著者への手紙


三辺正人先生 
さらに予知性の高い歯周治療・インプラント治療をめざしましょう!
(『日本歯科評論(Dental Review)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)

こうのかんじ
河野寛二

 シリーズ「歯周病患者に対するインプラント治療はリスクか?」(2月号〜4月号)を大変興味深く拝読させていただきました.本シリーズの企画にも加わられた三辺正人先生をはじめ,海外文献を多数引用し質の高い論文を執筆された先生方に敬意を表します.今回はシリーズ企画なので,お1人宛の手紙というより,私が体験したインプラント周囲炎症例を例に「基礎編」「臨床研究・Review編」「臨床編」から要点を引用しながらまとめさせていただきます.

 私が体験したインプラント周囲炎
 Hさん(60歳,女性)の重度広汎型歯周炎(SGP)に対する抗菌療法,インプラント治療が終了した際,夫(61歳,喫煙なし,全身状態良好)のインプラントが調子が悪いので診察してほしいと依頼があった.7年前に赴任先の他県で埋入して,5〜6年間メインテナンスはしていないということである.診察後の診断名はインプラント周囲炎(PPD=6mm,BOP+,クレーター状骨欠損>2mm)で,CIST(累積的防御療法)のグレードD(抗菌的清掃+全身的・局所的抗菌剤による薬物療法+外科的切除療法が必要)である1,2)
 ベースライン時(TBI,SC後)に「PCR-IVD法」により炎症部位をペーパーポイント(PP)を用いて細菌検査を行うと,対総菌数比率はAa菌0.00%,Pi菌7.10%,Pg菌57.00%,Tf菌3.20%,Td菌2.90%であった.そして抗菌療法(アジスロマイシン:1日1回500mg/3日間)+FMD(Full Mouth Disinfection)を行った後の同部位のPPは,Aa0.00%,Pi1.24%,Pg9.52%,Tf7.62%,Td0.00%になった.なお,妻であるHさんのベースライン時の天然歯部位は,PPでAa0.00%,Pi0.05%,Pg1.29%,Tf0.25%,Td0.39%であった(判定基準:Aa0.01%,Pi5%,Pg0.5%以上はハイリスクとした).
 ここで注目される第1点目は,夫婦間の歯周病細菌の水平家族内伝播と天然歯からインプラントへの口腔内伝播である.第2点目は,ベースライン時のHさんの歯周炎天然歯部よりも夫のインプラント周囲炎部のほうが対総菌数比率が一桁以上高い(特にPg菌)という点,第3点目は,夫に抗菌療法+FMDを行っても正常範囲内に戻らないということである.そして第4点目は,夫のインプラントは埋入7年後,生存はしているが成功はしていないということ,つまりメインテナンスの重要性である.
?これらの点について,シリーズを通して詳しい検討が行われています.
 第1点目の歯周病菌の水平家族内伝播については,筆者の経験からも比較的高い確率で起こっていると考えられます3).そして同じ人の天然歯からインプラントへの口腔内伝播では,ほとんどの歯周病菌が同じ遺伝子をもつクローンであることが示されており1),大変有意義な研究といえます.
 第2〜3点目については,インプラント構造や形態がインプラント周囲炎のリスク要因になること,つまり粗造な表面形態はオッセオインテグレーションの表面積を増加させるために重要でも,細菌性プラークの付着・保持をも増大させる要因になることが述べられています.これは,アバットメントとフィクスチャーとの接合部の微小間隙(マイクロ・ギャップ)においても明らかとされています4).また,Pg菌の定着因子である線毛遺伝子(fimA)については,菌体同士を凝集し細胞付着性や侵入性を高め,細胞障害性を惹起して歯槽骨の吸収を起こすこと,中でもfimAll型が歯周組織へ侵入して破壊する高いビルレンス(毒性)を持っていることが紹介されています5,6).一度インプラント周囲炎になると,インプラントの特異な構造や形態のために,歯周病菌(特に線毛遺伝子を持つPg菌やAa菌など)は容易には除菌できないということです.この知見が臨床に活かせるよう,近い将来,開業医でもPg菌のfimAll型の細菌検査が可能になることを希望します.
 第4点目については,インプラントの成功基準が示され,そして重度歯周炎患者では埋入後5年以上たてばリスクが高くなり,メインテナンスされていなければ成功率(生存率ではない)が10年で60%を切るという海外文献が紹介されています7).その上で,細菌検査(バナペリオ)を用いたインプラント患者のメインテナンスの重要性が説かれています8)

 喫煙・遺伝子多型
 このほか,『歯周病における喫煙と遺伝子多型(IL-1)の関連』や『メインテナンス良好な集団のインプラント周囲炎のリスク因子としての遺伝子多型と喫煙』という海外文献が興味深く,要約すると,IL-1陽性(リスクが高い)の人は喫煙の量で歯周病やインプラント周囲炎が顕著に進行するということになります9).日本人のSGP患者ではIL-1陽性の保有率は低く,オプソニン化した抗体と,好中球や単球を橋渡しするFcγレセプターの陽性率が高いといわれています3).また遺伝子の解析は単純ではなく,遺伝子より後天的要因によって歯周病のリスクが高くなるともいわれています.しかし,21世紀においては“個の歯科医療”が求められるようになるのではないかと思われ,遺伝子多型検査が可能になることを希望します.

 最後に
 インプラントの晩期失敗には,咬合過重(occlusal overload)とインプラント周囲炎(peri-implantitis)が考えられますが9),後者に関して“歯周病はインプラントに対するリスクである.そのリスクは術前の重症度に比例して高まる”10)という意見に私も賛同します.SGP患者には,インプラント術前治療として細菌検査(PCR-IVD法など)を用いた抗菌療法+FMDが必要と思われます3).そして,インプラントを埋入したすべての患者さんに,細菌検査(PCR法,バナペリオなど)を用いたメインテナンスを行うべきでしょう1,8)
 今後も,リスク因子のさらなる解明を待つとともに,さらに予知性の高い歯周治療・インプラント治療をめざしたいと,改めて感じています.     


参考文献
(1・2,4〜10は本シリーズ掲載論文)
1)小川比佐誌,五味一博,川崎文嗣,新井 高: インプラントのメインテナンスにおける細菌検査の有用性.臨床研究・Review編(3月号:156-161).
2)吉野敏明,三條直哉:再生治療,インプラント治療におけるハイリスク患者へのアプローチ.臨床編(4月号:82-87).
3)河野寛二,河野浩子:歯周病細菌検査と抗菌療法のその後.デンタルダイヤモンド,32(1):127-137,2007.
4)Asa Leonhardt Bergstrom,Gunnar Dahlen:インプラント周囲炎と歯周疾患.基礎編(2月号:149-156).
5)浜田信城,高橋祐介,梅本俊夫:歯周病と感染??治りにくい歯周病について.基礎編(2月号:157-162).
6)吉野隆司:細菌検査によって歯周病ハイリスク患者の診断は可能か? 基礎編(2月号:163-168).
7)吉野宏幸,吉野敏明,三辺正人:インプラント周囲炎の臨床疫学評価からわかること.臨床研究・Review編(3月号:143-147).
8)児玉利朗:細菌検査を用いたインプラント患者のメインテナンス.臨床編(4月号:88-98).
9)三辺正人,山内理恵:歯周病,インプラントのリスク評価について.臨床研究・Review編(3月号:163-170).
10)二階堂雅彦,里見美佐:歯周病はインプラントに対するリスクか? 臨床編(4月号:72-81). 





著者への手紙


草間幸夫先生・田村勝美先生
CAD/CAMにアナログ(匠の技)を利用する目から鱗の方法には感心しました!
(『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.)

なかがわたかお
中川 孝男

 4月号特集「オールセラミックス修復の形成・接着・研磨」に登場された先生方は,CAD/CAMの現状と臨床術式をよくまとまった文章で述べられており,たいへん興味深く読ませていただきました.そのため,どなた宛に「著者への手紙」を書いたらよいかしばらく迷いましたが,CAD/CAMを所有していない人にも利用できる方法を紹介された草間幸夫先生・田村勝美先生に,お手紙を書くことにいたしました.両先生には,今回はじめてお手紙を書くことになります.

 私の体験から
 私は,3年前にインプラントの工場を見学する機会があり,約3mのチタンの棒からインプラントが製作される際にもCAD/CAM技術が用いられていることを知りました(ちなみに,そこで使用されていた切削機械は日本の時計メーカーのシチズン製でした).この技術により,一般工業界では,設計図のデータから同じ物を数多く生産することが可能になります.一方歯科の場合は,歯科医師が歯を削りそれに合わせるために1つ1つ異なる補綴物や修復物を製作しなくてはならないところに難しさがあります.
 約13〜14年前の勤務医の時代には,医院にある「CEREC」(シロナ社)で光学印象してセラミックのインレーやアンレーの接着を行っていました.ただし,その当時の初代「CEREC」のマージン精度や咬合面形態などは,今日のものとは比べものにならないくらいのクオリティでした.当時,スイスで研修を受けた院長の話では,「窩洞をレジンで充填するのに比べたら,CAD/CAMで製作したセラミック・インレーを接着させたほうが重合収縮を減らすことができる」とのことでした.すなわち,セラミック・インレーが修復物ではなく,インレーの形をしたフィラーと考えれば臨床でも許容できる,という考えです.
 今回の特集により,10年以上の歳月を経てCAD/CAMがめざましい進歩を遂げていると感じました.

 CERECシステムについて
 「CEREC」は本来,支台歯形成,光学印象,セラミックブロックの切削加工,接着までの操作をドクターサイドですべて完結するシステムです.草間先生・田村先生が紹介された「inLab 3D」では,従来の補綴治療における歯科医師と歯科技工士の関係を踏襲する方法になります.すなわち,ドクターサイドでは支台歯形成,印象採得を行います.次にテクニシャンサイドで模型の製作,ワックスアップ後にレーザースキャン,セラミックの切削加工をして,オールセラミックの補綴物ができあがります.この後,咬合器上で咬合調整を行い,ステインとグレーズで個々の患者様のキャラクタリゼーションを行い,完成となります.完成した補綴物はドクターサイドに戻り,メーカーの推奨する接着の手順で補綴物を装着することになります.この方法の利点は,ドクターサイドに「CEREC」が必要なく,費用も機械のスペースも節約でき,導入しやすいシステムだと思います.

 「CEREC 3D」と「inLab 3D」の使い分け
 私は,はじめクリニックで使用している「CEREC 3D」をテクニシャンサイドで使用するのが「inLab 3D」である,と思っておりました.しかし「inLab 3D」は,CCDで光学印象を採得するのではなく,石膏模型をレーザースキャンする方法で支台歯のデータを計測することになります.咬合面の形態は,PCのソフトに3〜4種類用意されており,その中から選択するのがメーカーの推奨する方法です.
 それに対して草間先生・田村先生の方法は,支台歯のデータをレーザーで採得した後に,模型上にてワックスアップを行います.次に,レーザースキャンをして歯冠形態をPCに計測させる方法です.ワックスアップというアナログの作業を入れることで,パターン化された3〜4種類の歯冠形態にとらわれない,個々の患者様にあった歯冠形態の再現が可能になることが,この論文のキーポイントではないかと思われます.
 「CEREC」のセラミックのブロックは,天然歯の耐摩耗性に近似した製品で,対合歯に与える影響は少ないとされています.さらに,工場で製作されているため均一で物性も優れています.その反面,画一化された色となるため,「CEREC 3D」を持っている友人は,審美性が要求される部位では,ステインとグレーズを技工所に依頼する,と言っていました.また,多数歯の歯冠修復や補綴を行うケースにおいては,「CEREC 3D」よりは「inLab 3D」のほうが有利ではないかと思います.「CEREC 3D」を利用して当日完成にこだわるのであれば,院内にラボがあるか,ポーセレンファネスを準備して,歯科医師自らがステイン操作を行うことが必要になるかもしれません.

 CAD/CAMの可能性
 誌面の都合で致し方なかっとは思いますが,草間先生・田村先生にはもう少しドクターサイドにおけるキーポイントについても,ふれていただきたかったと思いました.特に,補綴物の口腔内ステインの方法とポーセレンファネスで焼成することによる変形の問題についてが,私は気になっています.さらに,「inLab 3D」で製作したコーピング(アルミナ,ジルコニア)の臨床例についても,別の機会に紹介されることを期待します.
 口腔内に装着されたクラウンを拝見しても,マージンとフィニシングラインの適合は,歯肉縁下で見えませんが,模型上でその適合の状態を披露していただいたことは,CAD/CAMが臨床において,なんら問題がないことを表しており,たいへん感銘を受けました.