読後感


5月号特集「特性を活かしたレーザーの臨床応用に向けて― Er:YAG レーザーの現在」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)

はら しげき

原 茂樹

 歯科用レーザーが日常臨床に比較的よく応用されるようになり,患者さんの中にも最初からレーザー治療を希望して来院される方が増えてきたように思います.一方,現在では各メーカーからさまざまな波長のレーザーが販売されており,歯科医院として導入を考える際には迷われる方も多いと思います.
 私の場合は,勤務医時代の医院でNd:YAGレーザーをほとんど毎日使用していたため,日常臨床で欠かせないものになっていました.そんな経緯から4年前の開業時にも迷うことなくレーザーを導入しました.当時はEr:YAGレーザーは“硬組織を切削するタイプ”という認識が強く,歯周治療に重きを置いている私としては,幅広く処置ができると実感していたNd:YAGレーザーを選択しました.現在もさまざまな処置にレーザーを用いており,知覚過敏や麻酔作用,根管治療や耐酸性の向上はもとより,歯周治療においてかなりの改善効果を上げています.
 今回の特集を読ませていただき,Er:YAGレーザーの研究が進み,ずいぶん幅広い処置に対応できる,魅力的な機器になってきたように思いました.以下,各分野への応用について感じたことを述べてみます.
歯内療法への応用:根尖切除等にかなり有用性を感じました.ただ,根管形成はレーザーのみで行えればとても便利だと思いますが,形成面の最終確認は実際どのように行うのでしょうか.また,各種先端チップが開発されているようですが,柔軟性や交換の容易さ等の使い勝手は,まだ改良の余地があるように思います.
保存療法への応用:回転切削特有の高周波の騒音,低速回転時の振動という受診者の大きなストレスを軽減できるのは魅力的です.また,波長が可変で出血量をコントロールできるレーザーの実現を期待します.
歯周治療への応用:照射方法や出力などの条件,注水など適切に使用すれば,Er:YAG レーザーは非外科治療・外科治療の両者において安全で,良好な成績を得られることがわかりました.中でも「歯周外科治療への応用」の項で,骨組織への応用が安全にできるという点はとても興味深く読ませていただきました.
 ただし,私としては,あくまで歯周病は生活習慣病であり,それを踏まえての対応と初期治療を重視して日々の診療を行っています.例えば当院に歯周病の方が来院されたとします.主訴への対応の後,口腔衛生指導と同時に生活習慣の改善,栄養状態や食生活についてもお伺いし,その方に応じたアドバイスをさせていただきます.そこでいろいろコミュニケーションをとった上で,補助的にレーザーを用いながら初期治療を行うようにしています.つまり総合的な治療の一部としてレーザーを併用するわけですが,実際,このように用いることで,歯周病菌の殺菌・消毒から歯肉の活性化まで,かなりの改善や治癒促進を実感しています.このほか,妊娠中の方や高齢者,全身疾患のある方,怖がり,痛がりの方などに対してもモチベーションの向上につながっており,当院ではレーザーは欠かせない治療機器となっています.
 現在私が行っているこのような使用法に加え,さらに幅広い範囲への応用が期待できるEr:YAG レーザーですが,今後さらに期待することとして,よりコンパクトな本体,ファイバーの柔軟性や使いやすさの向上,また先端チップ等の消耗品やフットペダル・接続コードなどの耐久性の向上と,さらなる低価格化を実現してほしいと思います.また,1台で複数の波長が発振できれば状況ごとに手軽に使い分けできると思います.ぜひそのような装置が早期に開発されることを望みます.




読後感


5月号特集「特性を活かしたレーザーの臨床応用に向けて― Er:YAG レーザーの現在」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


ふくもり さとる
福森 暁

 現在,歯科で使用されている代表的なレーザーは,炭酸ガス・Er:YAG・半導体・Nd:YAG の4つのレーザーで,それぞれ波長特性を生かし,照射条件や照射方法を工夫することで多くの症例に対応できるようになってきています.しかし,未だ単一レーザーですべての症例を確実にこなすことは難しいと思われます.一方,レーザー機器はまだまだ高価であるため,誰もが何台も所有するのは厳しいというのが現状でしょう.ただ,そういう時代だからこそ,自分の診療スタイルに合ったレーザーを効率よく,またアピールしつつ診療に取り入れることにより,よりよい治療が患者に提供できるのではないでしょうか.
 レーザーはこれからの歯科医療に欠かすことのできないものでしょう.そのような中,5月号のEr:YAG レーザー特集は,現在までの研究成果など興味深い報告が多々あり,大変参考になる企画でした.Er:YAG レーザー最大の特徴ともいえる硬組織切削が,振動も音も少なく行えることは素晴らしいことです.以前,よく患者から“歯医者さんのあのキーンという音が嫌だ”といわれました.院長になるとなかなか自分の耳には入ってこなくなりましたが,やはり未だにそういわれているのが実情でしょう.この声に応えるべく,Er:YAG レーザーの硬組織切削の特徴の研究・開発が今後ますます進み,音も振動もなくタービンのような効率で切削できるのも時間の問題ではないでしょうか.
 ほかにも,Er:YAG レーザーは歯内療法,歯周治療,審美,予防などに応用範囲が広がっており,ますます期待が膨らむレーザーですが,今後,Er:YAG に限らず,レーザー機器全体の発展を期待しています.
 歯科先進国アメリカでさえ,レーザーを所有しているからという理由だけで,まったく違う分野であるデンチャーを新製したいと来院する患者も存在するといいます.やはり,レーザーにはそれだけ患者を惹きつける何かがあるのでしょう.私自身,レーザーを効率よく使用するのはもちろん患者のためですが,それ以上のものがクリニックに戻ってくると実感しています.当クリニックにおいても,レーザーは幅広い診療を可能にしてくれています.歯周治療,歯内療法,予防など,さまざまな場面でレーザーが必要不可欠です.“レーザーで予防!”と謳ったアピールは,患者のモチベーションアップにかなり有効です.歯周治療においても,急性炎症の治療からポケット掻爬,殺菌からメンテナンスに至るまでレーザーが活躍します.また,審美・顎関節治療・疼痛緩和など多くの症例にも使用しています.
 レーザーがあるだけで患者が増え,医院が繁盛すると一概にはいえません.レーザーがなくても繁盛している医院はたくさんあります.しかし,レーザーにしかできないことがたくさんあるのも事実です.だからこそ今,レーザーなのでしょう.
 来る9月18日(日),私も所属しているLDA ( Leading Dentists Association)総会が,東京アメリカンクラブにて開催されます.今年のテーマは奇しくもレーザーで,各社のレーザーを同じ土俵に上げて比較するという面白い趣向が企画されています.初めてのレーザー導入から2台目はどうするかまでの指標など,基礎から応用,また講師による秘策レーザー使用法,そして実際に機器に触れるハンズオンなど,盛りだくさんの企画が予定されています.現在レーザーを使いこなしているという先生方も,今後の臨床に向けて新しい発見があるかもしれない絶好の機会です.一度参加してみられるのもいいのではないでしょうか.






読後感


4月号特集「メタルフリーでブリッジは可能か―歯冠色補綴修復の最前線」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)

やまもとひろし

山本 寛

 近年の歯科材料と接着技法の進歩により,単冠のメタルフリー修復に関してはかなり安定した結果が得られるようになり,材料の選択肢も多くなった.一方,欠損補綴への応用が可能な材料となると選択の幅はかなり狭められてしまっていたが,本特集を読み,オールセラミックスにおける材質的な問題はかなり改善されてきたという印象を持った.しかし,紹介された多くのシステムではCAD/CAMシステムや専用ファーネスの導入が必要とされ,かなりの設備投資を必要とすることから,経済的な面で自由な材料の選択を難しくしているとも言えよう.
 他方,従来の硬質レジンより機械的強度に優れ,セラミックスほど硬さや脆さが見られない高分子材料であるハイブリッドセラミックスは,単冠の臼歯部歯冠色修復ではすでに高い評価を得ている.しかし,ファイバー補強型ハイブリッドセラミックスブリッジは,オールセラミックスブリッジ以上に症例が限定され,歯科技工士の技量と接着に対する知識に品質が大きく影響を受ける.そのため,「当院ではハイブリッドセラミックスによるメタルフリーブリッジを行っています」と患者さんにアナウンスするには,まだまだほど遠いと言えるであろう.今後のさらなる改良に期待したい.
 高橋論文では,メタルフリーブリッジはジルコニア等を中心とする「高強度ロングスパン対応型の高コストタイプ」と,比較的簡便に応用可能な「ファイバー補強型ハイブリッドセラミックスを中心とする高靱性,低コストタイプ」に分かれていくのではないかと示唆している.高強度セラミックスとハイブリッドセラミックスはそれぞれ異なる利点と欠点を有している.決して低コスト=低品質ではなく,適材適所へ正しく使い分けるためには,歯科医師が材料や技工に関する知識をさらに深める必要があろう.
 松村論文ではメタルフリーブリッジの臨床的課題を簡潔に,(1)強度不足に対する要求,(2)アレルギー患者への対応策としての応用の可能性,(3)審美性への高い関心に対する要求,に分類して述べている.
 特に金属アレルギーの患者さんにとって,強度の問題をある程度犠牲にしてもメタルフリーブリッジを使用できることが福音であるのは間違いないであろう.金属アレルギーの患者さんに関しては,費用の問題も含めて,治療を受けられる環境の整備が急務と思われる.
 材料の強度不足は,メタルフリーブリッジを行うに当たって最も大きな問題であったが,各論文を拝読すると,この問題も解決の出口が見えてきたようである.ただし,材料学的に割れない強度を追求するだけでなく,硬すぎる大型補綴物を長期間使用した場合の生体への影響といった,臨床に即した面からも併せて検討していただきたいと感じた.
 審美性に対する患者さんの要求が高くなってきたのは事実であり,それに応えられることは歯科医師にとって大きな喜びである.しかし,前歯部ならいざ知らず,臼歯部の修復においてメタルフリーであることが必須の要件となるほど審美性が求められる症例が,実際にどの程度存在するのであろうか,という疑問もある.術者の好みで新しい技術を患者さんに押しつけるのではなく,利点と欠点を踏まえた上で最も適した材料・手法を提案できるような体制を,歯科技工所と共に確立したいものである.




読後感


4月号特集「メタルフリーでブリッジは可能か―歯冠色補綴修復の最前線」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)


まやまもとしょうご
山本尚吾

 本特集を読んで感じたことは,ついにメタルフリー補綴物の本格的な幕開けの世紀が日本にも到来したということだ.メタルフリー補綴物の第1期は,1980年代初頭のダイコアに代表されるキャスタブルセラミックスの時代で,当時の大きなトピックスであったように思われる.
 第2期はそれから5年後に始まる1985〜1995年の時期で,アルミナ焼結セラミックスのIn-Ceramとプレスセラミックスのパイオニアであるエンプレスシステムの登場は記憶に新しい.そして2000年に入ると,CAD/CAMシステムであるプロセラによりアルミナフレームを応用した補綴物製作が進展し,本格的なメタルフリー補綴物がいまや市民権を得る勢いで浸透しつつある.
 私も,1980年のラボ開業と共にキャスタブルセラミックスを導入し,その後アルミナ焼結システム,そしてプレスセラミックスの導入を行いながら多くのメタルフリー補綴物における利点と欠点を経験してきた.現在では,アルミナ焼結セラミックスであるIn-Ceramを基本とした補綴物製作と,新たにCAD/CAMによるジルコニアフレームを応用したブリッジの製作に関する基本的な試験を開始したところである.
 以上の他にも,セラミックス+高分子複合型のいわゆるハイブリッドセラミックスも大いに歯科界を賑わせている.しかし,私の個人的な考えだが,前記のセラミックスとハイブリッドセラミックスには大きな違いがあるのではないかと認識している.システムコストが比較的安価なハイブリッドセラミックスも材料コストは非常に高く,私には同一のカテゴリーで考えることは難しいように思われる.ただし今後,高分子材料のさらなる開発により,現状のハイブリッドセラミックスも進化していく可能性を大いに秘めているものと思われる.
 また近年では,CAD/CAMの応用がさまざまなメタルフリー補綴物製作の可能性を広げている.しかし,CAD/CAMの最大の問題点は,適合精度よりも高コストにあることは多くの臨床家から報告されているところである.日々の新たな試みとCAD/CAMをコントロールしているコンピュータソフトの改善により,精度は次第に実用的なレベルに近づきつつあると感じているが,世界的な経済の低迷に反比例するかのごとくCAD/CAMシステムは非常に高価であり,臨床的な採算ベースから遠ざかっているような気がする.
 適切な医療を行うための投資や労働が医療従事者の生活を経済的に圧迫するようであるのなら,はたしてメタルフリー補綴物とはいかなるものなのか,その価値を問い直す必要が出てくるかもしれない.“メタルフリー”を普及させていくためには,経済的な面を含めさまざまな検討課題が残されているように思われる.
 いずれにしても,セラミックスがもたらす新たな時代の到来が歯科界をどのように変貌させていくのかは私には推測できないが,メタルフリー補綴物という現在の歯科医療のテーマの1つがもし完結できるとしたら,それは喜ばしいことであると考えている.
 オールセラミックスシステムの発祥地であり,オールセラミックスの聖地とされるスイス・チューリッヒ大学のピーター・シェーラ教授が昨年永眠された.シェーラ教授が多くの研究開発に関わっていたことは人々の知るところであるが,ジルコニアの歯科用材料への転用もシェーラ教授の最後の研究課題であったと聞く.シェーラ教授の遺志でもあるこの分野の研究がさらに進み,歯科界の発展へつながることを祈りつつ,シェーラ教授にささやかではあるがこの読後感を捧げたい.