読後感


6月号「『内科的う蝕治療』への転換に向けて」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.)

とやまやすおみ

外山康臣

 う蝕予防を考えるとき,最も注目すべき事項が要領よくまとめてあり,大変興味深く読むことができた.う蝕予防では3つの過程をおこなわなければならない.1番目は,カリエスリスクの高い人に対し,適切と思われる検査をおこない,結果を本人や保護者によく理解してもらうことである.2番目は,PMTCであり,フッ化物の直接歯面塗布をおこない,患者さんに合った正しいブラッシング方法を習得していただくことである.3番目は,カリエスリスクの高い検査結果の人にはフッ化物の直接歯面塗布のほかに科学的な予防法をおこなうことである. 
 GPにおいては1,2番目については,あまり問題はないと思う.各個人のカリエスリスクを,十分理解してもらうにはそれほど困難ではないと思う.3番目は,予防プログラムが必要な患者さんに,最も良い方法を選択しなくてはならない.また,このプログラムを実行するには患者さんの理解と協力が不可欠である.
キーワードは内科的う蝕治療,除菌のメカニズム
 定期健診を受け,その後,長年にわたり良好に経過をたどる患者さんはずいぶん多くなった.正しいブラッシングの習得と食生活の改善がおこなわれた患者さんにとって,「カスタムトレー」の使用は,予防処置として受け入れやすい方法であろう.う蝕の治療や歯周疾患治療において,治療初期にブラッシング指導をおこなうことにより,治療中はいったんプラーク付着が改善の方向に向く.しかし治療が終了すると,プラーク付着は治療前の状態にもどることがよくある.カリエスリスクが高いとき,治療終了後何年かすると,歯根面カリエスなど困難な再治療に直面することがある.「悪くなったら歯医者に行く」というタイプの人や高齢者の患者さんには,ミュータンス連鎖球菌の選択的除菌を継続していくことはかなり困難なプロセスであり,今後GPがどう取り入れるかであろう.
再石灰化のメカニズム,キシリトール,唾液緩衝能
 COについては学校保健に導入されたため,学校健診の事後措置において,子供と保護者に,エナメル質の再石灰化を理解してもらう機会がふえた.フッ化物の局所塗布やフッ化物洗口をおこなうには,エナメル質の再石灰化や唾液の話は欠かせない.COの指導のときにPMTCをおこなうが,経過観察するとプラークの急速な成長に驚くことが多い.
 このような症例では当然ながら,バイオフィルムの形成成熟も早いと思われる.ブラッシングの変化に何かきっかけがほしいと思い,ある中学生の患者さんにブラッシング法とキシリトールガムの併用をおこなった.1週間後,慢性的に付着していた歯垢がみごとに取れていたことを経験した.キシリトールを取り入れた予防プログラムもさらなる確立を望みたい.
人々は歯科と内科が近いと感じている
 患者さんの多くは歯科診療が内科診療と同じように身近な存在と考えている.「歯医者へ行くとすぐ歯を削られる」というイメージであったならば,「歯科と内科が近い」とは言えない.「かぜ」と同じように「虫歯」は身近な予防すべき病気であることを改めて認識した. 
 予防のウエートがますます高くなり普遍的な医療となるならば,受診しやすい健康保険制度への導入も必要であろう.「内科的歯科」という言葉を患者さんからもGPからも支持される概念として考えてみる必要がある,と感じた.




読後感


6月号「『内科的う蝕治療』への転換に向けて」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』7月号に掲載された内容を転載したものです.)

ふかいかくひろ
深井穫博

内科治療と外科治療
 2004年4月から「第三次がん10カ年総合戦略」がスタートした.がん対策には,予防から早期発見,治療水準の向上,在宅ケアの充実までの一貫した政策が必要である.現在,日本人の死因の第1位を占めるのががんであり,その数は年間30万人を超える.一方,医学・医療技術の進歩によって治療成績は年々向上し,国立がんセンター中央病院の入院暦年別5年生存率(男性)をみると,「1962年〜1966年」に29.5% であったものが「1992年〜1996年」では58.1% にまで改善している.しかしこのなかで,膵癌のように5年生存率で今なお男性14.9%,女性19.0% という難治性のがんもある1). 
 治療法には,病巣の切除を中心として,化学療法・放射線療法がある.一般的には,前者を外科治療,後者を内科治療として治療の選択が行われる.この前提にはがんの進展度に基づく治療指針があり,最も大事なことはその診断である.
診断・治療・評価の体系化
 がん治療における腫瘍マーカーによる検査や画像診断の技術の進歩はめざましく,この精度の向上が,早期発見と治療評価にも活かされている.治療法の選択は,患者の同意を得て行われ,治療に関わる体系は,保健情報・医療情報として,医療側と患者側で共有されている.患者側からすれば,病名,病態,治療法,予後などが具体的に示されなければ,治療への同意も病気に立ち向かうこともできない.
 このがん治療に関わる医療費は2兆7189億円である.それに対して,歯科医療費は2兆5882億円とわずかに少ない2).病態や罹患率が異なるがんと歯科疾患を単純には比較できないが,問題となるのは果たして歯科治療に診断・治療・評価の体系化がどこまで行われているかということである.
う蝕治療のアウトカムとインフォームド・コンセント
 インフォームド・コンセントが浸透している現在では,患者に事前の説明なしに抜歯や歯の切削を行うことは極めて希なケースだろう.しかし,歯科医師側の説明と治療の成果を生活機能の側面から評価することには課題も多い.また,口腔疾患の全身への影響や生命予後との関係も研究成果として徐々に蓄積されてきているが3),歯科治療の成果としての検証は十分ではない.う蝕と歯周病に代表される口腔疾患は,食べるかぎり,乳幼児から高齢者にいたるまでの生涯にわたって発病のリスクが伴う.そのため予防にも治療成績の向上にも,口腔保健行動の啓発が重要であり,そのための医療情報の共有に基づく患者側の自己決定を支援する方策が求められている.
意志決定の共有
 治療の体系化は必須である.しかしこれは完成を意味しない.体系化は医療におけるstate of the art として常に進化するものである.その積み重ねのなかで医療の質は向上するものであり,患者側も治療の選択を行うことができる.「内科的う蝕治療」と表現するよりも,現時点でのう蝕治療の体系化をまず試みることが重要であろう.

文献
1)国立がんセンター:国立がんセンター中央病院内がん登録,
http://www.ncc.go.jp/jp/information/chiryo_seiseki.html

2)厚生労働省大臣官房統計情報部:平成14年度国民医療費の概要,
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/02/index.html

3)深井穫博:歯の保存状態と生命予後との関連についての疫学的研究.厚生労働科学研究「高齢者に対する口腔ケアの方法と気道感染予防効果等に関する総合的研究」報告書,107-122,2005.



読後感


5月号特集「特性を活かしたレーザーの臨床応用に向けて― Er:YAG レーザーの現在」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)

はら しげき

原 茂樹

 歯科用レーザーが日常臨床に比較的よく応用されるようになり,患者さんの中にも最初からレーザー治療を希望して来院される方が増えてきたように思います.一方,現在では各メーカーからさまざまな波長のレーザーが販売されており,歯科医院として導入を考える際には迷われる方も多いと思います.
 私の場合は,勤務医時代の医院でNd:YAGレーザーをほとんど毎日使用していたため,日常臨床で欠かせないものになっていました.そんな経緯から4年前の開業時にも迷うことなくレーザーを導入しました.当時はEr:YAGレーザーは“硬組織を切削するタイプ”という認識が強く,歯周治療に重きを置いている私としては,幅広く処置ができると実感していたNd:YAGレーザーを選択しました.現在もさまざまな処置にレーザーを用いており,知覚過敏や麻酔作用,根管治療や耐酸性の向上はもとより,歯周治療においてかなりの改善効果を上げています.
 今回の特集を読ませていただき,Er:YAGレーザーの研究が進み,ずいぶん幅広い処置に対応できる,魅力的な機器になってきたように思いました.以下,各分野への応用について感じたことを述べてみます.
歯内療法への応用:根尖切除等にかなり有用性を感じました.ただ,根管形成はレーザーのみで行えればとても便利だと思いますが,形成面の最終確認は実際どのように行うのでしょうか.また,各種先端チップが開発されているようですが,柔軟性や交換の容易さ等の使い勝手は,まだ改良の余地があるように思います.
保存療法への応用:回転切削特有の高周波の騒音,低速回転時の振動という受診者の大きなストレスを軽減できるのは魅力的です.また,波長が可変で出血量をコントロールできるレーザーの実現を期待します.
歯周治療への応用:照射方法や出力などの条件,注水など適切に使用すれば,Er:YAG レーザーは非外科治療・外科治療の両者において安全で,良好な成績を得られることがわかりました.中でも「歯周外科治療への応用」の項で,骨組織への応用が安全にできるという点はとても興味深く読ませていただきました.
 ただし,私としては,あくまで歯周病は生活習慣病であり,それを踏まえての対応と初期治療を重視して日々の診療を行っています.例えば当院に歯周病の方が来院されたとします.主訴への対応の後,口腔衛生指導と同時に生活習慣の改善,栄養状態や食生活についてもお伺いし,その方に応じたアドバイスをさせていただきます.そこでいろいろコミュニケーションをとった上で,補助的にレーザーを用いながら初期治療を行うようにしています.つまり総合的な治療の一部としてレーザーを併用するわけですが,実際,このように用いることで,歯周病菌の殺菌・消毒から歯肉の活性化まで,かなりの改善や治癒促進を実感しています.このほか,妊娠中の方や高齢者,全身疾患のある方,怖がり,痛がりの方などに対してもモチベーションの向上につながっており,当院ではレーザーは欠かせない治療機器となっています.
 現在私が行っているこのような使用法に加え,さらに幅広い範囲への応用が期待できるEr:YAG レーザーですが,今後さらに期待することとして,よりコンパクトな本体,ファイバーの柔軟性や使いやすさの向上,また先端チップ等の消耗品やフットペダル・接続コードなどの耐久性の向上と,さらなる低価格化を実現してほしいと思います.また,1台で複数の波長が発振できれば状況ごとに手軽に使い分けできると思います.ぜひそのような装置が早期に開発されることを望みます.




読後感


5月号特集「特性を活かしたレーザーの臨床応用に向けて― Er:YAG レーザーの現在」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


ふくもり さとる
福森 暁

 現在,歯科で使用されている代表的なレーザーは,炭酸ガス・Er:YAG・半導体・Nd:YAG の4つのレーザーで,それぞれ波長特性を生かし,照射条件や照射方法を工夫することで多くの症例に対応できるようになってきています.しかし,未だ単一レーザーですべての症例を確実にこなすことは難しいと思われます.一方,レーザー機器はまだまだ高価であるため,誰もが何台も所有するのは厳しいというのが現状でしょう.ただ,そういう時代だからこそ,自分の診療スタイルに合ったレーザーを効率よく,またアピールしつつ診療に取り入れることにより,よりよい治療が患者に提供できるのではないでしょうか.
 レーザーはこれからの歯科医療に欠かすことのできないものでしょう.そのような中,5月号のEr:YAG レーザー特集は,現在までの研究成果など興味深い報告が多々あり,大変参考になる企画でした.Er:YAG レーザー最大の特徴ともいえる硬組織切削が,振動も音も少なく行えることは素晴らしいことです.以前,よく患者から“歯医者さんのあのキーンという音が嫌だ”といわれました.院長になるとなかなか自分の耳には入ってこなくなりましたが,やはり未だにそういわれているのが実情でしょう.この声に応えるべく,Er:YAG レーザーの硬組織切削の特徴の研究・開発が今後ますます進み,音も振動もなくタービンのような効率で切削できるのも時間の問題ではないでしょうか.
 ほかにも,Er:YAG レーザーは歯内療法,歯周治療,審美,予防などに応用範囲が広がっており,ますます期待が膨らむレーザーですが,今後,Er:YAG に限らず,レーザー機器全体の発展を期待しています.
 歯科先進国アメリカでさえ,レーザーを所有しているからという理由だけで,まったく違う分野であるデンチャーを新製したいと来院する患者も存在するといいます.やはり,レーザーにはそれだけ患者を惹きつける何かがあるのでしょう.私自身,レーザーを効率よく使用するのはもちろん患者のためですが,それ以上のものがクリニックに戻ってくると実感しています.当クリニックにおいても,レーザーは幅広い診療を可能にしてくれています.歯周治療,歯内療法,予防など,さまざまな場面でレーザーが必要不可欠です.“レーザーで予防!”と謳ったアピールは,患者のモチベーションアップにかなり有効です.歯周治療においても,急性炎症の治療からポケット掻爬,殺菌からメンテナンスに至るまでレーザーが活躍します.また,審美・顎関節治療・疼痛緩和など多くの症例にも使用しています.
 レーザーがあるだけで患者が増え,医院が繁盛すると一概にはいえません.レーザーがなくても繁盛している医院はたくさんあります.しかし,レーザーにしかできないことがたくさんあるのも事実です.だからこそ今,レーザーなのでしょう.
 来る9月18日(日),私も所属しているLDA ( Leading Dentists Association)総会が,東京アメリカンクラブにて開催されます.今年のテーマは奇しくもレーザーで,各社のレーザーを同じ土俵に上げて比較するという面白い趣向が企画されています.初めてのレーザー導入から2台目はどうするかまでの指標など,基礎から応用,また講師による秘策レーザー使用法,そして実際に機器に触れるハンズオンなど,盛りだくさんの企画が予定されています.現在レーザーを使いこなしているという先生方も,今後の臨床に向けて新しい発見があるかもしれない絶好の機会です.一度参加してみられるのもいいのではないでしょうか.