![]() レーザー治療の有効性が認められ,適応範囲がますます広がる中,本体の小型化・高効率化が進み,最も臨床に導入しやすいと思われるのが半導体レーザーである.その基本性能と効果的な応用法,開発・改良への期待をまとめた. |
![]() 名古屋歯周病談話会の先生方 定例会200回開催おめでとうございます (『日本歯科評論(Dental Review)』12月号に掲載された内容を転載したものです.) まえじま てつや 前 島 哲 也 11月号は名古屋歯周病談話会についての特集で,“1本の歯へのこだわり”として6人の先生方の症例報告がありました.私のような若い歯科医師は,“臨床とはこうしてゆくものだ”という綺麗な道筋を求める傾向にありますが,著者の先生方のように経験豊富な先生が日々悩み,いろいろと模索しながら治療されていることに励まされます. 残根の保存に努めた症例 リスクの高い歯を抜歯してインプラントを埋入するという治療ではなく,抜歯せずにその歯を残すための治療を選択すると,歯科医師だけでなく患者も苦労すると思います.竹内先生の症例では,残根を保存するか否かが補綴設計に大いに関与した症例について述べられていました.一筋縄ではいかない患者とのやりとりのなかで,大掛かりな治療は実際の診療室の雰囲気が伝わってくるかのようでした.歯を残したことで歯根膜の保存が可能となり,最終補綴を固定式にすることができたとまとめられており,経過も3〜4年にわたり良好に保たれていることは,素晴らしいことだと思いました. 細菌検査と臨床 松原先生は細菌検査による診断を行い,抗菌療法による掌蹠膿胞症の治療について書かれていました.先生が行われていた細菌検査(リアルタイムPCR法)は,細菌種の特定や細菌数を計測する検査法です.この検査は,コスト等を考えると臨床にも導入しやすいものと述べられていました. この症例では,慢性炎症性疾患の歯周病が原病巣となり,直接的な因果関係が認められにくい遠隔臓器に二次疾患を引き起こす歯性病巣感染症について書かれています.歯科では各種臨床検査が少ないのが現状ですが,細菌や炎症を対象とする歯周病学においては全身疾患との関係性から,今後こうした検査をより多く行う必要性を痛感しました(歯周病分野において,細菌検査の診断と治療法は徐々に確立しつつあるようですが……). しかしながら,細菌検査を用いた抗菌療法はあくまで補助的療法であり,歯周病治療は高度な初期治療に始まり,通常の外科療法(再生療法含む)などが厳密に行われてこそ効力を発揮する.抗菌療法のみで治癒に導けるものではない,と松原先生が述べられていることが印象に残りました. 生活習慣病としての歯周病 野原先生は臨床のコンセプトとして,(1)細菌性要素,(2)力(咬合性外傷),(3)循環障害(血行障害),(4)免疫障害,の4つの大きな原因因子に分け,原因がどの因子と強くかかわっているかを意識して診療しているとのことでした.今回はこの“4つの因子”いずれとも深くかかわり,歯周病を進行させる環境因子として生活習慣の改善に対する取り組みを述べられていました.歯周組織にとって細菌や力などの外来的な問題が主な原因となる場合は,それぞれの因子の減少を図る治療方針で容易に対応することができるが,従来の対処法では解決がつかない場合は宿主の抵抗力について考察することが大切である,とおっしゃっています. われわれはポケットの測定値やX線写真から診断・治療をしますが,治療が先になり歯周疾患の原因をしっかりと見極めていない(見過ごしている?)ことも少なからずあると思います.そのため,問診の項目,特に生活習慣についてしっかり見直すことは大切です.歯周病は生活習慣病であることを再度認識し,患者の生活背景から疾患の原因究明,生活改善指導を行うことで,治療において良い結果が出ることも大いに考えられると書かれていました. 重度歯周疾患を伴った傾斜歯への対応 後藤先生は重度歯周疾患の症例で,再生療法と矯正治療を併用した症例について述べています.炎症を安定させたあとMTMを行い,その後再生療法により歯周組織の改善をもたらし咬合支持を得たことは素晴らしいと思います.矯正移動後,3カ月の保定ののち,根尖部に及ぶ骨欠損部位に骨補填材で骨を充填するというのは歯周病専門医の治療と言えましょう.症例1では骨欠損が牽引側にあり,矯正治療前に再生療法を行っていましたが,症例2では骨欠損が加圧側にあり骨補填材が異物となる可能性があるため,矯正治療後に再生療法を行っていました.ただし,高度な治療を行う前に必ず歯肉の炎症がないことなど,歯周基本治療の完了が大前提となることを忘れてはならないと感じました. 再植におけるエムドゲインの応用 吉田先生はアンテリアガイダンスを保全するため根尖側再植時にエムドゲインを応用し,術後5年経過しても安定している症例について書かれていました.歯周治療においてアンテリアガイダンスを保存することは,咬合力のコントロールの観点から予後を左右する重要な因子であるとのことでした. 保存が疑わしい歯を抜歯し,インプラント埋入へ,という最近の治療の流れには賛否両論がありますが,歯科医師側に歯牙を保存する努力をさせなくなってしまう危険性を持ち合わせているように思います.日本歯周病学会でも話題になっていましたが,増殖因子GEM21やFGF-2などの増殖因子を使った再生治療においても,足場(scaffolds)としてエムドゲインの適用範囲は広がることでしょう. 自家移植した長期症例 大口先生は残根歯を自家移植し,16年と13年もの長期にわたり安定している2症例を提示し,日常の臨床では安易に抜歯せず歯周組織の保存を図るべきであると述べられています.根分岐部病変3度のへミセクション後の処置にも,こうした歯根を活用できることは患者にとって有益です. 大口先生が自家歯牙移植を成功させるための条件として挙げられているX線所見((1)歯根膜空隙の確認,(2)歯槽硬線の確認,(3)歯根の吸収が認められない),臨床所見((1)歯周組織が正常,(2)咬合時に違和感がない,(3)動揺度に異常がない)の条件は,われわれ経験の浅い若手歯科医師にとって一つの指針となるのではないでしょうか.長期の安定を得るためには,その後のディスカッションにおいて先生も述べられていたように「メインテナンスの徹底が大切」で,その持続は普段の患者からの治療に対する信頼があってこそであると痛感いたしました. 今回の特集を読んで,私のような未熟な者がコメントを書いて大変恐縮ですが,先生方の治療への情熱と知恵が未熟な私にとって勉強となりました.名古屋歯周病談話会の,さらなる発展をお祈り申し上げます. |
![]() 「科学」としての総義歯学の幕開け――10月号特集・誌上シンポジウム 「下顎総義歯 吸着へのチャレンジ」に寄せて (『日本歯科評論(Dental Review)』12月号に掲載された内容を転載したものです.) まつしたひろし 松下 寛 総義歯学へのチャレンジ 臨床科学の重要な分野であるEBMに基づいた歯科医療の重要性が盛んに叫ばれ,歯科雑誌上でもEBMの考えを取り入れた記事が多くみられるようになってきた. ところが義歯,特に総義歯学は術者の技量が予後を大きく左右する分野として,このEBMの流れからはちょっと外れた分野だと思っていた.総義歯に関する記事の多くも,「どういう術式で作るか」の視点が大半ではなかったか.“どういう理由で”この術式を行っているのか,どこが“必要な結果を得るため”の術式のポイントか,そういった記述は総義歯に関しては,皆無とはいわないまでも少ないというのが実際ではなかったか? ところが今回の特集,ちょっとばかり毛色が違う.総義歯という臨床分野を論理的に考察して,一定の原理を確立することを主眼としている.そしてそれが身につけば,材料や手技に左右されずに誰でもが一定の結果を約束できるはず,というポリシーに基づいて論議や臨床例の提示を行ったのである.吸着を中心とした原理の構築までの阿部氏の長い道筋,またそれを実証するために,検証用の患者さんまで用意する手間.「読むは楽」だが準備はさぞや大変だと想像できる.このような画期的な企画を実施した,著者らと編集部へ拍手を送りたい. 自然科学的手法の基本として,「再現性」というものがある.誰が行っても一定の結果が出せること,それがEBMを論議する際の大前提となっているのである.ところが総義歯はそうではない.“誰かがやるたび”“違う結果になる”分野である.われわれ臨床家はそれが至極当たり前のことと思い,経験年数や症例数の蓄積が上手くなるための唯一の要件と思い込んでいた節がある. しかし,著者らはそれに疑問を提示する.経験ではなく,理論の理解とそれに基づいた術式の習得が大事と説く.それは「再現性」への確実な挑戦であり,科学として総義歯を扱うということなのである. 科学としての“壮大な種明かし” リード役の阿部氏のもと,総義歯の作製手法の歴史的な変遷と現場での疑問点が,相互の対話や症例提示の中であぶり出されてくるのは見事というほかない.臼後パッドの吸着への寄与の重要性しかり,閉口印象と開口印象の比較とその歴史しかりである. それらは決して名人芸の披瀝ではなく,かつて「名人芸」と呼ばれたものを敢えて解体し,その奥義を本質論を崩さずに平明に解きほぐす操作なのである.いわば総義歯学の“壮大な種明かし”の様相を呈しているといっても過言ではない. こういったいわば「コツ」の部分をわかりやすく解説することは,総義歯学においてはこれまで積極的に取り組まれてこなかったように私は感じる.いわば“身体で覚えろ”“自分で盗まない奴は駄目”の世界ではなかったか.しかし,一般の科学分野の発展の通例として,原理原則としての「種明かし」や「コツ」を集積させ,学問としての前進を築いてきたことを思えば,阿部氏の姿勢は至極真っ当と評価されるものである. ただし課題もなくはない.それは,おそらく阿部氏も感じていることと思う.一定の結果を得るための理論的な考察を行い,その原理や実際の術式を文章や図表,臨床例で提示したときに,第三者が予備知識なしにそれを読み砕き,再現に取り組んでみて,はたして阿部氏が行ったのと寸分違わぬ結果が得られるかというと,正直まだそれは途上の段階であろう.阿部氏とともに参加された諸先生方の印象例を見ると,同じコンセプトで採取した印象ながらも形態に微妙な違いが現れていることからもそれは窺える. 臨床という現場を文字や図といった媒体に変換したときには必ず伝えきれない情報,失われた情報が存在する.そのために送り手と受け手の間には情報の落差が生じて,結果として第三者が作製した義歯は当初とはニュアンスの違ったものとなる.そのことを阿部氏は痛感しているはずである.ことに総義歯学という分野は,いま流行りの言葉でいえば“クオリア”の集積のような面がある.理論でかなりの部分が追求できるのであるが,まだ最終的な部分は「手先の感触」とでもいったところがものをいうのである. 歯科界の技術的発展へ そう,「種明かし」には臨床的な技量とは別の表現能力が必要とされるのである.ただ話せば伝わるということはありえない.物事の伝達に関して楽天的な観念を持っている人が教えようとすると「これがこうなって……」の抽象論の羅列になってしまう. できるだけ具体的な表現で表そうとすると語彙や比喩,修辞法に長けている必要があるし,何より自らの身体感覚を一度客観視し,それを言語に解読する能力が必要とされる.阿部氏はそれだけの能力のある方であると信じる.今回複数の術者による対談形式を敢えて選んだのも,総義歯臨床の最も伝えにくい部分を,現時点でできるだけ伝達するために相互の会話の中からニュアンスを汲み取れるように,との狙いからであろう. おそらく阿部氏のことであるから,咬合採得,人工歯排列,咬合調整といった分野でも,今まで何となくベテランが“ここが大事”と感じていた部分,それについていっそう詳細を深めながら,同時に平明さに徹した考察を展開していくであろう.それは確実に歯科界の技術的発展につながるものである. 私も,著者らの地道でなおかつ確実な研鑽を範として,義歯全般について歯科医療界の力量向上に,微力ながら尽くしてみたいと思う. |