読後感


2月号特集「欠損歯列再考―臼歯部中間欠損の処置方針」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

まえだ あきとし
前田晃利

 欠損補綴には現在,無補綴を含めてインプラント,パーシャルデンチャー,ブリッジ,矯正治療,歯牙移植など,さまざまな選択肢がある.しかし,何をどのように選択するかは臨床医として常に考えさせられる問題である.
 特集で述べているように,欠損補綴には「口腔機能の回復を図る」ことだけにとどまらず,「欠損がそれ以上に広がることを防ぐ」「顎堤の吸収が起こらないようにする」という目的がある.治療後の安定した状態をいかに長期にわたり維持させるか.そのためには,主訴をよく把握し,現症状だけではなく「なぜ欠損になったか」の原因の把握はもとより,治療以前の補綴物はどんなものだったか,欠損歯数と残存歯の咬合支持関係,欠損部の対向関係,残存歯の状態,顎堤の状態,全体的な咬合,固有の咬合,患者さんの年齢,既往歴や全身状態など,生体への侵襲にとって基本となるいくつかの条件を把握する必要がある.
 それらから,口腔内の長期的な展望を予想し,総合的に処置方針をたて,患者さん個人の生活環境や経済的事情,歯科治療に何を望んでいるのか(インプラント補綴を選択する機会が増えた最近でも,未だ外科的処置を望まない患者さんもいる),さらには審美性なども十分考慮して治療に当たるのが理想といえる.
 今回のテーマである臼歯部中間欠損において,中間1歯欠損のケースでは,ブリッジ補綴やインプラント補綴(主に隣在歯がバージントゥースの場合)での予後は良好な結果を得ている場合が多い.しかし,中間2歯欠損のケースでは,ロングスパンブリッジを選択することにより,支台歯の歯根破折,補綴物の脱離,破損など種々のトラブルを招きやすい.そのため,ロングスパンブリッジを選択しない他の処置を行いたいところであるが,諸条件によりブリッジ以外の選択が難しい時がある.そのような場合に,症例Uのように矯正移動により欠損形態を改善し,中間1歯欠損にすることでロングスパンブリッジを回避することは非常に有効で,予知性の高い処置がなされる,と考えられる.
 また,症例Tのように高齢者の治療に際しては,どの時点でどこまで先を見越して処置すべきかは難しい問題であり,患者さんが自ら行う日常のメインテナンスの容易さだけでなく,介護を受ける側になった場合に介護する者にとってメインテナンスしやすい欠損補綴治療を行うことが重要である.しかし,今後さらなる高齢社会を迎えるにあたり,しかも高齢者のQOLを考えた時に,単なる年齢に対する先入観に影響されてはならないと思う.すなわち,たとえ高齢者であったとしても,現時点でのメインテナンスが良好でなおかつ諸条件が整えば,ブリッジ,歯牙移植,インプラントなども選択肢の1つとして積極的に取り入れて処置すべきではないか,と考える.
 いずれにしても,私にとっては,臼歯部中間欠損への対応について,現症をみて,過去を想像し,予後を想定するための確かな“目”,すなわち観察力を養う努力をする必要性を改めて知らされた特集であった.




読後感


1月号「新春展望:歯科界の閉塞感を打破しよう!―私の提言」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

おかなが さとる
岡永 覚

 率直に「医療管理学が通用する時代は,20世紀で終わったな」と改めて再確認した.現在,筆者の手元には,医療管理学の本は殆ど残っていない.21世紀に通用する歯科医業経営のビジネス・モデルを提案していないと思ったので,捨てた.今,歯科医業経営に求められているのは,経営戦略能力だと思う.もはや会計などの経営管理能力だけで対処できるような,甘い状況ではない.したがって,20世紀の歯科医業経営のビジネス・モデルを踏襲している医療管理学の考え方を捨てない限り,閉塞感からの脱却は不可能であろう.
 そもそも,疾病構造が変化したにも拘わらず「メタルボンドポーセレン冠だ」「金冠だ」なんて言っているようではダメでしょう.レジンの進歩を考えると,田上順次先生の言うように,メタルボンドポーセレン冠や金冠の時代は終わったのだ.筆者も,歯科技工士に頼み,硬質レジンやコンポジットレジンの替わりにハイブリッド・セラミックを使っている.患者に「保険の治療は無茶苦茶だから,まともな治療を受けたければ金を出して自費でやれ」なんて言ってメタルボンドポーセレン冠や金冠を勧めているようでは,失業してしまうからね.患者は,ハイブリッド・セラミックに満足して喜んでいるよ.
 康本征史先生が「歯科にゴールドラッシュがやってくる!」と言っているのに,「バカな奴!」と思っている読者も,多くいると思うよ.たしかに,康本先生が言うように団塊の世代は魅力的かもしれない.しかし,問題はその子供達である.彼らは,勤労意欲が低く,フリーターやニートが多く,経済的に自立できない者も多い.そのため近年,保険で医療を受けることすら間々ならない貧困層が増えているのだ.そして,その貧困層を経済的に支えているのが,親である団塊の世代に他ならない.このように考えると,歯科にはゴールドラッシュなど来ませんよ.
 また,菅原準二先生が「口腔成育医」の必要性について述べているように,これからの歯科医は「咬合」に活路を見出すべきだと言う歯科医がいる.しかし,筆者は少し異なる見解を持っている.う蝕の減少により,仕方なく「咬合」を扱わざるを得なくなるだけのことで,すべての歯科医に歯科矯正を希望する患者が来るほど現実は甘くない.筆者も矯正歯科や小児歯科の専門医ではないので,歯科矯正の患者が来ない.顎関節症の患者が希望した場合,歯科矯正をしているだけである.
 では,歯科医はどうしたら良いのだろうか.少なくとも,今までと同じことをしている限り患者は来ないから,新たな歯科医療サービスを始めるしかないのでは…….患者は,今の歯科医療サービスに満足しているのではない.その不満を解消するため,新たな歯科医療サービスを求めているのだ.そのような患者の要求に答えていけば,ゴールドラッシュも決して夢ではないと思う.
 例えば,中島栄一郎先生は,歯科矯正にPNFを併用して成果を上げている(『歯科PNFマニュアル』中島栄一郎著/クインテッセンス出版).このように,既存の歯科医療サービスに少し付加価値を与えただけでも新たな歯科医療サービスになるのだ.PNFは摂食・嚥下リハビリテーションへの応用も可能である.訪問歯科診療にPNFを採り入れれば,新たな歯科医療サービスになると思う.植田耕一郎先生も,『統合医学』の必要性に言及しているではないか.
 患者から「他の歯科医院にないサービスは何ですか?」と聞かれて即答できない開業医は,21世紀を生き抜いていけないと思う.




読後感


1月号「新春展望:歯科界の閉塞感を打破しよう!─私の提言」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)

おおいし のぶひこ
大石暢彦

 “成熟社会”となった現在の日本で求められるのは,小手先の変化ではなく,将来を見据えた,しかし変化に柔軟に対応できる「本物」を提供することであると考える.歯科医療においても然りである.本誌1月号の「新春展望」で,本物の医療を提供するには「力」を蓄えるべきであると杉崎先生が提言されている.その方法として,永田先生らのようなスタディグループに所属して研鑽を積んだり,積極的に学会に参加するのも実力養成には有効と考える.
 また,「力」にはいろいろな面があるが,経済的に余力がないと自由な発想は生まれないであろうし,体力や健康も必要だ.自分の健康管理ができていない歯科医師に診てもらいたいと思う患者はいないと思う.アメリカのエグゼクティブの3条件は“Teeth・Fat・Smoke”すなわち整った歯列ときれいな歯を持つこと,食生活の自己管理ができた体であること,発ガンリスクがある喫煙者でないことであるそうだ.これには,われわれも学ぶところがあるように感じる.
 歯科界を閉塞感が覆っている.しかし,近藤先生が述べておられるように「誰かが何かをしてくれる」のを待っていても閉塞感からは脱却できない.とかく歯科医師はアフリカのシマウマのごとく仲間同士で集団行動し円陣を組んで,歯科以外とは和を結ぼうとしないが,サバンナのライオンのように悠々とすごし,空腹のときだけ獲物をとりに行くがごとく,自らの考えで行動し,歯科以外の交友関係を多く結び,視点を変え発想の転換をすることが望まれる.
 その“視点を変える”ということは,康本先生や菅原先生が示されたように,特に高齢者や小児への対応において必要になるものと思われる.今後,元気な高齢者人口が増加し,日本は世界に類を見ない長命国家となるが,現状において国民がライフステージを通して高いQOLを実現し,真の健康長寿を全うしているかは疑問である.そこで今後は,歯科医療においてQOLに寄与する「咬合」がキーワードとして重要視されるであろう.すなわち診査・診断に基づいた「口腔成育」「予防補綴」1,2)という視点で歯科の独自性が生かせる「咬合」の管理者となることを目標とすべきであると考える.
 また田上先生や植田先生が提言されているように,現在の歯科医療制度の枠にとらわれず,真に国民が求める口腔の健康のために必要な制度の改善を積極的に政治・行政に対してお願いしたい.
 高木先生の言われるように「こころ」を解き放ち,患者と共に歩むOnly Oneの「良医」になろうではないか.嘉ノ海先生の提言にあるように「自分の臨床に自信と誇りを持っているか?」と心に問いただしてみてはいかがだろうか.おのずと閉塞感打破の解決策は導かれるように思う.
 今年の新春展望は,雑多な情報が氾濫し閉塞感が漂う昨今の歯科界にあって方向を見失った「迷医」に対し,各方面でご活躍の先生方が独自の視点から輝ける未来への展望を示した点で大変有益であった.




読後感


1月号新春展望掲載論文「修復治療をもっと自由な発想で!−患者の問題解決のために何ができるか−」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)

きむらひでお
木村英生

 1月号掲載の「新春展望〈21世紀初頭の課題〉」は,歯科界を覆う閉塞感を打破し,明るい未来を迎えるために今後われわれはどうするべきか,さまざまな方面からの提言をまとめ,問題提起とした特集である.
 その内容は大いに共感できるものであり,大変示唆に富むものであったが,これはすべての執筆者が本気で本音の提言をしたためであろう.裏を返せば大学研究者,臨床家ともに,歯科界の置かれている現状に対してこれまでにない危機感を感じていることの現れではないだろうか.
 実際,日常臨床を取り巻く環境はわれわれの予想をはるかに上回るスピードで悪化している.歯科医療費の削減,保険診療の制約の強化,カルテやレセプト開示に始まる患者の権利意識向上の弊害,断片的で不適切な医療情報の氾濫,歯科医師数増加と受診率低下がもたらす過激な患者獲得競争,日歯連献金問題の後遺症など多くの要因により,われわれの日常臨床は不自由極まりないものとなっている.
 われわれ開業医もこの現状に黙って手を拱いている訳ではない.どうすれば最小の治療行為で最大の治療効果を得ることができるか常々工夫し,どの患者さんにも最適で最高の治療を施したいと考え日々努力している.しかし,理想と現実とのギャップに悩み,ホゾを噛む思いで妥協を受け入れることも少なくない.
 そのような状況の中,本論文は硬直し画一化しがちな日常臨床に,「接着」という新たな概念による新しい歯科治療の可能性を示してくれるものであった.
 ここ数年,接着材料の安全性や確実性は多くの研究者や臨床家によって確認されてきている.また,一部の先達は,以前であれば想像もつかなかったような局面でこれを使用し,目を見張るべき素晴らしい結果を得ているようである.接着歯科治療は,再生療法,インプラント治療,レーザー治療などと並び,これまでの歯科治療の概念を根底から覆す可能性を秘めた治療法として大いに期待できるであろう.
 そこで,われわれがこれから接着歯科治療を導入する際に,どのようなことに留意しながら取り組むのが効果的か考えてみた.
 まず,歯および歯周組織,患歯の病理,使用材料や治療法などに関する基礎知識を十分確認しておいたほうがよいだろう.次に,接着という概念が出てくる以前に自分が行った過去の治療の結果を再評価しておく.そこで出てきた問題点を分析整理し,この新しい治療法が自分の治療システムのどの部分に導入可能で,どのような使い方をすれば最も効果的かを熟考した後に取り入れるべきであろう.
 実際の取り組みに際しては,材料や術式の正しい理解が不可欠である.また,臨床結果を再評価しながらの手技や適応症などの微調整も必要となるに違いない.このような姿勢で取り組みを続けていけば,接着歯科治療の利点,欠点のみならず,隠れていた盲点にまで気づくこともできるだろう.われわれ一人一人がそうなるように研鑽を積んで初めて,希望に満ち溢れた新たな視野が目前に開けてくるのではないだろうか.
 「歯科界を覆う閉塞感をぬぐうため,将来の飛躍への準備としてまず目の前の患者さんに十分な力を注ぐことが基本となる」という編集部の企画主旨中の一文が,今われわれがまず行わなければならないことを端的に表しているように感じた.