著者への手紙


山本達郎先生
常に批判的であることの大切さを痛感しました
(『日本歯科評論(Dental Review)』10月号に掲載された内容を転載したものです.)

みや ざき まさ し
宮崎真至

視点を変えることの大切さ
 9月号の特集は「ホワイトニングを応用した,通院したくなる歯科医院づくり」という,開業医にとって極めて魅力的なものでした.掲載された論文のどれもが,それぞれ視点を変えてホワイトニングを掘り下げており,白い歯を求める患者ニーズの拡大に伴って,歯科医師としてこれから持つべきホワイトニング処置に対する考え方や診療への導入法を,さらに明瞭にするために役立つはずと考えます.
 審美歯科に対する誤ったイメージを持つ歯科医師にとっては,ホワイトニングという治療行為は知る必要もない術式なのかもしれません.しかし,歯質を削除することなく白い歯を得ることは口腔の健康を“より向上させよう”という患者サイドの意識の向上にもつながり,前向きな人生を送ることにも貢献することが明らかになっています.医療人として患者の望む治療をするためには,自分の日常の診療を振り返ることによって,現状に満足することなく進歩し続ける必要があると思います.そのためにも常に批判的な精神を持ちながら,自分が行っている処置の正当性を吟味する態度が重要なわけです.
 そのような観点から,「ホワイトニングは,本当に簡単な治療法だったのか」あるいは「ホワイトニングを新しい視点から見つめる」ことの重要性を投げかけた山本先生の論文を,興味深く拝読させていただきました.

ホワイトニング術式の選択
 現在,臨床で行われているホワイトニング法には,歯科医院で行われるオフィスホワイトニング,カスタムトレーを用いるホームホワイトニングおよび併用法であるデュアルホワイトニングがあります.米国では,医師の処方なしに入手可能なOTC製品も販売されており,かなりの市場規模を有していると聞いています.もし私が「これらのいずれの手法を用いるか」と問われた場合,大学病院での診療ということもあり,使用するホワイトニング剤は厚生労働省から認可を受けたもののみですから,自ずと限定されます.したがって,私のホワイトニング臨床のほとんどは,10%過酸化尿素を主剤としたホワイトニング剤を用いたホームホワイトニングになります.
 時々,ホワイトニングに用いている薬剤の濃度を尋ねられることがあり,10%の過酸化尿素と説明すると,「それで白くなりますか」という驚きに似た反応をされる方がいます.たしかに,米国では高濃度で短時間のホームホワイトニング処置が行われることが多くなってきているようで,ホワイトニング剤の主役は過酸化尿素15〜20%濃度の製品にシフトしているようです.こう考えると,日本の大学病院で行われているホワイトニング処置は前時代の方法,といえるのかもしれません.ホワイトニングの即効性は患者も望むことであり,これは施術する歯科医師にとっても歓迎されることです.しかし,高濃度の薬剤を用いたホワイトニングは,処置に伴う知覚過敏を惹き起こします.私個人の意見としては,従来から使用されている10%過酸化尿素という薬剤で2〜4週間を目途にホワイトニングを行うことが,総合的には好ましいと考えています.
 また,日本での未承認製品を,いかに歯科医師個人の責任の下とはいえ,積極的に口腔内に適用することには少々疑問も持っています.この状況がしばらく続くのであるならば,海外製品を入手するルートを持つもののみが患者にとって魅力的なホワイトニングを提供できることになります.もちろん,ホワイトニングの情報収集に対するモチベーションが低い,あるいは全くない場合は論外ですが,時間と労力をかけて承認を受けた国内メーカーの企業努力を蔑ろにするものでもあり,そのような観点からは,歯科医療に関わる全体の問題として総合的に話し合われるべきではないかと考えています.

カスタムトレーデザイン
 ホームホワイトニングでは,カスタムトレーなくしてホワイトニングという処置は不可能であり,カスタムトレーはホワイトニング効果に影響を及ぼす重要な因子となります.しかし,山本先生が書かれているように,そのデザインコンセプトはまちまちで,「指導的立場にありながら統一性がなく,一般臨床医にとっては非常に困惑する」というのが現状です.
 カスタムトレーの素材には,エチレンと酢酸ビニルを共重合した熱可塑性樹脂であるエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)が用いられています.この酢酸ビニルの含有量で素材の性質を変更しており,これが多くなるほど柔軟性を示すようになります.ホワイトニングキットで供給されているEVAシートは,どのメーカーのものを用いてもそれほど差はないように見えますが,それこそ微妙な違いがあるようです.カスタムトレー製作時の加温による軟化を容易にするためには酢酸ビニルを多く添加する必要がありますが,その程度によっては出来上がったカスタムトレーの形態保持能力あるいは剛性が損なわれてしまいます.
 たしかに,薄くて軟らかいカスタムトレーは軟組織の歯肉にも密着しやすく,ノンスキャロップタイプのカスタムトレーに適しています.一方,比較的硬めのカスタムトレーで軟組織を覆うと,機械的刺激によって歯肉に炎症症状をもたらす危険性がありますが,スキャロップタイプにした場合でも変形の危険性は減少します.したがって,トレーデザインを考えるにあたっても,使用するEVAシートの素材との関連性を含めて何らかの検討が必要ではないでしょうか.

安全で確実なホワイトニングを行うために
 安全で確実なホワイトニングを行うことは,歯科医師であれば誰もが望むことです.そのためにも,現在行われている処置法を細部にわたって客観的に検証し,問題点があればそれを是正するという,基本に立ち返ることの必要性が再確認できました.
 最後になりますが,私からの簡単な提案があります.ホワイトニングという処置は,これを受ける患者の立場を十分に理解することから始めるものであることには異論はないと思いますが,これをさらに進めて“患者の個性を重視した”ホワイトニング処置(「Narrative Based Whitening」と表現しようと思いますが)についてディスカッションさせていただく機会を頂戴できないでしょうか.今後とも,臨床医としてのお立場から,あらゆる歯科治療に関するご意見を拝聴できれば……と思っております.



著者への手紙


佐藤雅志先生
さらにレベルの高い要求がなされる
病院歯科を盛り立てましょう!
(『日本歯科評論(Dental Review)』9月号に掲載された内容を転載したものです.)

かとうたけひこ
加藤武彦

8月号の特集論文「病院歯科における義歯調整の意義―全身疾患との関連の中で義歯の役割を考える」を,興味深く読ませていただきました.

 NSTと歯科との関わり
 まずは,「はじめに」の項でNST(Nutrition Support Team)の重要性についてお書きになっておられます.今日的ニーズに対する的確なる把握,慧眼に対して敬意を表します.
 これまでの病院歯科は主に口腔外科の先生方の活躍の場でしたが,時代は変わり,病院歯科に求められる内容も変わってきたように思います.入院患者の栄養を十分確保することにより,免疫機構の回復を助け,早期退院が可能になる……,このことが今,全国の病院でブームとなっていると聞きます.そして,NSTの一員として歯科に求められることは,食べる口をつくる“口腔ケア”と院内往診における“早期の咀嚼機能の回復”(改造義歯で“食べられる”ことの回復)です.
 しかし,NSTの主目的は入院期間の短縮に焦点が向けられており,印象採得,咬合採得,セットなど旧来の補綴学的発想を持ち出していたのでは,チームの要求に十分には応えられないことになるのです.そこでは,即日で義歯を改造し,食べるところを診るというテクニックが必要ですし,同時に,顎位が咀嚼機能の回復とともに変化していく,という考えがなければなりません.つまり,障害を持った高齢者には,“顎位をリハビリテーションする”という考えも必要になってくるわけです.

 総義歯も外せ
 「義歯の誤飲」の項で,“小型の義歯や外れやすい義歯,口腔・咽頭に麻痺がある症例では総義歯でさえも誤飲するおそれがある”と述べられております.私は長年,在宅往診を手がけてきましたが,急性期の病院で総義歯を外され,ティッシュにくるんだ状態のまま,管理者の責任のなさにより,いつの間にか紛失してしまうなど,脳血管障害患者において総義歯が“邪魔者扱い”されている現場を多く見てきました.先生のおっしゃられるように,いわゆる覚醒のない人に関しては,一本義歯などの小型義歯を外すことには賛成ですが,文中に述べられておられるような“総義歯を誤飲した”という事例には未だに遭遇しておりません.
 私は2000年に脳梗塞を患いました.その時の治療としては,ワーファリンの点滴などによる血栓予防と血流を良好にする程度でした.当時,自分なりに注意がけたことは,咀嚼による脳血流量の変化の研究を思い出し,四六時中,空噛みをして脳への刺激を与えよう,ということでした.このような観点から現在,私は東京のK病院で,“どのような条件が整えば総義歯を入れてもらえるか”ということをICUの医師,看護師長と話し合いながら,実践を通して研究中です.その結果,覚醒している患者さんならば,「吸引くるリーナブラシ」(オーラルケア)で徹底的な口腔ケアを行った上で,早い時期から総義歯を入れられることがわかってきました.さらに,小さく砕いた氷を噛ませ,脳に刺激を与えるようなことも行っております.まだ試行錯誤の段階ですが,急性期に義歯を外されたことにより,いわゆる咀嚼機能の廃用を来すのではないかと考え,新しいチャレンジをしているところです.

 義歯難症例
 「義歯難症例」という言葉から想像するものは,下顎が顎堤吸収をしてフラット状になり,そして上顎は,下顎に比べ解剖学的歯槽頂のアーチが狭く,前歯部がフラビーという条件かと思います.しかし,これは90歳の高齢者になれば多く見られる症例で,このような患者さんにインプラントをチョイスできるケースは千分の一程度ではないでしょうか.ましてインプラント埋入後,脳卒中などで口腔ケアができなくなれば,他の問題も多々誘発しそうです.そのため私は,高齢者に対するインプラント治療はよほど慎重に行う必要がある,と考えます.
 それを解決するためには,いわゆる義歯難症例に対応し“噛める義歯”ができる技術を習得しなければなりません.失われた骨を義歯床で補い,人工歯は天然歯の元あった位置で排列し,辺縁封鎖を求めたデンチャースペースに義歯を作る…….そう考えると,超高齢社会に対応できる総義歯は,もはや歯槽頂間線法則だけでは解決がつかないのではないかと思います.

 ま と め
 一般に病院歯科は,外傷,顎関節症,難抜歯など外科手術を伴うものが中心であったために,口腔外科医の活躍の場となっていました.しかし現在,病院歯科に対するニーズに変化が起きています.その一つが,本論文に書かれております“NSTでの活動”ではないでしょうか.その実践のためには,補綴を理解し,リハビリテーションの学問を修めた歯科医師が求められております.特に,リハビリテーション関係の病院では,この傾向が顕著に表れ,私も人選の依頼を多く受けているところです.
 それはなぜかというと,脳血管障害等に伴って咀嚼・嚥下機能に障害を持っておられる方への食支援が歯科界に求められているからなのです.そうした時に,歯科医師としてしなければならないことは,浮き上がらない,落ちない,しっかりとした義歯を装着させて,廃用性機能障害に陥っている口唇や舌などのリハビリをきめ細かく行い,作った義歯が装具として機能するかどうかを確認し,患者さんの口腔機能に合った食形態までも選んで差し上げることなのです.
 このように,今日では口からの栄養確保の道を確実につくってくれる歯科医師が強く求められているのではないでしょうか.病院歯科に対する要求は,さらにレベルの高いものになっていくと思いますが,先生には今後とも,ますますのご活躍を期待いたします.