![]() 木村洋子先生,武田朋子先生,濱 昌代先生,今井真弓先生,吉村理恵先生,先生方の頑張りに“お尻を叩かれた”思いです! (『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.) こばやしりさ 小林里佐 子どもを持つ女性歯科医師として 私は大学を卒業して8年目の女性歯科医師です.もうすぐ2歳になる長男を1人かかえています.大学を卒業して,都内の歯科医院に勤務したあと,父の診療室で働くようになりました.はじめは仲間と勉強会を作ったり,父と一緒にいろいろな先生の講演会や研修会に出席していたのですが,お腹が大きくなりはじめたころから,そのような勉強の方法はとりにくくなってしまいました.長男が生まれてからは,なおのこと難しくなっています.同時期に,同じく歯科医師である妹にも長男が生まれましたので,双子の子どもを見るように,妹と協力して交代で子どもを“預け,預かり”ながら仕事をしておりますが,診療時間以外の夜間や休日に研修を受講するというのはなかなか大変な状況です. そのような中での貴重な情報源は,月刊『日本歯科評論』誌なのですが,6月号に「女性歯科医師はゆく−私の臨床」という女性歯科医師の先生方の特集を見つけた時の,私の驚きと感激はいかばかりであったかご想像いただけますでしょうか. 木村洋子先生は,大学を卒業した時点ですでに2歳のお子さんがいらしたとのことです.子どもの年齢に関しては現在の私と似ている状況なのに,子育てをしながら勉強し,なおかつ働ける場所を積極的に探しています.さらに,くじけることなくインプラントに挑戦し,アメリカに,ヨーロッパにと留学研修するその意欲とエネルギーに圧倒されてしまいました.もちろん周囲の理解と協力がないとできないことだと思いますが,木村先生には周囲を協力させてしまうオーラが全身から立ち昇っているように感じました.先生の前では,「こんな状況だからできないんだ」というような言い訳は,単なる逃げ口上にしかなりません.本当にすごいと思いました. 私の夫は,矯正を専門にやっているので,私は父のところで一般診療をしながら,矯正治療については夫に教わりながらやっています. 濱 昌代先生は床矯正について書かれていました.私はワイヤーを使った矯正しか施したことがないので,濱先生の方法について感想を述べることはできませんが,「萎縮した顎を正しい大きさに拡大し,歯を抜かずに歯が並ぶのに必要なスペースを確保できる」「後退している下顎を前方に誘導し,移動する」「舌などの悪習癖を是正できる」「早期からの治療が可能である」というような利点には,“なるほど”と思ってしまいます. 床矯正とワイヤー矯正との利点・欠点について夫に意見を求めたところ,「上顎前突にはこの装置,下顎前突にはこの装置,というように,すべての患者さんに同じような治療法を用いるのではなく,個々に適するものは何かを診断し,治療を進めていくのが大切ではないか」と言っており,「緊密な咬合を作るためには,最後はやはりワイヤー矯正の必要を感じる」とのことでした.しかし,濱先生が師事している鈴木設矢先生は,床矯正の専門医として多くの症例を手がけているわけですから,ぜひ鈴木先生の本を読んでみたいとのことでした. 吉村理恵先生は,包括的な治療の中の矯正治療のあり方について述べられています.今回の症例も歯内療法,インプラント,矯正,歯周外科,審美治療などを含めた全顎的な治療の中で,矯正治療を併用することにより口腔内環境が飛躍的に変化しているのがわかります.私も矯正治療を行うようになってから,“メインテナンスを行えるような口腔内環境を作るという視点が大切だ”と思えるようになってきました.診断力と補綴の技術をもっと研鑽して,吉村先生のような症例を作れるように頑張りたいと思いました. 今井真弓先生は鳥取県米子市で開業しておられるとのことです.「最終補綴治療はフルマウスをすべてセラモメタルクラウンで……などとは地域的に夢のまた夢かもしれない,とも思っていた」と言われています.私の同級生も都会の診療室に勤務したあと,父親の診療室に帰り数年経ったのですが,「やっぱり田舎は都会と違うよ」と言っていました.でも今井先生の症例を見せていただくと,やはり“できる技術があることが先”だと思います.都会の人だけが歯科治療に理解があるわけではないし,都会の人だけがお金を持っているわけでもありません.都会でやろうが地方でやろうが,できないところには来ないし,できるところには来るんだ,ということが理解できた気がします.私も頑張ります. 同級生にも女性がけっこういて,最近は,街の中を歩くと,武田朋子先生の「トモコデンタルクリニック」のように,自分の名前を歯科医院名にして,明らかに女性歯科医師がやっているということをわかるようにしたものが見受けられるようになりました.それだけ女性が院長として開業している歯科医院も多くなってきた,ということだと思います. 「女性の特徴って何でしょうか?」.昔は,女性歯科医師というと,男の先生と張り合うような男勝りのいわゆる気丈な先生だったような気がします.しかし,今こそ,女性の歯科医師だからこそできることがあるような気がします. 勇気づけられた言葉 私は,武田朋子先生が最後に書かれている部分にとても感動し,勇気づけられました.それは,「若き女性歯科医の方々へ」という文章で,ゴルフのティーチングプロが言っていた言葉から女性歯科医師の生き方について教えてくれている部分です.「自己流でゴルフを始めて何年かしてからレッスンを受ける方々のうち,女性は自分の悪いところを率直に認めて早い時期にレッスンの効果が出る.しかし,男性はぐちゃぐちゃになるまで自己流を続け,レッスンに来ても“リセット”するのが大変なんですよ」と言っていたというのです.武田先生は,「卒業後,無我夢中で治療をこなしていく中で,日々の生活をリセットできて,いつでも学ぶことに適しているのは女性かもしれないと考えている.だとしたなら,結婚,出産,育児などを自然に受け入れ,このリセット能力を生かして研修会やセミナーなどへ積極的に出席すべきであると思う.女性の持てる能力を信じて,ぜひ活躍していただきたい」と言われています. 「背中を押される」という言葉があります.私は優柔不断なところがあって,決断に迷う時,いつも夫に背中を押されて,ということが多いのですが,今回の特集を読んで,「背中を押される」というよりも「お尻を叩かれる」という表現がピッタリだと思いました.いまに私も,今回の女性の先生方のように,月刊『日本歯科評論』誌上に症例報告できるよう頑張りたいと思っています. |
![]() 六人部慶彦先生・片岡繁夫先生 歯科医師と技工サイドとのコラボレーションの理想像に感激です (『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.) すぎやま ゆたか 杉山 豊 今回,シェードテイキングに関する文献を探してみたのですが,まとまった形での特集が意外に少ないことがわかりました.まず,初めにこのような企画をされた編集部に感謝したいと思います. さて,審美修復治療の成功の要件として,現在さまざまな基準・術式がありますが,シェードテイキングに関しては自分自身の中でも明確な基準・術式が確立していないという現状です.外注技工に委託している当院では,VITAPAN classicalを参考に歯頸部,中央部,切縁部のシェードを技工指示書に書き込み,デジタルカメラで撮影した情報を技工所にメールで送信するのが基本的な方法です. もちろん,それだけでは技工所に情報を伝達することが困難なケースがありますので,そのような場合はシェードテイキングの段階で歯科技工士が立ち会い,患者さんと共にシェードを確認してもらっています.この方法を選択すれば,術者そして患者さんの満足が得られる仕上がりになる可能性が高いのですが,患者さんと技工所とのアポイントの折り合いがつかない場合,また外注の技工所が当院から遠い場合などには,歯科医師が的確なシェードテイキングを行う必要があります. そのような意味で,今回の特集「より確かな色調を求めて――最新・シェードテイキング」は臨床家にとって大変役立つ情報が満載されており,明日からの審美修復治療に直結する内容と言えるものでした. 色調情報をどのように捉えるか 本特集は8論文から構成されていますが,それぞれの内容について,私なりの感想を述べてみたいと思います. 冒頭の片山 直先生の論文では,色の比較やデジタルカメラを使用したパソコンでの調整方法について述べられていましたが,特にPhotoshopとキャスマッチを用いた識別法は大変参考になりました.照明に関する詳細な考察については,私の臨床ではあまり注意を払っていなかったことを実感しました. 次に,田上直美先生・中村光夫先生の論文では,「色の選択→伝達→再現」というステップに沿った考察がなされていました.本文のご指摘のとおり,当院のVITAPAN classicalにはブライトネス順の並び替えに関する文書が添付されていなかったので,早速ケースにその順番を貼り付けて活用しています. そして,田村勝美先生・中川孝男先生の論文では,光の演色と光源について解説されていましたが,聞きなれない「演色」という言葉から考えると,“なるほど”と納得する部分が多々ありました.歯科以外の“色”に関する文献も紹介されていましたので,われわれ歯科医師にとっても新鮮な内容でした. 最新の測色機器を使って 小倉 充先生によるシェードアイNCCの活用例では,メーカーの製品パンフレットにはないオリジナリティーがあり,歯科技工士への修正個所を伝達するためのノウハウについても記載されていて,成功までのヒントが多々感じられました. 山本尚吾先生のVITA Easyshadeを用いた臨床ステップでは,“VITAPAN classicalを使えるVITA社製の測色機器”というメリットがあり,自分の現在の臨床からも距離が近い感じを受けました.ホワイトニングについても術前・術後の評価を行えることは,歯科医師と患者さんとのズレを明確に解決するツールである,と納得できました. 末瀬一彦先生・木下浩志先生によるシェードパイロットの活用例では,Single toneからTriple-zone Measurement,Shade map,Translucency……と全体から細部へフォーカスを移動させるというシェードテイキングの王道に,デジタルの正確さをマッチングさせた,よき指標であるように感じました. 山崎 治先生のクリスタルアイを用いた臨床例では,写真撮影においても細部までのこだわりが感じられ,shadeだけでなくshape,textureともに完璧でした.臨床ステップの一つ一つに,そのレベルの高さがヒシヒシと伝わってくる内容でした. 歯科医師と歯科技工士の理想的な関係 そして,本特集の最後を締めくくる六人部慶彦先生・片岡繁夫先生の論文では,色の基本から解説していただきましたが,“歯科医師と歯科技工士のコラボレーションがここまでくれば完璧なのだろう”という理想像を見せていただいた気がします.写真を見ても超一流のこだわりが随所に見られました.良い色調の表現のためには,歯周組織を含めた環境整備はもちろんのこと,歯科技工士の技量を100%生かせる支台歯形成および印象採得を行うことが,歯科医師にとって当然の義務であることを改めて感じさせられました.症例は「技工士泣かせ」と言われる中切歯の単独修復症例で,文章の一字一句,写真の一枚一枚を脳裏に焼き付けるべき内容でした.1回目よりも2回目のほうが良くなかったなどという行き当たりばったりではなく,一つ一つのステップが階段を上りながら,頂点を極めることを実感しながら仕事をされているのだろう,と感じました. また,客観的な評価を機器で行うだけでなく,術者である歯科医師がトレーニングすることによって主観的評価のレベルアップが可能であること,そして誰よりも活きた天然歯を観察する機会に恵まれているからこそできることも再認識できました. 審美歯科治療達成のために 今回の特集では,“色”に関する基礎的な知識と測色機器を使った臨床例の提示がありましたが,これからの臨床では測色機器を用いた客観的な評価がますます活躍することでしょう.これまで,写真撮影時の露出やストロボの種類,明るさなどによって影響を受けていた歯科技工士への情報伝達が,測色機器を用いたデジタル化された情報となることで,確かな審美修復治療が達成されることを痛感しました. しかし実際には,測色機器を用いて得られた色調情報であっても,すべての歯科技工士が同じように表現するわけではないので,症例数を増やして歯科医師と歯科技工士の特徴を煮詰める必要があると思います.また,オールセラミッククラウンであれば,支台歯のシェードや接着に使用するセメントのシェードを考慮する必要があり,セメントの選択もシェードを生かす大きなポイントになると思います. シェードテイキングが職人的な感覚ではなく,誰もが達成できるようになるという意味で,本特集のタイトルが「より美しい……」ではなく「より確かな……」と付与された気がします.その上で,さらに術者の見る目を向上させるために,測色機器だけに頼らないトレーニングを行うことが,“患者さんの納得が得られる審美歯科治療の達成”につながることを実感した,実りの多い特集でした. |