![]() 10月号特集「レジンによる支台築造を日常臨床でより確かなものにするために」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』11月号に掲載された内容を転載したものです.) いりえひであき 入江英彰 今回の特集では,最近注目のファイバーポストなどを用いたレジン支台築造について,手技上あるいは材料選択における注意など,支台築造法に造詣の深い研究者や臨床家の先生方から,わかりやすい解説がなされており,大変興味深く読ませていただきました. 厚生労働省によるFibreKor の認可以来,私の周囲でもファイバーポストを臨床に導入される先生方が増えてきていることを実感しています.このファイバーポスト併用レジン支台築造法は,これまでに発表されている論文から推察するに,メタルポストによる修復歯が持つ高い破折強度(破折に対する抵抗性)を持ちながらも,万一破折した際には歯頸部付近での破折様相を呈するため再修復しやすい,という画期的な失活歯の治療法といえそうです.このような魅力ある方法の導入を多くの歯科医師が考えるのは,当然の成り行きかと思われます. しかしながら,本法で長期的な好成績を得るためには,さまざまな点で配慮が必要であることが,今回の特集で示されました.適応症の選択,ポスト孔の形成,直接法・間接法の選択,仮着材の除去法,根管内の乾燥法,ボンディング剤とレジンの相性,ポストの表面処理と汚染への注意,等です.本法が「接着」に多くを期待している治療法である以上,これら一つ一つのポイントが重要であることを改めて実感しました. と同時に感じたことですが,これらは,ファイバーポストを用いない従来の築造法においても,接着性レジンで装着する以上,必要な事柄であるということです.最近,何ら表面処理がなされないまま接着性レジンで装着されたと思われる支台築造の脱離症例に出会うことが多くなっている気がします. 今回の特集では,レジン支台築造を成功させるための手技上の注意点が指摘されていますが,臨床上これらに何らかの不足があっても,従来のメタルポストや金属製既製ポスト併用レジン築造ならばトラブルが発現しにくいのかもしれません.それはポスト部とコア部が強固に連結しているからです.しかし,ファイバーポスト併用レジン支台築造法は曲げ強度の低いコンポジットレジンとファイバーポストの組み合わせのため,接着が適切でないと従来の方法よりも補綴物の脱落や半脱離など,不適切な結果に陥りやすいかもしれないと思います. 私たち開業医は,多忙な臨床においてより簡便な方法や省力化を好む傾向があります.特に接着の分野はワンボトル・ワンステップの接着システムが開発されるなど,省力化が進んでいると思われます.しかし小さな手間や注意を省くことで,せっかくのすばらしい治療法に不適切な評価が下されてしまうことがないよう,そして患者さんとわれわれ歯科医師自身の安全のためにも,執筆されている先生方の慎重な姿勢を見習うべきであると感じました.今回は意義深い内容をご教授いただきありがとうございました.これからも,このような失活歯を長く残す治療法のさらなる発展に期待しています. |
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![]() 10月号特集「レジンによる支台築造を日常臨床でより確かなものにするために」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』11月号に掲載された内容を転載したものです.) たけうちきよたか 武内清隆 今回の特集は,3年前の特集(「歯根破折を防ぐ支台築造法」,No.720)の続編として捉え,たいへん興味深く読ませていただきました. 3年前の特集を読む前の私の臨床では,メタルコアの比率が高く,ポスト孔の形成の長さは,歯根の2/3程度で,太さはラルゴバーのno. 2かno. 3を基準に行っていました.臼歯部においては,分割コア等を応用していました. 前回の特集を読んでから,私の臨床においてメタルコアを応用する機会が減り,代わりにレジンコアを用いる頻度が増えました.レジンコアの場合は,便宜的形成を加えないことからコアの保持に有利な歯質を可及的に多く残すことができるため,コア部の保持のために設置するポスト孔の形成を避けることができます.また,ファイバーポスト併用レジン支台築造であれば,歯根破折等のトラブルが生じた際に,その歯の再治療を行える可能性が高くなり,ひいては歯の延命につながるであろうと思いました. レジンコアの術後の経過はどうかと振り返りますと,短い経過ではありますが,いまのところ歯根破折は起こっておりません.しかし,テレスコープの支台に利用したファイバーポスト併用のレジン築造体が,テンポラリークラウン製作時に内冠ごと脱落する,という苦いトラブルを経験しました. このようなことを経験したため,今回の特集で述べられているように,根管内象牙質への接着はやはり非常に難しいと痛感しております.接着システムは材料の選択から接着操作まで慎重な操作が求められるようです.根管の清掃状態,根管清掃剤の残留状態など,確認しづらい項目ですが,今後規格化された検証方法が出現することを期待しています. また,今回の特集を読んでさらなる疑問もわいてきました.ポスト孔を形成する場合,メタルコアのように長さや太さの指標があればよいのでしょうが,レジン支台築造の場合,今ひとつはっきりしません.可及的に歯質の保存を考えるのならば細く短くなるのでしょうが,実際にはファイバー自体が太いものもあることから,自ずと限界があります.さらに,歯質の保存を考えるのなら大部分を接着に依存することになることから,象牙質に対する確実な接着方法についても,もっと詳しく知りたいと思いました. ところで,間接法でファイバーポスト併用レジン築造体を製作した場合,その接着には,コア用レジンで接着する方法と,レジン系セメントで接着する方法が紹介されていますが,どちらをどのようなケースに適用すべきか,疑問が残りました. 筆者は,主にデュアルキュアタイプの支台築造レジンを使用しています.光重合を併用して,マニュアルどおりの硬化時間で行っていますが,特集論文では,硬化時間をマニュアルよりも長めにとられていました.その辺りについても,さらに検証を進めていただきたいと感じました. また,再治療の必要性が出てきた場合,メタルコアや金属ポストの除去に苦労しておりますが,ファイバーポスト併用のレジン築造の場合は,色,堅さが従来のシステムとは違うので,簡単な除去の方法を知りたいと思いました. 失活歯の保護および長期維持に有用であり,さまざまな可能性を秘めた方法ですので,今後のさらなる発展を期待したいと思っています. |
![]() 9月号特集「義歯床精密重合システムを知る――ラボとの有効な連携のために」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』10月号に掲載された内容を転載したものです.) にしばたひでのり 西端英典 今回の特集では,現在高い評価を得ている精密重合システムの大まかな考え方や術式が,それぞれわかりやすくまとめられており,興味深く読ませていただきました. 私の開業当時(15年ほど前),高膨張性石膏を作業模型に使用することでレジンの重合収縮を補償し,義歯の変形が補正されるシステムが脚光を浴びていました.しかし,私も武内論文に書かれているのと同様に,良好な結果が得られず納得できませんでした.そこで,かねてよりユニークな発想に注目していたPVPMシステムを導入し,休日返上で自らレジン重合をしていたことを思い出します.科学的なデータに基づく見解ではありませんが,私が使っていたのは現行の前のバージョンで,PVPMシステムは総義歯に限り良好な結果が得られたと記憶しています. しかし最近はラボまかせで,恥ずかしい話ですが上顎総義歯(レジン床)で「ピッタリで,はずすのも大変です」と喜んで帰った患者さんが翌日,大臼歯部頬側に大きな潰瘍を作ってきたり,上顎総義歯(金属床)で試適まで問題がなかったにも拘わらず,Set時に「アレ?」と思うほど適合が甘くて驚いたことがありました.ホワイトシリコンを入れると「ものすごくピッタリです」といわれ,やむなく再印象したり,両側遊離端金属床義歯の床が不適合のため,アルタードキャスト法のようにして再印象したりと,どうも重合時のエラーとしか考えられない例を幾度か経験しています.こういう経験は私だけでしょうか. 本特集をきっかけに,今一度,各ラボの採用している重合システムを検討してみようと思っています.現在,コーヌス義歯や各種アタッチメント義歯についてはパラジェットシステムのあるラボに依頼しており,星論文に述べられているように,臨床的に良好な結果が得られています. さて,次に本特集のなかで特に印象的だった部分について述べさせていただきます. 星論文の人工歯脱離の話題ですが,“レジン液を塗布することで,レジン歯と床用レジンとの間に化学的結合が得られる”ことが実験で示されており,驚いています.私は重合してしまったレジン同士は化学的に結合しないと思い,今まで微小な機械的結合を期待して,ジクロロメタンで人工歯基底面を溶かしてから重合を行ってきました. また,武内論文で紹介された咬合床の作製法は,簡便でもあり,さっそく応用しています(研磨しすぎると再び変形するようです).ただ,印象採得にアルジネート印象材を使用するという点は,シリコン印象材と違いアルジネートの特性から均一に薄く印象できず,しかも辺縁がアバウトになりエラーが多く発生すると思います.DSシステムでは粘膜面の変形が少ないということですから,なおさらトレーコンパウンドとシリコン印象材で精密に機能印象を作り上げることが重要だと思います. 最後に,内山論文の適合精度の比較実験では,床用レジンを埋没したままの比較はよくわかったのですが,割り出した後の比較がないのが非常に残念に思いました. 以上,各種システムの特徴はよく理解できましたが,今後,ユーザーかつ読者としての希望は,例えば同一の作業模型より複模型を作製し,各々のシステムで重合した義歯モデルを作業模型に戻したものを,内山論文の適合精度比較実験のように時間軸も含めて示していただければ,臨床の参考になり大変有意義であると思います. 今後の続編を期待しております. |
![]() 9月号特集「義歯床精密重合システムを知る――ラボとの有効な連携のために」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』10月号に掲載された内容を転載したものです.) おおおかひろひで 大岡博英 本特集を通して見て,皆さんそれぞれが,義歯床のより良い適合を求めて努力されていることを感じる.一見地味とも思える今回の特集は,冒頭にもあるように“古くて新しいテーマ”をとり上げたものである. 今も昔も,基本的に床用レジンはPMMA(ポリメチルメタクリレート)という有機材料を使用する.PMMAは加工は容易であるが,精密に作ろうと思うと,なかなか思ったようにコントロールし難いマテリアルでもある.また,単体のモノマーと複合体であるポリマーを混合して重合させるという歯科独特の扱い方も,先端技術への道を狭くしていた一因といえる.「義歯の適合」という話題は,よく語られているようでも見逃されがちで,いつも中途半端に帰結していた感は否めない.資本主義経済社会である現在,やはり華やかなインプラントやセラミックに視線が集中するなか,メーカーも重い腰を上げて,遅ればせながら,やっと床用レジンを見直す番が来た,というところだろうか. ところで,口腔内において,本当に“適合の良い”義歯とは一体どのようなものなのであろうか? そのことを論ずるのは簡単なことではないが,今回のテーマは,技工サイドができることとして,印象の状態をいかに再現するかということにポイントをおいている.そこで,各メーカーの精密重合システムのメカニズムを比較しているわけである. 床用レジンには常温重合タイプと加熱重合タイプがあり,物性の問題はともかく,どちらも重合収縮と重合後の熱収縮の問題がある.どのシステムもその収縮を補うことに尽心がみられるのだが,作業模型上でのフィットのみを紹介してもあまり意味がないと思われる.重合時のストレスによる模型の変形だって考えられるからである.印象の状態を再現するということは,実際には作業模型における石膏の膨張と床用レジンの収縮のバランスがとれたかどうかということであって,理想的には超低膨張性の石膏などによる母模型を起こした上でのフィットを検討すべきであろう.また,フィットとは何も内側だけのことではなく,デンチャースペースを正確に補綴するという意味からは(特に下顎の総義歯など),外側のフィットも大切になる. 次に,各論文ともレジン分離材のことにはほとんど触れていなかったが,多少は言及してほしかったところである.さらに,これは各論文で述べられていたことだが,臨床的にはどんなに重合精度が良くても,必ず咬合器にリマウントすべきである. フィットの問題に関してはどのシステムもそれなりにクリアしていると思われるが,筆者が今後の課題と考えていることは,マテリアルの特性としての残留モノマーの問題である.重合時のレジンの収縮をしっかり補填できているか? 単に圧をかけているだけでは問題の解決にはならない.重合が完全に終了するまで補填し続けているかどうかが重要である.残留モノマーがないと謳っているシステムもあったが,そのエビデンスが示されていないのが残念である. 義歯の適合には,可動する粘膜が相手なだけに大変なことも多い.そのほかにもいろいろな要素が複合的に絡み合う内で,せめて模型上でのフィットのみでも完璧になり,ひとつの問題をクリアできるようになったことは大きな進歩である.本特集の企画趣旨にもあるように,歯科医師の方々にもそのことを理解していただき,歯科技工士との連携のもと,日常臨床で大いに精密重合システムを利用していただきたいと思う. |