![]() 草間幸夫先生・田村勝美先生 CAD/CAMにアナログ(匠の技)を利用する目から鱗の方法には感心しました! (『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.) なかがわたかお 中川 孝男 4月号特集「オールセラミックス修復の形成・接着・研磨」に登場された先生方は,CAD/CAMの現状と臨床術式をよくまとまった文章で述べられており,たいへん興味深く読ませていただきました.そのため,どなた宛に「著者への手紙」を書いたらよいかしばらく迷いましたが,CAD/CAMを所有していない人にも利用できる方法を紹介された草間幸夫先生・田村勝美先生に,お手紙を書くことにいたしました.両先生には,今回はじめてお手紙を書くことになります. 私の体験から 私は,3年前にインプラントの工場を見学する機会があり,約3mのチタンの棒からインプラントが製作される際にもCAD/CAM技術が用いられていることを知りました(ちなみに,そこで使用されていた切削機械は日本の時計メーカーのシチズン製でした).この技術により,一般工業界では,設計図のデータから同じ物を数多く生産することが可能になります.一方歯科の場合は,歯科医師が歯を削りそれに合わせるために1つ1つ異なる補綴物や修復物を製作しなくてはならないところに難しさがあります. 約13〜14年前の勤務医の時代には,医院にある「CEREC」(シロナ社)で光学印象してセラミックのインレーやアンレーの接着を行っていました.ただし,その当時の初代「CEREC」のマージン精度や咬合面形態などは,今日のものとは比べものにならないくらいのクオリティでした.当時,スイスで研修を受けた院長の話では,「窩洞をレジンで充填するのに比べたら,CAD/CAMで製作したセラミック・インレーを接着させたほうが重合収縮を減らすことができる」とのことでした.すなわち,セラミック・インレーが修復物ではなく,インレーの形をしたフィラーと考えれば臨床でも許容できる,という考えです. 今回の特集により,10年以上の歳月を経てCAD/CAMがめざましい進歩を遂げていると感じました. CERECシステムについて 「CEREC」は本来,支台歯形成,光学印象,セラミックブロックの切削加工,接着までの操作をドクターサイドですべて完結するシステムです.草間先生・田村先生が紹介された「inLab 3D」では,従来の補綴治療における歯科医師と歯科技工士の関係を踏襲する方法になります.すなわち,ドクターサイドでは支台歯形成,印象採得を行います.次にテクニシャンサイドで模型の製作,ワックスアップ後にレーザースキャン,セラミックの切削加工をして,オールセラミックの補綴物ができあがります.この後,咬合器上で咬合調整を行い,ステインとグレーズで個々の患者様のキャラクタリゼーションを行い,完成となります.完成した補綴物はドクターサイドに戻り,メーカーの推奨する接着の手順で補綴物を装着することになります.この方法の利点は,ドクターサイドに「CEREC」が必要なく,費用も機械のスペースも節約でき,導入しやすいシステムだと思います. 「CEREC 3D」と「inLab 3D」の使い分け 私は,はじめクリニックで使用している「CEREC 3D」をテクニシャンサイドで使用するのが「inLab 3D」である,と思っておりました.しかし「inLab 3D」は,CCDで光学印象を採得するのではなく,石膏模型をレーザースキャンする方法で支台歯のデータを計測することになります.咬合面の形態は,PCのソフトに3〜4種類用意されており,その中から選択するのがメーカーの推奨する方法です. それに対して草間先生・田村先生の方法は,支台歯のデータをレーザーで採得した後に,模型上にてワックスアップを行います.次に,レーザースキャンをして歯冠形態をPCに計測させる方法です.ワックスアップというアナログの作業を入れることで,パターン化された3〜4種類の歯冠形態にとらわれない,個々の患者様にあった歯冠形態の再現が可能になることが,この論文のキーポイントではないかと思われます. 「CEREC」のセラミックのブロックは,天然歯の耐摩耗性に近似した製品で,対合歯に与える影響は少ないとされています.さらに,工場で製作されているため均一で物性も優れています.その反面,画一化された色となるため,「CEREC 3D」を持っている友人は,審美性が要求される部位では,ステインとグレーズを技工所に依頼する,と言っていました.また,多数歯の歯冠修復や補綴を行うケースにおいては,「CEREC 3D」よりは「inLab 3D」のほうが有利ではないかと思います.「CEREC 3D」を利用して当日完成にこだわるのであれば,院内にラボがあるか,ポーセレンファネスを準備して,歯科医師自らがステイン操作を行うことが必要になるかもしれません. CAD/CAMの可能性 誌面の都合で致し方なかっとは思いますが,草間先生・田村先生にはもう少しドクターサイドにおけるキーポイントについても,ふれていただきたかったと思いました.特に,補綴物の口腔内ステインの方法とポーセレンファネスで焼成することによる変形の問題についてが,私は気になっています.さらに,「inLab 3D」で製作したコーピング(アルミナ,ジルコニア)の臨床例についても,別の機会に紹介されることを期待します. 口腔内に装着されたクラウンを拝見しても,マージンとフィニシングラインの適合は,歯肉縁下で見えませんが,模型上でその適合の状態を披露していただいたことは,CAD/CAMが臨床において,なんら問題がないことを表しており,たいへん感銘を受けました. |
![]() 榊 恭範先生 歯科衛生士の教育に早くから力を入れてこられた先見の明に感服しました (『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.) たちなみやすはる 立浪 康晴 本誌2月号特集「歯科衛生士の実力アップ“考”」を拝読させていただきました.今回の特集は,榊 恭範先生,鷹岡竜一先生,齋藤 誠先生による3編で構成されていますが,同2月号に掲載されていた石井拓男先生ご執筆の「日本の歯科衛生士の職務の現状」も本特集と関連するものと思われましたので,それらを合わせて「著者への手紙」とさせていただきたいと思います. 4名の先生がそれぞれのご専門の立場から,限られた誌面の中で総論から各論に至るまで,詳細かつ具体的にお示しくださり,大変勉強になりました.とかく「歯科衛生士の特集」では,ある分野に偏りがちになる印象がありますが,齋藤先生の「歯科衛生士と訪問歯科診療の現状」や石井先生の「日本の歯科衛生士の職務の現状」といった分野にまで目を向けられた編集部の姿勢に共感を覚えました.両先生のお考えは,私が常日頃考えていることに限りなく近く,大変うれしく感じられました.この点については,後ほど触れたいと思います. 私はこの春で,開業4年目を迎えます.大学を卒業後,大学病院歯科麻酔科や公立病院口腔外科を経て,開業医での勤務を経験することなく,郷里で父の後を継ぐ形で開業した私にとって,この3年間は苦難の日々でした.日常の臨床はもちろんのこと,難解かつコロコロ変わる保険制度への対応,経理や雇用(労務)など多岐に及びましたが,その中で最も悩まされ,しかも現在進行形なのが「スタッフ教育」です.どんなに院長が高い理想を掲げたとしても,1人では何もできません.“同じ目標”を持ち,さらに気持ちだけではなく“それに見合ったスキル”を兼ね備えたスタッフの存在が必要不可欠です.自分の夢を実現するためには避けては通れない道なのですが,私自身の実力不足もあり,悩んでいました. そのような状況で今回,榊先生の「明確なコンセプトが歯科衛生士を育てる」を拝読したわけですが,まさに今自分が悩んでいる答えのヒントが散りばめられていました. コンセプトを共有する 榊先生は,まず医院のコンセプトを常にスタッフが共有し,意識しておくことが大切である,と述べておられます.私は榊先生のことをもっと知りたくなり,先生の医院のHPを拝見したのですが,やはり最初にコンセプトが掲げられていました. 榊先生の医院のコンセプトである, (1)患者さんとの信頼という人間関係を作る (2)十分に説明し,納得の治療を目指す (3)現時点で提供しうる最高レベルの治療を行う は一見ありふれているように見えますが,実践するとなるとどれも難しいものです.このことに16年も前から気づき,歯科衛生士教育に力を入れ,医院のシステムを作ってこられたことには驚かされました.おそらく,(1)〜(3)のコンセプトを実践するにあたり,規格化された資料収集は必須不可欠であるでしょう.榊先生が示された数多くの症例は,それらをきちんと踏まえておられ,説得力がありました.また,「コンサルテーション」や「プレゼンテーション」を歯科医師ではなく歯科衛生士が行っている,という点にも驚きました. さらに,このシステムが機能するために“各職種がプロフェッショナルとしての責任感を持って仕事を行わなければならない,というプレッシャーがレベルアップにつながる”という点も心に残っています.そして,「トータルスタイル」という概念を説かれ,歯科衛生士である前に“1人の人間としての育成”という高い次元のシステム構築を実践されている点には,ただただ感服するばかりです. 榊先生が16年前に執筆された「患者さんの,患者さんによる,患者さんのための歯科医療を目指して」を読んでみたくなりました.もし,許されることなら,この16年間に感じられたことを追筆され,今回の歯科衛生士教育の詳細を含めた本を執筆していただきたいところですが,ご多忙な榊先生には無理なお願いでしょうか……. 当院のコンセプトは…… 当院では開業時にコンセプトとして, (1) 歯だけではなく,全身の状態を把握しながら,全身の一部としての口腔・歯周組織・歯として接し,自分の歯で一生過ごすための予防,咬合回復,維持を行う (2) お口の健康を通じて,患者さんの全身の健康,そして豊かで幸せな人生を送っていただくためのお手伝いをする の2点を掲げました.現時点では夢のようなコンセプトではありますが,榊先生も述べておられるように「歯科衛生士に夢を語り,自分の理想に向かって努力する姿を見せ」,チームとして研鑽していきたい,と考えています.同時に,まだ未熟ではありますが,私の夢を共有してくれるスタッフと共に成長できることを誇りに感じています. 歯科医師と歯科衛生士はどこに向かうべきか? 歯科麻酔専門医として「安全な歯科治療の普及」や「全身の健康に寄与する歯科」を実現(実践)することは,一歯科医師としての“私のコンセプト”でもあります.高齢者社会を迎えた今,歯科医師と歯科衛生士はどこに向かうべきなのでしょうか? 齋藤先生が取り組んでおられる在宅ケアをはじめ,有病者歯科や障害者歯科の分野では,絶対的にマンパワーが不足しています.当然,予防によって歯を失わないような努力も必要ですが,現実問題として対応が求められる時代となってきているのです. 最近,“口腔ケアや摂食嚥下のプロフェッショナルであるはずのわれわれが,チーム医療から取り残されているのでは?”という危機感を抱くことがあります.また,現実の活動は,一部の先生方の献身的なボランティアによって支えられている感が否めません.これは石井先生が述べておられるように,法的グレーゾーンに歯科衛生士が置かれていることにも一因がある,と考えます.これらの問題をクリアするためにも,診療報酬や法整備等も含めた行政への働きかけや,歯科衛生士学校の教育プログラムの見直し等が必要となるでしょう.そのためには,歯科医師と歯科衛生士は今一度,自分の仕事に誇りが持てるよう努力し,プライドを取り戻すことが必要です. 院長が自ら歯科衛生士の存在意義を感じ取り,時代が歯科衛生士を必要としていることに気づけば,高い志を持った歯科衛生士は自らを育て上げるものと感じますが,いかがでしょうか. |