![]() 7月号特集「最新・コンポジットレジン修復2005―審美性の追求」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』8月号に掲載された内容を転載したものです.) さいとうよしひろ 齋藤善広 今回の特集は,最近のコンポジットレジン修復についての総括がなされており,また臨床の問題点について手技の勘所が解説されていて,わかりやすい内容であったと思う.診査・診断,窩洞形成,防湿と歯肉圧排,表面処理,接着システム,レジンペーストやフロアブルレジンの選択,色調コントロールとカスタマイズ,賦形の方法,研磨,の各ステップでの最大の気配りが,MIにおける審美的・機能的な最大効果を生むと理解できた. 以下,いくつか興味をひいた点を雑感として述べてみたい. 接着システム雑感 最近はワンボトルセルフエッチングシステムが使われることが多いが,実際にはリン酸エッチングとの併用が多く行われている.長期的な観点からも未切削エナメル質に対するエッチングを行ったほうが良い1)とされており,窩洞に付与したベベルのさらに辺縁のマイクロベベルとして審美的な要件にも役立っている. 現在の各社接着システムの性能は十分満足できるものだが,今後は日常臨床の悪条件下でも操作性がよく,象牙質によく接着し,長期的に安定した製品が生き残るものと思う.各社製品の性能が同一誌面上で比較できるものがあれば注目したい. 色調雑感 私の臨床でもマルチレイヤー法によって天然歯に近い修復を試みるのだが,積層するほどに明度が落ち,天然歯との差が歴然としてくるように思う.その原因として,エナメルプリズムという天然歯に備わった光の乱反射機構が,コンポジットレジンにはないことが考えられる.自院の写真評価では,撮影時の強いフラッシュ光が歯牙後方の口腔内暗部を拾うことがないので,実際に天然光で見た場合よりもかなり色調がごまかされるようである.この点を踏まえ,メーカーごとに色調の再現を比較するような機会があれば興味深い.臨床現場では,他社のレジンを組み合わせたり,通常の積層法を用いないなど,発想の転換が必要なのかもしれない. ディテール雑感 かつての「削って詰める」だけの時代から,「ひとつの修復にどれだけの考えを凝縮させ,いかにディテールにこだわったか」が評価される時代へと変遷している.また,MIとしてのコンポジットレジン審美修復は,材料の進歩と技術精度の向上があって成し得るものであろう.術者は,患者の満足と評価を得るために努力し,テレスコープやマイクロスコープを用いて,さらに微細な領域に踏み込んでいる.機能を備えたシュールレアリスムの世界である.
1)秋本尚武,桃井保子:レジン接着システムの現状.日本歯科医師会雑誌,57(1):17-23,2004. |
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![]() 7月号特集「最新・コンポジットレジン修復2005―審美性の追求」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』8月号に掲載された内容を転載したものです.) くぼきひろあき 久保木寛朗 今回の特集を読んで,「えっ,これがコンポジットレジンの修復?」と思うほど衝撃的だった.特に諸先生方の審美的なコンポジットレジン修復には大変驚かされた. 私の臨床経験では,コンポジットレジン修復は,術直後には患者さんからも喜ばれ満足を得られるのだが,経年的に観察していくと色調の変化の問題から決して審美的であるとはいえない結果に遭遇することがあった.また,重合収縮や接着の問題によりマイクロギャップが生じたことから,歯質とコンポジットレジンとの境界部分に着色が起きたり,最悪の場合には辺縁微小漏洩により細菌が侵入し,二次カリエスを生じてしまうという悲しい結末に遭遇したこともあった. そのような苦い経験からなのか,以前はコンポジットレジン修復に対してストレスを感じていたと同時に,軽視していた側面もあった.コンポジットレジン修復はtechnique-sensitivityが高いため,私自身のテクニカルな問題もあったのかもしれないが,物性や接着などにおいて限界があったことは否定できない. では,コンポジットレジン修復ではなくインレー修復のような間接修復,特に審美性を追求するインレー修復では,ある程度,歯質の犠牲をはらうことになる.つまり,MI(Minimal Intervention)の概念に逆行することになる.そこで,またストレスを感じ,“なんとかならないものだろうか?”と思っていた. しかし,ここ数年のコンポジットレジンの物性や接着の飛躍的な向上により,コンポジットレジン修復に対する私のそのような考えを見直さなければならない,とも感じていた.そこで,もっと積極的にコンポジットレジン修復を活用しようと思い始めていたのだが,各社からさまざまな製品が開発・発売されていて,いざ臨床に導入するにあたり,どの種類を,どのような症例で,どのように活用すればよいのか,が今一つわからなかった. そんな暗中模索を繰り返している最中だったため,今回の特集は大変興味深く読ませていただいた.
使用する材料は新しい製品のためか,長期的な経過がみられないのは残念であったが,充填後の表層のレジンが未重合であるということや研磨に対する自分の認識不足への反省,ストリップスをそのまま使うのではなくプレカーブを付与したストリップスの使用,小筆やシリコンパテの利用など,私の臨床において改善すべき点が多くあり,大変参考になった.そして,今まで以上にコンポジットレジン修復に対する期待が高まってきた. フロアブルレジンが登場したことで,レジンペーストを単一で充填するのではなく,各々の物性の利点や欠点を把握し,症例に応じて適切に活用することによって,日常臨床での応用範囲が拡大されるであろう. コンポジットレジン修復が患者さんにとっても,われわれ術者にとっても有益な修復処置になることを期待するとともに,今後のさらなる発展と可能性に期待したい. |
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![]() 6月号「『内科的う蝕治療』への転換に向けて」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.) とやまやすおみ 外山康臣 う蝕予防を考えるとき,最も注目すべき事項が要領よくまとめてあり,大変興味深く読むことができた.う蝕予防では3つの過程をおこなわなければならない.1番目は,カリエスリスクの高い人に対し,適切と思われる検査をおこない,結果を本人や保護者によく理解してもらうことである.2番目は,PMTCであり,フッ化物の直接歯面塗布をおこない,患者さんに合った正しいブラッシング方法を習得していただくことである.3番目は,カリエスリスクの高い検査結果の人にはフッ化物の直接歯面塗布のほかに科学的な予防法をおこなうことである. GPにおいては1,2番目については,あまり問題はないと思う.各個人のカリエスリスクを,十分理解してもらうにはそれほど困難ではないと思う.3番目は,予防プログラムが必要な患者さんに,最も良い方法を選択しなくてはならない.また,このプログラムを実行するには患者さんの理解と協力が不可欠である. キーワードは内科的う蝕治療,除菌のメカニズム 定期健診を受け,その後,長年にわたり良好に経過をたどる患者さんはずいぶん多くなった.正しいブラッシングの習得と食生活の改善がおこなわれた患者さんにとって,「カスタムトレー」の使用は,予防処置として受け入れやすい方法であろう.う蝕の治療や歯周疾患治療において,治療初期にブラッシング指導をおこなうことにより,治療中はいったんプラーク付着が改善の方向に向く.しかし治療が終了すると,プラーク付着は治療前の状態にもどることがよくある.カリエスリスクが高いとき,治療終了後何年かすると,歯根面カリエスなど困難な再治療に直面することがある.「悪くなったら歯医者に行く」というタイプの人や高齢者の患者さんには,ミュータンス連鎖球菌の選択的除菌を継続していくことはかなり困難なプロセスであり,今後GPがどう取り入れるかであろう. 再石灰化のメカニズム,キシリトール,唾液緩衝能 COについては学校保健に導入されたため,学校健診の事後措置において,子供と保護者に,エナメル質の再石灰化を理解してもらう機会がふえた.フッ化物の局所塗布やフッ化物洗口をおこなうには,エナメル質の再石灰化や唾液の話は欠かせない.COの指導のときにPMTCをおこなうが,経過観察するとプラークの急速な成長に驚くことが多い. このような症例では当然ながら,バイオフィルムの形成成熟も早いと思われる.ブラッシングの変化に何かきっかけがほしいと思い,ある中学生の患者さんにブラッシング法とキシリトールガムの併用をおこなった.1週間後,慢性的に付着していた歯垢がみごとに取れていたことを経験した.キシリトールを取り入れた予防プログラムもさらなる確立を望みたい. 人々は歯科と内科が近いと感じている 患者さんの多くは歯科診療が内科診療と同じように身近な存在と考えている.「歯医者へ行くとすぐ歯を削られる」というイメージであったならば,「歯科と内科が近い」とは言えない.「かぜ」と同じように「虫歯」は身近な予防すべき病気であることを改めて認識した. 予防のウエートがますます高くなり普遍的な医療となるならば,受診しやすい健康保険制度への導入も必要であろう.「内科的歯科」という言葉を患者さんからもGPからも支持される概念として考えてみる必要がある,と感じた. |
![]() 6月号「『内科的う蝕治療』への転換に向けて」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.) ふかいかくひろ 深井穫博 内科治療と外科治療 2004年4月から「第三次がん10カ年総合戦略」がスタートした.がん対策には,予防から早期発見,治療水準の向上,在宅ケアの充実までの一貫した政策が必要である.現在,日本人の死因の第1位を占めるのががんであり,その数は年間30万人を超える.一方,医学・医療技術の進歩によって治療成績は年々向上し,国立がんセンター中央病院の入院暦年別5年生存率(男性)をみると,「1962年〜1966年」に29.5% であったものが「1992年〜1996年」では58.1% にまで改善している.しかしこのなかで,膵癌のように5年生存率で今なお男性14.9%,女性19.0% という難治性のがんもある1). 治療法には,病巣の切除を中心として,化学療法・放射線療法がある.一般的には,前者を外科治療,後者を内科治療として治療の選択が行われる.この前提にはがんの進展度に基づく治療指針があり,最も大事なことはその診断である. 診断・治療・評価の体系化 がん治療における腫瘍マーカーによる検査や画像診断の技術の進歩はめざましく,この精度の向上が,早期発見と治療評価にも活かされている.治療法の選択は,患者の同意を得て行われ,治療に関わる体系は,保健情報・医療情報として,医療側と患者側で共有されている.患者側からすれば,病名,病態,治療法,予後などが具体的に示されなければ,治療への同意も病気に立ち向かうこともできない. このがん治療に関わる医療費は2兆7189億円である.それに対して,歯科医療費は2兆5882億円とわずかに少ない2).病態や罹患率が異なるがんと歯科疾患を単純には比較できないが,問題となるのは果たして歯科治療に診断・治療・評価の体系化がどこまで行われているかということである. う蝕治療のアウトカムとインフォームド・コンセント インフォームド・コンセントが浸透している現在では,患者に事前の説明なしに抜歯や歯の切削を行うことは極めて希なケースだろう.しかし,歯科医師側の説明と治療の成果を生活機能の側面から評価することには課題も多い.また,口腔疾患の全身への影響や生命予後との関係も研究成果として徐々に蓄積されてきているが3),歯科治療の成果としての検証は十分ではない.う蝕と歯周病に代表される口腔疾患は,食べるかぎり,乳幼児から高齢者にいたるまでの生涯にわたって発病のリスクが伴う.そのため予防にも治療成績の向上にも,口腔保健行動の啓発が重要であり,そのための医療情報の共有に基づく患者側の自己決定を支援する方策が求められている. 意志決定の共有 治療の体系化は必須である.しかしこれは完成を意味しない.体系化は医療におけるstate of the art として常に進化するものである.その積み重ねのなかで医療の質は向上するものであり,患者側も治療の選択を行うことができる.「内科的う蝕治療」と表現するよりも,現時点でのう蝕治療の体系化をまず試みることが重要であろう. 文献 1)国立がんセンター:国立がんセンター中央病院内がん登録, http://www.ncc.go.jp/jp/information/chiryo_seiseki.html 2)厚生労働省大臣官房統計情報部:平成14年度国民医療費の概要, http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/02/index.html 3)深井穫博:歯の保存状態と生命予後との関連についての疫学的研究.厚生労働科学研究「高齢者に対する口腔ケアの方法と気道感染予防効果等に関する総合的研究」報告書,107-122,2005. |