![]() 3月号特集「LSTR療法の臨床II――3Mix-MP法のさまざまな臨床応用とその成果」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.) わたせたかひこ 渡瀬孝彦 渡瀬歯科医院 〒245-0016 神奈川県横浜市泉区和泉町1396 LSTR療法は,今まで歯科治療で行われてきた「削って・つめる」外科的療法に対して,病巣組織の細菌を殺菌することにより,組織を自然修復させるという内科的療法であり,新しいコンセプトの療法として注目を集めています. 昨年の本誌6月号「LSTR療法の臨床」に続き,本特集は,第2回LSTR研究会での特別講演,テーブルクリニックやポスターセッションの発表を基にしたものです. 特に私が興味を持ったところは,星野先生・宅重先生の論文で,歯髄炎で自覚症状が見られるものや歯髄腔が開放している場合でも,抜髄が第一選択ではなく,3Mix-MPにより病巣無菌化処置を行うとし,また1本の歯でも複根管の場合には,根管により,断髄,抜髄と処置を異にすることもある,と述べている点です. さらに臨床応用としてLSTR研究会の先生方が発表した中では,鈴木先生の論文で,代替3MixとNew Apatite Liner Type IIによる覆髄を行うようになってからの6年半の間に治療した症例を追跡した結果,覆髄処置後に急性症状が再発した場合,再覆髄で助かるケースが多い,というところです.また,他の論文にも乳歯の歯内療法,リーマー破折の対応,垂直性歯根破折歯の保存,歯周病治療への応用など,各分野での可能性が示唆されていて,大変参考になりました. 私は以前からLSTR療法には関心があり,数年前から自分の臨床に取り入れてきました.初めは文献を見ながら自己流で使っていましたが,思うように効果が出ず,調剤したものを冷蔵庫に入れたまま1週間以上経ってしまい,使う時にあわてて作り直すというのが現状でした. 一昨年,宅重先生の3Mix-MP法のセミナーを受講させていただき,今までの自分の術式に不備な点や誤りがあったことがわかりました.薬品の調合と保管・管理の仕方,3Mix-MPの標準稠度,う窩へのEDTA・ADゲルの処理法,Fuji IX GPによる密封充填,根管治療中の確実な仮封など,どれひとつ欠けてもよい結果が得られないことを痛感しました. その後,セミナーで明らかとなった問題点を改善し,臨床で3Mix-MPをルーティンで使うようになって,予後の成績が以前に比較してずっと向上したように思います.今まではとかく,新しい理論や療法が発表されると,懐疑的な目で見て臨床応用する前に否定してしまったり,多大な期待を持ち理論や術式を十分理解しないうちに臨床に取り入れ,結果が出ないとやめてしまうことがあったのではないかと反省しています. もうひとつ,LSTR療法の臨床で重要なことは,患者に歯髄保存の重要性を理解してもらい,術後の経過や痛みの程度を十分説明することです.特に覆髄処置後再発し,急性症状が出た場合は,説明不十分だと患者に不安感を持たせ,疼痛を早く取り除くために抜髄処置を行ってしまうこともあると思います.そのようなことにならないためにも十分なインフォームド・コンセントが必要であり,それが予後成績にも影響する大切なことだと実感しています. 本特集は,LSTR療法をこれから導入される先生や,実際に臨床で使われている先生方にとっても,基本事項の確認と応用範囲を広げるための参考になると思います.私も本特集を読み,自分の臨床を再確認するよい機会となりました. 最後に,LSTR研究会の会員の先生方が,LSTR 3Mix-MP法の症例数と予後の年数をさらに増し,新しい分野での臨床応用例も発表していただければ幸いと存じます. |
![]() 3月号特集「LSTR療法の臨床II――3Mix-MP法のさまざまな臨床応用とその成果」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.) たにもとこうじ 谷本幸司 谷本歯科クリニック 〒104-0033 東京都中央区新川2-24-4長谷川ビル2F 麻酔下で軟化象牙質除去中に露髄し緊急的に抜髄となる.16年前の卒直後のころ,毎日のように延々と繰り返されていた工程だ.そこからおびただしい数の根管治療が発生した.その予後はどうなったのだろうか.当時は,不可避な事と思い,何の疑問も持たずに日々の処置に追われた.しかしながら,「何も自覚症状がない歯に手をつけたのに,そこまでしなくてはならないのか?」と訝る患者さんもいた. いつしか自分もその考えに賛同するようになった. 何とかならないかと,直接覆髄なるものを行うようになる.術式も稚拙ではあっただろうが結果は散々なもので,続けて行う気にはなれなかった.術後痛みが出たり,うまく経過しているようにみえても1〜2年で抜髄や感染根管処置が必要になる歯も多かった. その後は,露髄させずに残した軟化象牙質を水酸化カルシウムで硬化させるIPC法を行うようになる.露髄させないというのは大変重要な事で,歯髄を残せる歯がずいぶん増えた.露髄の危険を回避するために無麻酔でカリエスを除去する術式は,患者さんの説得も要したが,自分自身にも意識改革が必要だった. ただし,この方法は期間がかかることが欠点で,最終修復物を装着できるまでに数カ月かかった.転勤などで長期通院の難しい方が多いオフィス街の立地条件にあっては選択できない場合もあった. そんなこともあり,LSTR療法には興味を持っていた.1999年に,本特集の著者でもある星野・宅重先生らによる3Mix-MP法の実習付き講習を受講する機会に恵まれた.この講習では主として薬剤の取り扱い,使用法とセメントによる辺縁封鎖が重要と教わった.また,まずは,Save Pulp法から試してみるようにとアドバイスを受けた. さっそく器材と薬剤を購入し,臨床応用を開始して4年になる.感想としては,効果的な治療法で抜髄になる歯を大幅に減らすことができ,手応えを感じている. 今回の特集を拝見するにあたり,他の先生方の体験談を目にするのが楽しみであったし,他医院での治療成績も気になるところであった.また,自分ではまだ行っていない歯内療法への応用例が勉強できるのではないかと期待していた. 特集を一見してまず17題ものボリュームに驚いた.第2回LSTR研究会の活気が伝わってくるようであった.内容では,基本的な事項が詳述されており,その重要性を再認識させられた.成功のポイントとして,講習会でも何度も強調されていた事項である. また,再治療になった例など参考になる体験談が示され,陳旧性の歯根破折への応用例など,思ってもみなかった応用法を知ることができた.歯周治療においても困難ながら可能性が示された.歯内療法においては,つい従来の治療の概念にとらわれた目でみると,理解できにくい部分もある.しかしながら,余計なことを行わずに治癒に導けるのならば有意義なことなので,今後自分でもチャレンジしていきたい課題だ. 新しい治療法であるので,今後も基本的事項の確認やさまざまな試み,経験談や情報交換の場が必要で,ぜひ生の情報に接してみたいと感じた. 今回の特集を拝見して,今年開催予定の研究会に引き付けられる気持ちになったのは,著者らの意図どおりのことと思う.ぜひ仲間と連れ立って参加したいものだ. |
![]() 2月号小特集I「臨床で知っておきたい口腔内細菌のこと」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.) つちおかひろあき 土岡弘明 一般に,患者さんたちは“虫歯になった”“歯ぐきから出血する”“歯がぐらぐらする”など,さまざまな理由で歯科に来院される.われわれ歯科医はこれらの病態の原因が細菌感染症であると認識しつつ,日々治療に臨んでいる.一方,患者さんの中でこれらの症状が感染症だという認識を持っている方は,残念ながらまだ少ないようだ. 本小特集では,各先生方により,デンタルプラーク細菌の特徴,う蝕・歯周病の原因細菌,臨床での対応について述べられている.歯科医は,臨床を行いながら細菌本体を目視することはない.しかし,奥田論文,弘田・三宅論文で述べられているように,実際の罹患部位では細菌がバイオフィルムを形成していること,またこれが生体防御メカニズムに抵抗性を持っていることを認識しつつ,われわれは治療を行わなければならない.また,論文中ではう蝕・歯周病それぞれの病巣・分類別にターゲットとなる細菌の種類・性質,そして疾患に続発する感染症についても述べられている.これは,単に病態に対応するだけでなく,全身疾患のリスクファクターとしての歯科疾患,歯科疾患のリスクファクターとしての全身疾患という認識のもとに対応していくことの重要性を示唆しており,このことをふまえた対応が,患者さんたちのQOL向上につながるといえる. 現在の歯周治療では,メインテナンスに移行する条件として臨床症状の改善と機能回復がその要件となるわけだが,吉野論文によると,成人性歯周炎において初診時に比し歯周基本治療後では歯周病原性細菌は減少するが,歯周病原性細菌叢内の各細菌の比率はあまり変化しないとある.実際,メインテナンス中に症状が悪化するケースもあり,臨床症状だけでは判断できないことも多い.このことから,臨床症状に依存することなく,細菌をモニターするという治療法はたいへん有効であるといえる. 現在,私たちも吉野論文と同様な視点で,歯周病患者の血清から抗体価を測定することにより過去にどのような細菌に感染しているかを診断している.また現時点の症状の診断としては,唾液・ポケット内プラークから細菌をサンプリングし,治療の一助としている.そして治療段階に応じて再検査を行うことによって,治療行為の成果を判定している. 歯周治療に限らず,今後このような術式は必然的に広まっていくものと思われる.細菌の存在を見据えた治療の確立につながるものとして期待できる方法である. 奥田論文ではさらに今後の展望として,原因細菌の初期付着を抑えること,バイオフィルム形成を阻害することによる予防治療の可能性について述べられており,近い将来,感染症としての歯科疾患への認識・対応が,必ず変化していくことになるであろう. これからの時代に歯科医がなすべきことは,まず患者さんにう蝕や歯周病が感染症で,それゆえの病態であるということも理解してもらうこと,そして患者さん本人だけでなく家族ぐるみの予防・治療の重要性を訴えることであろう.疾患に対しての治療法や材料が開発・紹介され,とかくHow toに走りがちな私を含む若い歯科医たちに,原因論の重要さと,これから進むべき方向性を示している今回の小特集は,非常に有益であると感じた. |
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![]() 1月号特集端山論文「自費診療におけるトラブルの現状」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.) おかなが さとる 岡永 覚 筆者は,顎関節症の治療を行っている関係上,顎関節症患者から多くの相談を受けてきた.その中で,適切な情報開示を受けていない患者が如何に多いか,驚かされた. (1)「かみ合わせを治せば良くなる」と言われてフルマウス・オーラルリハビリテーションや歯列矯正を行い,かえって病状が悪化した患者 (2)「治療が終わっている」と言われている歯なのに,歯ぎしりで経過が悪く,何度も治療をやり直している患者 (3)「保険のスプリントでは治らない」と言われて自費で〇〇プレートを入れたが,顎関節症が治らなかった患者 (4)「臼歯を抜いたままにしておくと良くない」と説明され,インプラントを勧められて治療を受けたら,顎関節症になってしまった患者 筆者は主として顎関節症患者の相談を受けているので他の患者のことはわからないが,これらの事実は,患者にとって深刻な問題であることに変わりはない.何故,このようなことが起こるのだろうか.歯科医師として,反省すべき点があるような気がする. 第1に,情報開示のあり方に問題はないだろうか.たとえば,宝くじについて説明するとしよう.「3億円が当たる」と「当たるが,適中率は競馬や競輪よりも低い」のどちらが適切な情報開示と言えるか,よく考えてみよう.医事紛争予備軍の患者の多くは,前者のような説明(宣伝?)しかされてなく,マイナス面についてあまり聞かされていない. 第2に,採算性を重視する余り,治療計画が歪められていないだろうか.歯周病,顎関節症,歯ぎしり,ドライマウス等があれば,それらの治療を優先させるべきだが,それらの治療は時間がかかる上に儲からない.そのため,補綴処置や矯正などの自費診療を急いでしまう.しかし,そのようなことをすると必ずしっぺ返しがあり,後でトラブルになる. 第3に,治療費について,患者が納得しているだろうか.治療内容と治療費について,保険と自費の問題を含めて患者が納得できる説明をしていないから,患者が「法外な治療費を請求された」等と訴えるのだ. さらに,近年,患者の権利意識が高くなり,治療に関する不平不満があれば泣き寝入りすることなく,主張するようになってきた.そのため,些細なことでも医事紛争に発展することがある.歯科医に過失がなくても,医事紛争に巻き込まれることさえある.以前,治療を担当した歯科医を告発する患者のサイトを見たことがある.医事紛争は,「裁判にならなければOK!」と言うような,単純なものではなさそうだ. このような時代に,開業医として如何に患者と向き合っていくべきだろうか.日頃から患者の不平不満に耳を傾け,誤解の芽は早期に摘むようにすることが大切だと思う.そして,地域の病診連携,患者との話し合いを持つ窓口,患者に対する万が一の保障等,患者のために万全の体制で臨むのが,開業医としての責務だと思う. しかし,そのような責務を開業医個人で果たすには限界がある.やはり,歯科医師会のような組織に入会し,サポートを受けなければ無理である.歯科医師会は医事処理委員会のようなものを持っており,これからの時代,開業するなら,行政や医師会ほかの関係団体とも連携している歯科医師会に入会する必要があるようだ.また歯科医師会も,組織率が上がってこそ交渉時に大きな力を発揮する. |