腫脹,圧痛および軽度の打診痛を認め,プロービングデプスは全周■〜■mmであった.エックス線写真所見では2の歯根は未完成で根尖孔は近心側に開大しており,同部および12根尖を含む径約■mmの透過像が確認された.瘻管造影ではガッタパーチャポイントは2根尖方向に向かっていた.根尖部に径約■mmの1を含む透過像が確認された.2は失活しており,1には生活反応を認めた.2の歯髄壊死および慢性根尖膿瘍と診断した(図■・図■).治療経過: 初回治療では,■%リドカイン(オーラ注,昭和薬品化工)にて浸潤麻酔後,髄腔開拡ののち小型エキスカベータ(O・Kマイクロエキスカ,背戸製作所)および次亜塩素酸ナトリウム液(歯科用アンチホルミン,日本歯科薬品)にて根管清掃を行い,根尖孔の穿通および根管拡大形成を行い,水酸化カルシウムを単味にて貼薬後,水硬性セメント(キャビトンEX,ジーシー)とグラスアイオノマーセメント(ベースセメント,松風)で二重仮封した. MTAを用いたアペキシフィケーションにおいて留意すべき点として,従来法の水酸化カルシウムの長期貼薬による歯質脆弱化を回避できると考えられるものの,根が菲薄なままであることは変わらないため,歯根破折のリスクが十分に低減されているとはいえない■).また,経過不良例では根尖部に充塡されたMTAの除去を伴う再治療が困難である.一方,パルプ・リバスクラリゼーションにおいて留意すべき点では術後の根管石灰化(62.1%)■)とMTA,抗菌薬,血餅等による歯冠変色(40%)10)が生じる点が挙げられ,術前に患者および保護者に十分な説明が求められる. 根管形態の精査のため,CBCTを撮影したところ,2の根管は近心および口蓋側で開大した状態で根尖歯周組織と交通していた.また,2の歯冠の口蓋側にエナメル質の陥入部を認め,同部の不完全なエナメル質からの感染に伴う歯髄失活が疑われた(図■).歯根形態の成因については根未完成時に陥入部より歯髄上部から徐々に失活し,ヘルトビッヒ上皮鞘は生活性を保持していたものの根尖部歯髄に部分的な壊死が生じた結果,不規則な形態で歯根形成が進行,停止した可能性が推察される. 本症例では短期間で確実な根尖孔の封鎖が期待できる方法として,MTAを用いたアペキシフィケーションにて同部の封鎖を図ることとした.術前に患者と保護者に対して口頭および説明文書にて,MTAの薬機法上の適応外使用について,さらに他の処置を含めた利点と合併症等を十分に説明し,理解と同意を得た.症例Ⅰ:MTAを用いたアペキシフィケーション
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