読後感


1月号「新春展望:歯科界の閉塞感を打破しよう!─私の提言」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)

おおいし のぶひこ
大石暢彦

 “成熟社会”となった現在の日本で求められるのは,小手先の変化ではなく,将来を見据えた,しかし変化に柔軟に対応できる「本物」を提供することであると考える.歯科医療においても然りである.本誌1月号の「新春展望」で,本物の医療を提供するには「力」を蓄えるべきであると杉崎先生が提言されている.その方法として,永田先生らのようなスタディグループに所属して研鑽を積んだり,積極的に学会に参加するのも実力養成には有効と考える.
 また,「力」にはいろいろな面があるが,経済的に余力がないと自由な発想は生まれないであろうし,体力や健康も必要だ.自分の健康管理ができていない歯科医師に診てもらいたいと思う患者はいないと思う.アメリカのエグゼクティブの3条件は“Teeth・Fat・Smoke”すなわち整った歯列ときれいな歯を持つこと,食生活の自己管理ができた体であること,発ガンリスクがある喫煙者でないことであるそうだ.これには,われわれも学ぶところがあるように感じる.
 歯科界を閉塞感が覆っている.しかし,近藤先生が述べておられるように「誰かが何かをしてくれる」のを待っていても閉塞感からは脱却できない.とかく歯科医師はアフリカのシマウマのごとく仲間同士で集団行動し円陣を組んで,歯科以外とは和を結ぼうとしないが,サバンナのライオンのように悠々とすごし,空腹のときだけ獲物をとりに行くがごとく,自らの考えで行動し,歯科以外の交友関係を多く結び,視点を変え発想の転換をすることが望まれる.
 その“視点を変える”ということは,康本先生や菅原先生が示されたように,特に高齢者や小児への対応において必要になるものと思われる.今後,元気な高齢者人口が増加し,日本は世界に類を見ない長命国家となるが,現状において国民がライフステージを通して高いQOLを実現し,真の健康長寿を全うしているかは疑問である.そこで今後は,歯科医療においてQOLに寄与する「咬合」がキーワードとして重要視されるであろう.すなわち診査・診断に基づいた「口腔成育」「予防補綴」1,2)という視点で歯科の独自性が生かせる「咬合」の管理者となることを目標とすべきであると考える.
 また田上先生や植田先生が提言されているように,現在の歯科医療制度の枠にとらわれず,真に国民が求める口腔の健康のために必要な制度の改善を積極的に政治・行政に対してお願いしたい.
 高木先生の言われるように「こころ」を解き放ち,患者と共に歩むOnly Oneの「良医」になろうではないか.嘉ノ海先生の提言にあるように「自分の臨床に自信と誇りを持っているか?」と心に問いただしてみてはいかがだろうか.おのずと閉塞感打破の解決策は導かれるように思う.
 今年の新春展望は,雑多な情報が氾濫し閉塞感が漂う昨今の歯科界にあって方向を見失った「迷医」に対し,各方面でご活躍の先生方が独自の視点から輝ける未来への展望を示した点で大変有益であった.




読後感


1月号新春展望掲載論文「修復治療をもっと自由な発想で!−患者の問題解決のために何ができるか−」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)

きむらひでお
木村英生

 1月号掲載の「新春展望〈21世紀初頭の課題〉」は,歯科界を覆う閉塞感を打破し,明るい未来を迎えるために今後われわれはどうするべきか,さまざまな方面からの提言をまとめ,問題提起とした特集である.
 その内容は大いに共感できるものであり,大変示唆に富むものであったが,これはすべての執筆者が本気で本音の提言をしたためであろう.裏を返せば大学研究者,臨床家ともに,歯科界の置かれている現状に対してこれまでにない危機感を感じていることの現れではないだろうか.
 実際,日常臨床を取り巻く環境はわれわれの予想をはるかに上回るスピードで悪化している.歯科医療費の削減,保険診療の制約の強化,カルテやレセプト開示に始まる患者の権利意識向上の弊害,断片的で不適切な医療情報の氾濫,歯科医師数増加と受診率低下がもたらす過激な患者獲得競争,日歯連献金問題の後遺症など多くの要因により,われわれの日常臨床は不自由極まりないものとなっている.
 われわれ開業医もこの現状に黙って手を拱いている訳ではない.どうすれば最小の治療行為で最大の治療効果を得ることができるか常々工夫し,どの患者さんにも最適で最高の治療を施したいと考え日々努力している.しかし,理想と現実とのギャップに悩み,ホゾを噛む思いで妥協を受け入れることも少なくない.
 そのような状況の中,本論文は硬直し画一化しがちな日常臨床に,「接着」という新たな概念による新しい歯科治療の可能性を示してくれるものであった.
 ここ数年,接着材料の安全性や確実性は多くの研究者や臨床家によって確認されてきている.また,一部の先達は,以前であれば想像もつかなかったような局面でこれを使用し,目を見張るべき素晴らしい結果を得ているようである.接着歯科治療は,再生療法,インプラント治療,レーザー治療などと並び,これまでの歯科治療の概念を根底から覆す可能性を秘めた治療法として大いに期待できるであろう.
 そこで,われわれがこれから接着歯科治療を導入する際に,どのようなことに留意しながら取り組むのが効果的か考えてみた.
 まず,歯および歯周組織,患歯の病理,使用材料や治療法などに関する基礎知識を十分確認しておいたほうがよいだろう.次に,接着という概念が出てくる以前に自分が行った過去の治療の結果を再評価しておく.そこで出てきた問題点を分析整理し,この新しい治療法が自分の治療システムのどの部分に導入可能で,どのような使い方をすれば最も効果的かを熟考した後に取り入れるべきであろう.
 実際の取り組みに際しては,材料や術式の正しい理解が不可欠である.また,臨床結果を再評価しながらの手技や適応症などの微調整も必要となるに違いない.このような姿勢で取り組みを続けていけば,接着歯科治療の利点,欠点のみならず,隠れていた盲点にまで気づくこともできるだろう.われわれ一人一人がそうなるように研鑽を積んで初めて,希望に満ち溢れた新たな視野が目前に開けてくるのではないだろうか.
 「歯科界を覆う閉塞感をぬぐうため,将来の飛躍への準備としてまず目の前の患者さんに十分な力を注ぐことが基本となる」という編集部の企画主旨中の一文が,今われわれがまず行わなければならないことを端的に表しているように感じた.




読後感


12月号特集「口腔と骨粗鬆症」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』1月号に掲載された内容を転載したものです.)

はしもとまさのり
橋本雅範

 今回の特集は,高齢化に伴い注目されている骨粗鬆症と口腔との関連について紹介し,骨を健全に維持することが口腔の健康に必要なことを示したものである.
 冒頭の「骨粗鬆症とは」では,50歳女性の44%が寿命のある間に,いずれかの部位に骨折の生じる可能性があるとしている.また,75歳以上の女性では半数以上が骨粗鬆症であると推定される,とのことである.骨粗鬆症の医療経済については,60歳以上の大腿骨頸部骨折症例を調査した結果,手術当月に要した費用は平均110万円で入院期間中の総医療費は平均150万円であったとの試算が示されているが,骨粗鬆症を予防・治療することにより骨折を予防すれば,このような医療費,介護費等が使われずに済むことになる.
 骨吸収抑制剤として用いられるビスフォスフォネートには骨折抑制効果があることが明らかにされており,最近では歯周病治療への可能性を示唆するレビューも見られるとのことである.このビスフォスフォネートについては「歯周疾患治療医学への応用」の項において最新の研究成果が示されており,高石先生は実際の症例について紹介されている.歯科医師として,今後の展開が非常に興味深く感じられるところである.
 また,新田・石川両先生は,有歯顎者群の腰椎骨密度が有意に高かったことから,歯の存在が全身骨の骨密度の維持に貢献していると考察され,歯の喪失の全身骨に与える影響は閉経後に,より大きく現れることが示唆された,と述べておいでである.
 稲垣・野口先生らは歯周病と骨粗鬆症の関連についての研究に長年取り組まれており,歯周病の危険因子としての骨粗鬆症をめぐる見解を,文献的考察を基に展開され,次号が楽しみである.
 田口先生は歯科用パノラマX線写真による骨粗鬆症スクリーニングについて長年取り組んでおられ,閉経後女性の下顎骨皮質骨厚みが薄いほど,また皮質骨の粗鬆化度が高いほど腰椎・大腿骨骨密度が低値となること,また同指標は骨粗鬆症性骨折のリスクとも関係を有すること,等を国内外に示しておられる.
 愛知県歯科医師会では以前より田口先生にご指導いただき,現在パノラマX線写真による骨粗鬆症の診診病診連携をモデル事業として実施している.歯科から医科(主として整形外科)へ情報提供したところ,皮質骨形態が高度粗鬆化を示している群については大部分が骨粗鬆症もしくは骨量減少という診断結果が得られている.これに関して,愛知県歯会の宮村会長は,9月に開かれた第151回日歯代議員会において,健康フロンティア戦略のなかで介護予防の一環として骨粗鬆症予防の推進がうたわれていることから,骨粗鬆症の早期発見に関して歯科からのアプローチの必要性について訴えている.これに対して執行部より,この取り組みが広く社会的にも知られ,全国的に展開されるよう都道府県歯会の支援を行っていきたい,との答弁をいただいている.
 歯科から医科に働きかけることによりスタートする医療対応はほとんどないが,かかりつけ歯科医の役割の一つとして骨粗鬆症を早期に発見し,医科への受診を促すことは健康寿命の延伸にも役立つものと考えられるところから,さらに推進していくことが望まれる.その点を歯科界で広く認識していただく意味においても,この特集は骨粗鬆症と口腔との関連について最新の知見が網羅されており,大変有益であった.




読後感


12月号特集「口腔と骨粗鬆症」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』1月号に掲載された内容を転載したものです.)

たかぎ ちさと
高木千訓

 女性ホルモンの低下と共に骨粗鬆症が進行することや,骨粗鬆症と歯の喪失は男女とも加齢と共に増大するなどの相関関係が見られることは,昔から言われてきた.私は総義歯臨床に重点を置いて今日まで開業してきたが,骨粗鬆症患者への対応には苦慮した.そのような点からすると,今回の特集は骨粗鬆症の解説から始まり診査,診断,そして治療法について細かく記述されており,私にとって,より深い知識をまとめる上で勉強になった.
 私の臨床では,骨粗鬆症の疑いがあると“かかりつけの内科医”との連携の中で予防中心のアドバイスや口腔内の臨床的処置をすることが主な対応で,骨粗鬆症の本来の治療は当然医師が行っている.今回の特集は歯周病と骨粗鬆症の関係でまとめられているが,歯科とのからみではこの両者の関係が顕著に現れているのであろう.しかし,骨粗鬆症が原因で歯牙が喪失する例もあるから,義歯への移行時に正しい咬合関係に変化を与えないためにも,抜歯時期やその予測基準などについてふれていただければ,さらによかったように思われる.
 一般的に,骨粗鬆症は歯牙喪失後も続き,顎堤の吸収が健常な人よりも比較的短期間で生じるから,義歯と粘膜面とに間隙ができたり咬み合わせが低くなったりする,と言われている.すなわち,どんなに吸着し咬合関係が正しく安定した義歯を入れていても,粘膜面で合わなくなり低位咬合状態になり,下顎頭も中心咬合位から移動するのである.したがって,定期的に床裏装や低位咬合の是正が必要だと考えられるが,骨粗鬆症と義歯との関連や基礎データ等が示され,確かで,チェアサイドで簡単にできる臨床的診断法はないか,と絶えず考えている.
 この場合,骨粗鬆症の人では歯槽堤全体の各部分で均等にやせると考えられているので,ゴシックアーチ等の水平面的なものはわかりにくい.そのため,顎機能障害者と区分できる,三次元的に立体的な下顎頭の動きがわかる方法が開発されるとよい.これは,義歯を入れている人の75%で低位咬合になっていて,正しい中心咬合位にない義歯を使用しているとの報告があると同時に,このような義歯を装着していると歯槽堤が健常者の場合よりもやせると言われているので,骨粗鬆症によりやせることと区分したいからである.
 実際問題として,義歯に用いる人工歯においては現在95%以上がレジン歯あるいは硬質レジン歯とされているが,硬質レジン同士,あるいは部分床義歯で残存歯に各種の修復物が入っている混合歯列,さらには,これらの修復物が義歯の対合関係にあるケースについて,実験的データはあるものの,人の口腔内で人工歯の咬耗や磨耗がどの程度影響するのか,咬合関係がどのくらいの期間で安定しているのか,それらはわかっていないのが現状である.
 最初に述べたように,私は総義歯臨床を中心に手がけてきたので,その立場から読後感を述べたが,臨床面だけで骨粗鬆症と義歯の関係を述べるのは難しい問題があるだろう.しかし,骨粗鬆症は今や“国民病”と言ってよいものであるから,義歯と骨粗鬆症の関係についても,多くの研究や臨床例の提示を本誌に期待したい.