![]() 六人部慶彦先生・片岡繁夫先生 歯科医師と技工サイドとのコラボレーションの理想像に感激です (『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.) すぎやま ゆたか 杉山 豊 今回,シェードテイキングに関する文献を探してみたのですが,まとまった形での特集が意外に少ないことがわかりました.まず,初めにこのような企画をされた編集部に感謝したいと思います. さて,審美修復治療の成功の要件として,現在さまざまな基準・術式がありますが,シェードテイキングに関しては自分自身の中でも明確な基準・術式が確立していないという現状です.外注技工に委託している当院では,VITAPAN classicalを参考に歯頸部,中央部,切縁部のシェードを技工指示書に書き込み,デジタルカメラで撮影した情報を技工所にメールで送信するのが基本的な方法です. もちろん,それだけでは技工所に情報を伝達することが困難なケースがありますので,そのような場合はシェードテイキングの段階で歯科技工士が立ち会い,患者さんと共にシェードを確認してもらっています.この方法を選択すれば,術者そして患者さんの満足が得られる仕上がりになる可能性が高いのですが,患者さんと技工所とのアポイントの折り合いがつかない場合,また外注の技工所が当院から遠い場合などには,歯科医師が的確なシェードテイキングを行う必要があります. そのような意味で,今回の特集「より確かな色調を求めて――最新・シェードテイキング」は臨床家にとって大変役立つ情報が満載されており,明日からの審美修復治療に直結する内容と言えるものでした. 色調情報をどのように捉えるか 本特集は8論文から構成されていますが,それぞれの内容について,私なりの感想を述べてみたいと思います. 冒頭の片山 直先生の論文では,色の比較やデジタルカメラを使用したパソコンでの調整方法について述べられていましたが,特にPhotoshopとキャスマッチを用いた識別法は大変参考になりました.照明に関する詳細な考察については,私の臨床ではあまり注意を払っていなかったことを実感しました. 次に,田上直美先生・中村光夫先生の論文では,「色の選択→伝達→再現」というステップに沿った考察がなされていました.本文のご指摘のとおり,当院のVITAPAN classicalにはブライトネス順の並び替えに関する文書が添付されていなかったので,早速ケースにその順番を貼り付けて活用しています. そして,田村勝美先生・中川孝男先生の論文では,光の演色と光源について解説されていましたが,聞きなれない「演色」という言葉から考えると,“なるほど”と納得する部分が多々ありました.歯科以外の“色”に関する文献も紹介されていましたので,われわれ歯科医師にとっても新鮮な内容でした. 最新の測色機器を使って 小倉 充先生によるシェードアイNCCの活用例では,メーカーの製品パンフレットにはないオリジナリティーがあり,歯科技工士への修正個所を伝達するためのノウハウについても記載されていて,成功までのヒントが多々感じられました. 山本尚吾先生のVITA Easyshadeを用いた臨床ステップでは,“VITAPAN classicalを使えるVITA社製の測色機器”というメリットがあり,自分の現在の臨床からも距離が近い感じを受けました.ホワイトニングについても術前・術後の評価を行えることは,歯科医師と患者さんとのズレを明確に解決するツールである,と納得できました. 末瀬一彦先生・木下浩志先生によるシェードパイロットの活用例では,Single toneからTriple-zone Measurement,Shade map,Translucency……と全体から細部へフォーカスを移動させるというシェードテイキングの王道に,デジタルの正確さをマッチングさせた,よき指標であるように感じました. 山崎 治先生のクリスタルアイを用いた臨床例では,写真撮影においても細部までのこだわりが感じられ,shadeだけでなくshape,textureともに完璧でした.臨床ステップの一つ一つに,そのレベルの高さがヒシヒシと伝わってくる内容でした. 歯科医師と歯科技工士の理想的な関係 そして,本特集の最後を締めくくる六人部慶彦先生・片岡繁夫先生の論文では,色の基本から解説していただきましたが,“歯科医師と歯科技工士のコラボレーションがここまでくれば完璧なのだろう”という理想像を見せていただいた気がします.写真を見ても超一流のこだわりが随所に見られました.良い色調の表現のためには,歯周組織を含めた環境整備はもちろんのこと,歯科技工士の技量を100%生かせる支台歯形成および印象採得を行うことが,歯科医師にとって当然の義務であることを改めて感じさせられました.症例は「技工士泣かせ」と言われる中切歯の単独修復症例で,文章の一字一句,写真の一枚一枚を脳裏に焼き付けるべき内容でした.1回目よりも2回目のほうが良くなかったなどという行き当たりばったりではなく,一つ一つのステップが階段を上りながら,頂点を極めることを実感しながら仕事をされているのだろう,と感じました. また,客観的な評価を機器で行うだけでなく,術者である歯科医師がトレーニングすることによって主観的評価のレベルアップが可能であること,そして誰よりも活きた天然歯を観察する機会に恵まれているからこそできることも再認識できました. 審美歯科治療達成のために 今回の特集では,“色”に関する基礎的な知識と測色機器を使った臨床例の提示がありましたが,これからの臨床では測色機器を用いた客観的な評価がますます活躍することでしょう.これまで,写真撮影時の露出やストロボの種類,明るさなどによって影響を受けていた歯科技工士への情報伝達が,測色機器を用いたデジタル化された情報となることで,確かな審美修復治療が達成されることを痛感しました. しかし実際には,測色機器を用いて得られた色調情報であっても,すべての歯科技工士が同じように表現するわけではないので,症例数を増やして歯科医師と歯科技工士の特徴を煮詰める必要があると思います.また,オールセラミッククラウンであれば,支台歯のシェードや接着に使用するセメントのシェードを考慮する必要があり,セメントの選択もシェードを生かす大きなポイントになると思います. シェードテイキングが職人的な感覚ではなく,誰もが達成できるようになるという意味で,本特集のタイトルが「より美しい……」ではなく「より確かな……」と付与された気がします.その上で,さらに術者の見る目を向上させるために,測色機器だけに頼らないトレーニングを行うことが,“患者さんの納得が得られる審美歯科治療の達成”につながることを実感した,実りの多い特集でした. |
![]() 三辺正人先生 さらに予知性の高い歯周治療・インプラント治療をめざしましょう! (『日本歯科評論(Dental Review)』5月号に掲載された内容を転載したものです.) こうのかんじ 河野寛二 シリーズ「歯周病患者に対するインプラント治療はリスクか?」(2月号〜4月号)を大変興味深く拝読させていただきました.本シリーズの企画にも加わられた三辺正人先生をはじめ,海外文献を多数引用し質の高い論文を執筆された先生方に敬意を表します.今回はシリーズ企画なので,お1人宛の手紙というより,私が体験したインプラント周囲炎症例を例に「基礎編」「臨床研究・Review編」「臨床編」から要点を引用しながらまとめさせていただきます. 私が体験したインプラント周囲炎 Hさん(60歳,女性)の重度広汎型歯周炎(SGP)に対する抗菌療法,インプラント治療が終了した際,夫(61歳,喫煙なし,全身状態良好)のインプラントが調子が悪いので診察してほしいと依頼があった.7年前に赴任先の他県で埋入して,5〜6年間メインテナンスはしていないということである.診察後の診断名はインプラント周囲炎(PPD=6mm,BOP+,クレーター状骨欠損>2mm)で,CIST(累積的防御療法)のグレードD(抗菌的清掃+全身的・局所的抗菌剤による薬物療法+外科的切除療法が必要)である1,2). ベースライン時(TBI,SC後)に「PCR-IVD法」により炎症部位をペーパーポイント(PP)を用いて細菌検査を行うと,対総菌数比率はAa 菌0.00%,Pi 菌7.10%,Pg 菌57.00%,Tf 菌3.20%,Td 菌2.90%であった.そして抗菌療法(アジスロマイシン:1日1回500mg/3日間)+FMD(Full Mouth Disinfection)を行った後の同部位のPPは,Aa 0.00%,Pi 1.24%,Pg 9.52%,Tf 7.62%,Td 0.00%になった.なお,妻であるHさんのベースライン時の天然歯部位は,PPでAa 0.00%,Pi 0.05%,Pg 1.29%,Tf 0.25%,Td 0.39%であった(判定基準:Aa 0.01%,Pi 5%,Pg 0.5%以上はハイリスクとした). ここで注目される第1点目は,夫婦間の歯周病細菌の水平家族内伝播と天然歯からインプラントへの口腔内伝播である.第2点目は,ベースライン時のHさんの歯周炎天然歯部よりも夫のインプラント周囲炎部のほうが対総菌数比率が一桁以上高い(特にPg 菌)という点,第3点目は,夫に抗菌療法+FMDを行っても正常範囲内に戻らないということである.そして第4点目は,夫のインプラントは埋入7年後,生存はしているが成功はしていないということ,つまりメインテナンスの重要性である. ――これらの点について,シリーズを通して詳しい検討が行われています. 第1点目の歯周病菌の水平家族内伝播については,筆者の経験からも比較的高い確率で起こっていると考えられます3).そして同じ人の天然歯からインプラントへの口腔内伝播では,ほとんどの歯周病菌が同じ遺伝子をもつクローンであることが示されており1),大変有意義な研究といえます. 第2〜3点目については,インプラント構造や形態がインプラント周囲炎のリスク要因になること,つまり粗造な表面形態はオッセオインテグレーションの表面積を増加させるために重要でも,細菌性プラークの付着・保持をも増大させる要因になることが述べられています.これは,アバットメントとフィクスチャーとの接合部の微小間隙(マイクロ・ギャップ)においても明らかとされています4).また,Pg 菌の定着因子である線毛遺伝子(fimA)については,菌体同士を凝集し細胞付着性や侵入性を高め,細胞障害性を惹起して歯槽骨の吸収を起こすこと,中でもfimA ll型が歯周組織へ侵入して破壊する高いビルレンス(毒性)を持っていることが紹介されています5,6).一度インプラント周囲炎になると,インプラントの特異な構造や形態のために,歯周病菌(特に線毛遺伝子を持つPg 菌やAa 菌など)は容易には除菌できないということです.この知見が臨床に活かせるよう,近い将来,開業医でもPg 菌のfimA ll型の細菌検査が可能になることを希望します. 第4点目については,インプラントの成功基準が示され,そして重度歯周炎患者では埋入後5年以上たてばリスクが高くなり,メインテナンスされていなければ成功率(生存率ではない)が10年で60%を切るという海外文献が紹介されています7).その上で,細菌検査(バナペリオ)を用いたインプラント患者のメインテナンスの重要性が説かれています8). 喫煙・遺伝子多型 このほか,『歯周病における喫煙と遺伝子多型(IL-1)の関連』や『メインテナンス良好な集団のインプラント周囲炎のリスク因子としての遺伝子多型と喫煙』という海外文献が興味深く,要約すると,IL-1陽性(リスクが高い)の人は喫煙の量で歯周病やインプラント周囲炎が顕著に進行するということになります9).日本人のSGP患者ではIL-1陽性の保有率は低く,オプソニン化した抗体と,好中球や単球を橋渡しするFcγレセプターの陽性率が高いといわれています3).また遺伝子の解析は単純ではなく,遺伝子より後天的要因によって歯周病のリスクが高くなるともいわれています.しかし,21世紀においては“個の歯科医療”が求められるようになるのではないかと思われ,遺伝子多型検査が可能になることを希望します. 最後に インプラントの晩期失敗には,咬合過重(occlusal overload)とインプラント周囲炎(peri-implantitis)が考えられますが9),後者に関して“歯周病はインプラントに対するリスクである.そのリスクは術前の重症度に比例して高まる”10)という意見に私も賛同します.SGP患者には,インプラント術前治療として細菌検査(PCR-IVD法など)を用いた抗菌療法+FMDが必要と思われます3).そして,インプラントを埋入したすべての患者さんに,細菌検査(PCR法,バナペリオなど)を用いたメインテナンスを行うべきでしょう1,8). 今後も,リスク因子のさらなる解明を待つとともに,さらに予知性の高い歯周治療・インプラント治療をめざしたいと,改めて感じています. 参考文献 (1・2,4〜10は本シリーズ掲載論文) 1)小川比佐誌,五味一博,川崎文嗣,新井 高: インプラントのメインテナンスにおける細菌検査の有用性.臨床研究・Review編(3月号:156-161). 2)吉野敏明,三條直哉:再生治療,インプラント治療におけるハイリスク患者へのアプローチ.臨床編(4月号:82-87). 3)河野寛二,河野浩子:歯周病細菌検査と抗菌療法のその後.デンタルダイヤモンド,32(1):127-137,2007. 4)Asa Leonhardt Bergstrom,Gunnar Dahlen:インプラント周囲炎と歯周疾患.基礎編(2月号:149-156). 5)浜田信城,高橋祐介,梅本俊夫:歯周病と感染??治りにくい歯周病について.基礎編(2月号:157-162). 6)吉野隆司:細菌検査によって歯周病ハイリスク患者の診断は可能か? 基礎編(2月号:163-168). 7)吉野宏幸,吉野敏明,三辺正人:インプラント周囲炎の臨床疫学評価からわかること.臨床研究・Review編(3月号:143-147). 8)児玉利朗:細菌検査を用いたインプラント患者のメインテナンス.臨床編(4月号:88-98). 9)三辺正人,山内理恵:歯周病,インプラントのリスク評価について.臨床研究・Review編(3月号:163-170). 10)二階堂雅彦,里見美佐:歯周病はインプラントに対するリスクか? 臨床編(4月号:72-81). |