アドバンスド デンチャー テクニック
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 図₁aは,義歯装着から50年以上使用されている下顎のパーシャルデンチャーである.東京医科歯科大学附属病院補綴科で1971年に装着された. 患者が37歳の時に₇₆₅の片側3歯欠損に対してコバルトクロム床義歯が製作され,その20年後に本学に転院されたことを機に,筆者が担当させていただくことになった.患者は50年の永きにわたり,この義歯を身体の一部のように人工臓器として現在も愛用し続けている. 支持,把持,維持に十分に配慮した本義歯を半世紀も前に設計,製作された補綴医に,筆者は限りない敬意を抱いている.義歯装着から24年後にメタルティースを再度交換し,リベースを行った(図₁b). その後,左側小臼歯部の双子鉤が破折したためろう着修理を行ったが,装着から47年間経過するまで残存歯は1本も喪失せず,顎堤吸収や欠損側隣接歯の動揺もほとんど認められなかった.最近になって,左側大臼歯が歯周疾患により抜歯となったが,増歯修理を行い両側性遊離端義歯として継続使用されている(図₁c). 筆者の知りうる中でも,最長の使用期間を誇る義歯である.では,本パーシャルデンチャーが残存諸組織にほ図1a 義歯装着から50年以上使用されている下顎のパーシャルデンチャーの原型. とんどダメージを与えることなく,長期間継続使用された理由はいったい何であろうか. 一方で,図2aのような義歯も日常臨床で散見することがある.図1のパーシャルデンチャーに比較して,ずいぶんシンプルな義歯設計といえる.たしかに,現行の保険診療ではレジン床義歯が適用されているが,術式や材料だけでなく,義歯設計にも多くの制約が存在し,歯科医師や歯科技工士が望む義歯を提供できない場合が多い. 本義歯を観察すると,₅の屈曲レストは著しく不適合で支持機能はなく,₈には屈曲レストのみが設置され,把持効果は欠如している.また,左側遊離端部の義歯床は著しく小さいことから,粘膜支持や把持は期待できず,その代償として支台歯負担が過大になっている(図2b).加えて,屈曲のリンガルバーにはほとんど強度,剛性が期待できず,機能時には大きくたわむことが予想される. このような義歯は,早期の顎堤吸収と支台歯喪失を誘発し,装着から多年を要さずに義歯の破損,不適合,支台歯の喪失といった統計調査どおりの原因により,使用中止を余儀なくされ,再製作に至ることになるであろう.28設計原則の遵守1.長寿義歯に学ぶ1

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