内容紹介

 菅原準二先生,林 治幸先生,永田 睦先生,渡辺八十夫先生,船津三奈代先生
インプラント矯正の有用性を改めて教えていただきました
(『日本歯科評論(Dental Review)』8月号に掲載された内容を転載したものです.)

かなり まさひこ
金成 雅彦

特集を振り返って
 私は一般開業医ですが,開業当初より矯正治療には自分なりに取り組んできました.さまざまな矯正治療法を学んでは,壁にぶつかりながら今日に至っています.そんな中,恩師である宮島邦彰先生のご紹介により,韓国・テグ市にある慶北大学のKyung教授の元でMIA(Micro Implant Anchorage system)の研修を受ける機会を与えていただきましたが,それ以来,自院の矯正治療の適応範囲が広がったことは言うまでもありません.
 7月号特集「臨床で応用されはじめたインプラント矯正の有用性」を読ませていただいて,改めて近年のインプラントを用いた矯正治療の可能性に驚くと同時に,執筆された先生方の臨床に対する姿勢に敬意を表します.
 まず,菅原準二先生の「インプラント矯正とは?」においては,矯正治療に使用する各種インプラントの歴史的な流れが明解に,またそのタイプ別の分類および特性についてわかりやすく解説されています.近年,シェアを伸ばしつつあるミニスクリュータイプとミニプレートタイプの材質・形状をはじめ,適応症,術式,成功率,合併症,メインテナンスに至るまで解説されており,インプラント矯正をこれからはじめようとしている先生方にとって,とてもわかりやすい内容になっています.“インプラント矯正”という言葉はわれわれ一般開業医の間でも普及しており,菅原先生が定義された用語であったことに感心しました.
 まとめで先生が述べているように,インプラント矯正が世界的にも広がりつつあることは,海外で開かれるインプラント関連の学会に参加するたびに感じているところです.徐々にその適応症が広がり,術式の定義も確立しつつあるように思われます.
 林 治幸先生の「一般開業医が行うインプラント矯正とその有用性」には,われわれ一般開業医が日常で遭遇する症例が多岐にわたり提示されています.遺伝的に歯列不正の患者に対する矯正治療のみならず,生後の歯牙喪失や歯周病などの口腔疾患による歯牙移動に対し歯槽骨レベルで治療を進めています.顎口腔機能の予知性を高めるため,先生がインプラント矯正に積極的に取り組んでおられる姿勢を感じました.
 矯正治療を行うにあたり必ず考慮に入れることは固定源の確保と作用・反作用の原理ですが,これまでの大がかりな矯正治療がインプラント矯正によってどれほどシンプルに考えやすくなったか,先生の症例から実感することができます.インプラント矯正の出現で,一般開業医にとって矯正治療がより身近になっていくように思われます.
 永田 睦先生・蟹江隆人先生・和泉雄一先生による「歯周病患者へのインプラント矯正の応用」には,インプラント矯正治療を用いた歯周病患者に対するアプローチの仕方がわかりやすく解説されています.先生方が紹介された臨床例も一般開業医が日常の臨床でよく遭遇するものばかりです.
 歯周病患者に対し,矯正治療を含めたアプローチが歯周環境を大きく改善することはよく知られています.実際,当院でも成人矯正においてそのような症例によく遭遇し,その予知性に対して患者さんから評価をいただいております.永田先生の術後の結果には,咬合機能の回復のみならず,歯周環境の改善,審美性に至るまで,インプラント矯正の適応の幅広い可能性と診療レベルの高さを感じます.永田先生が提示された症例のように,歯周治療,矯正治療,補綴治療がそれぞれ綿密に施術されていることは,一般開業医であれば誰もがめざす治療ではないかと思われます.
 渡辺八十夫先生・渡辺禎之先生の「インプラント矯正後に上顎側切歯矮小歯のビルドアップを行った症例」では,術前の診査,治療計画,術後の経過がくわしく解説されています.特にセットアップ模型による2つの治療計画の立案ですが,患者さんにとって非常にわかりやすく,先生の日常臨床に対するアプローチの息使いさえ感じられます.また,固定源となるインプラントからの力のモーメントに関する解説は非常に参考となりました.
 最終的な治療結果が「治療計画1」の状態となった時,患者さんの喜びはいかほどのものだったことでしょう.術後の側方面観において,患者さんの口腔周囲筋の緊張がとれて自然な顔貌に変化しているように見えます.さらに,従来の矯正治療における開咬症例の問題点を指摘されていた内容も参考になりました.先生が述べられるように,私も歯の移動に関する基本的なメカニクスをさらに深く理解し,インプラントを適切に植立することで,矯正治療をより快適なものにしていきたいと考えています.
 船津三奈代先生ほか6名の先生方による「歯周病による咬合崩壊へのチームアプローチとインプラント矯正」では,症例ごとに問題点を明確に掲げ,各治療分野の専門医が一致した治療ゴールをめざしており,患者にとって理想的なアプローチが紹介されています.主に矯正歯科の視点からの解説になっていますが,矯正歯科医がチームアプローチの中でいかに症例を検討し,治療を組み立てていくかがわかります.
 歯周治療からはじまり,矯正治療,口腔外科(デンタル・インプラントの植立)と流れていき,最後の補綴学的な修復治療にいかにゴールしていくか,また,修復治療が容易かつ適正に行われるために矯正治療がどのように関わるべきかが示されています.一般臨床医にとっては包括的な歯科診療を行うことが大切であり,先生方の症例がそのことに対する大きなヒントになるように思われます.
一般開業医にとってさらに身近なものになることを望む
 今回,先生方の論文を読ませていただき,自分の日常臨床にとって大いに参考となりました.すべての症例に先生方の臨床に対する真撃な態度を感じ,自らを律する思いです.今後,インプラント矯正がその適応症をさらに広げ,われわれ歯科医師にとっても患者にとっても,大きな手助けになることを望みます.
 最近では,暫間的に使用するインプラントを総称して,最終処置に移行するためのインプラントという意味で“トランジショナル・インプラント”と呼称しつつあります.その中でインプラント矯正が為すべき役割がより明確に定義づけられ,われわれ一般開業医にとってより身近なものになっていくことでしょう.





著者への手紙


木村洋子先生,武田朋子先生,濱 昌代先生,今井真弓先生,吉村理恵先生,先生方の頑張りに“お尻を叩かれた”思いです!
(『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.)

こばやしりさ
小林里佐

 子どもを持つ女性歯科医師として
 私は大学を卒業して8年目の女性歯科医師です.もうすぐ2歳になる長男を1人かかえています.大学を卒業して,都内の歯科医院に勤務したあと,父の診療室で働くようになりました.はじめは仲間と勉強会を作ったり,父と一緒にいろいろな先生の講演会や研修会に出席していたのですが,お腹が大きくなりはじめたころから,そのような勉強の方法はとりにくくなってしまいました.長男が生まれてからは,なおのこと難しくなっています.同時期に,同じく歯科医師である妹にも長男が生まれましたので,双子の子どもを見るように,妹と協力して交代で子どもを“預け,預かり”ながら仕事をしておりますが,診療時間以外の夜間や休日に研修を受講するというのはなかなか大変な状況です.
 そのような中での貴重な情報源は,月刊『日本歯科評論』誌なのですが,6月号に「女性歯科医師はゆく−私の臨床」という女性歯科医師の先生方の特集を見つけた時の,私の驚きと感激はいかばかりであったかご想像いただけますでしょうか.
 木村洋子先生は,大学を卒業した時点ですでに2歳のお子さんがいらしたとのことです.子どもの年齢に関しては現在の私と似ている状況なのに,子育てをしながら勉強し,なおかつ働ける場所を積極的に探しています.さらに,くじけることなくインプラントに挑戦し,アメリカに,ヨーロッパにと留学研修するその意欲とエネルギーに圧倒されてしまいました.もちろん周囲の理解と協力がないとできないことだと思いますが,木村先生には周囲を協力させてしまうオーラが全身から立ち昇っているように感じました.先生の前では,「こんな状況だからできないんだ」というような言い訳は,単なる逃げ口上にしかなりません.本当にすごいと思いました.
 私の夫は,矯正を専門にやっているので,私は父のところで一般診療をしながら,矯正治療については夫に教わりながらやっています.
 濱 昌代先生は床矯正について書かれていました.私はワイヤーを使った矯正しか施したことがないので,濱先生の方法について感想を述べることはできませんが,「萎縮した顎を正しい大きさに拡大し,歯を抜かずに歯が並ぶのに必要なスペースを確保できる」「後退している下顎を前方に誘導し,移動する」「舌などの悪習癖を是正できる」「早期からの治療が可能である」というような利点には,“なるほど”と思ってしまいます.
 床矯正とワイヤー矯正との利点・欠点について夫に意見を求めたところ,「上顎前突にはこの装置,下顎前突にはこの装置,というように,すべての患者さんに同じような治療法を用いるのではなく,個々に適するものは何かを診断し,治療を進めていくのが大切ではないか」と言っており,「緊密な咬合を作るためには,最後はやはりワイヤー矯正の必要を感じる」とのことでした.しかし,濱先生が師事している鈴木設矢先生は,床矯正の専門医として多くの症例を手がけているわけですから,ぜひ鈴木先生の本を読んでみたいとのことでした.
 吉村理恵先生は,包括的な治療の中の矯正治療のあり方について述べられています.今回の症例も歯内療法,インプラント,矯正,歯周外科,審美治療などを含めた全顎的な治療の中で,矯正治療を併用することにより口腔内環境が飛躍的に変化しているのがわかります.私も矯正治療を行うようになってから,“メインテナンスを行えるような口腔内環境を作るという視点が大切だ”と思えるようになってきました.診断力と補綴の技術をもっと研鑽して,吉村先生のような症例を作れるように頑張りたいと思いました.
 今井真弓先生は鳥取県米子市で開業しておられるとのことです.「最終補綴治療はフルマウスをすべてセラモメタルクラウンで……などとは地域的に夢のまた夢かもしれない,とも思っていた」と言われています.私の同級生も都会の診療室に勤務したあと,父親の診療室に帰り数年経ったのですが,「やっぱり田舎は都会と違うよ」と言っていました.でも今井先生の症例を見せていただくと,やはり“できる技術があることが先”だと思います.都会の人だけが歯科治療に理解があるわけではないし,都会の人だけがお金を持っているわけでもありません.都会でやろうが地方でやろうが,できないところには来ないし,できるところには来るんだ,ということが理解できた気がします.私も頑張ります.
 同級生にも女性がけっこういて,最近は,街の中を歩くと,武田朋子先生の「トモコデンタルクリニック」のように,自分の名前を歯科医院名にして,明らかに女性歯科医師がやっているということをわかるようにしたものが見受けられるようになりました.それだけ女性が院長として開業している歯科医院も多くなってきた,ということだと思います. 「女性の特徴って何でしょうか?」.昔は,女性歯科医師というと,男の先生と張り合うような男勝りのいわゆる気丈な先生だったような気がします.しかし,今こそ,女性の歯科医師だからこそできることがあるような気がします.

勇気づけられた言葉
 私は,武田朋子先生が最後に書かれている部分にとても感動し,勇気づけられました.それは,「若き女性歯科医の方々へ」という文章で,ゴルフのティーチングプロが言っていた言葉から女性歯科医師の生き方について教えてくれている部分です.「自己流でゴルフを始めて何年かしてからレッスンを受ける方々のうち,女性は自分の悪いところを率直に認めて早い時期にレッスンの効果が出る.しかし,男性はぐちゃぐちゃになるまで自己流を続け,レッスンに来ても“リセット”するのが大変なんですよ」と言っていたというのです.武田先生は,「卒業後,無我夢中で治療をこなしていく中で,日々の生活をリセットできて,いつでも学ぶことに適しているのは女性かもしれないと考えている.だとしたなら,結婚,出産,育児などを自然に受け入れ,このリセット能力を生かして研修会やセミナーなどへ積極的に出席すべきであると思う.女性の持てる能力を信じて,ぜひ活躍していただきたい」と言われています.
 「背中を押される」という言葉があります.私は優柔不断なところがあって,決断に迷う時,いつも夫に背中を押されて,ということが多いのですが,今回の特集を読んで,「背中を押される」というよりも「お尻を叩かれる」という表現がピッタリだと思いました.いまに私も,今回の女性の先生方のように,月刊『日本歯科評論』誌上に症例報告できるよう頑張りたいと思っています.