読後感


3月号特集「根尖病変治りにくい感染根管へのアプローチ」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.)

ながぶちこうたろう
永渕康太郎


 今回の特集を読んだとき,根尖病変が存在する歯牙の症例がいろいろ頭に浮かんできました.根管充填が終了し,これで根尖病巣も消退するだろうと思いきや,いつまで経ってもX線所見上に変化は現れず,そのうえに瘻孔まで生じ,患者さんに説明して根尖端切除を実施したことなど…….
 あらためて振り返ってみると,和達先生が述べておられる「根管治療における難治症例への対応」での必須点検項目である“ラバーダムの使用”を怠っていたのも,その原因の一つだったようです.
 このような見方からすると,難症例ではないかと疑う前に,感染根管が細菌による感染症であることをまず認識し,使用器具の滅菌,緊密な仮封などの基本事項を再点検する必要がありそうです.
 さて,特集の中で各執筆者が述べておられるように,通常の根管治療で治癒しない症例に関しては,根管系の複雑な形態が原因として密接に絡んできます.複雑な根管へのアプローチは,X線の偏心投影による写真撮影や,マイクロスコープによる観察は欠かせません.マイクロスコープを臨床で用いるにはさまざまな制約があるでしょうから,せめて拡大鏡(テレスコープ)くらいは日常臨床で使用できるようにしておきたいものです.
 とはいえ,規格化された根管治療用器具では複雑な根管形態に対応することがむずかしく,そのためには薬剤による無菌化が有効であろう,とも述べられています.
 薬剤を使用するにあたっては,細菌検査が重要な役割を果たすと思われますが,チェアーサイド嫌気培養システムの項において,抗菌剤感受性試験で選択した抗菌剤を根管と根尖周囲に局所投与し,その効果を細菌検査で確認するという処置を繰り返し行っている,との記載があります.私としては,どのような薬剤を・どのような方法で・どれだけの量を局所投与されているのか,詳細が知りたいと思いました.
 3Mix-MPの項との関連では,私も臨床で使用して好成績を上げています.ただ,臨床で実際に使用するに当たっては,豊島先生が書かれているように,
(1)かならず薬物アレルギーの問診を行う
(2)患者さんとの間でインフォームド・コンセントの確立をみる
(3)副作用に注意する
(4)不必要な投与はしない
(5)歯科医師の責任で使用を決める
といった注意事項を,しっかり守ることが必要です.
 しかしながら,現実にはこのような基本事項を守らず,感染根管ならどんな症例でも3Mix-MPを使用するという歯科医師もいるようなので,そろそろ3Mix-MPの臨床応用に関して,より厳しいガイドラインが必要ではないかと思われます.
 治りにくい感染根管は,歯牙の持つ条件だけでは発生しません.人為的な原因,すなわち私たち歯科医師の治療上のミスが引き金になることも少なくないようです.根管治療の基本を守り,治療上の各ステップを確実に行うことが重要であることは言うまでもありません.
 そしてできることなら,根管治療を行わなくて済むように,歯髄,歯質を守ること,すなわち予防歯科体制の充実と確立が,8020をめざそうとしているこれからの歯科医療に強く求められているのではないでしょうか.




読後感


3月号特集「根尖病変治りにくい感染根管へのアプローチ」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』4月号に掲載された内容を転載したものです.)

やまもとひろし
山本 寛


 根尖病変成立の主たる要因が細菌であることは明らかであるが,では,実際の治療中に,術者はこのことをどの程度意識しているであろうか.十分な根管の拡大・清掃・消毒を行い,可及的に細菌の量を減少させ,場合によっては薬剤によって細菌の活動を制御し,細菌−宿主防御機構のバランスを治癒の方向へ持っていくことが根尖病変治療の成功をもたらすと考えられている.しかし,側枝や複雑な根管分岐,著しい彎曲や狭窄,あるいは根尖孔外の細菌バイオフィルムの形成などの要因のため,順調には治癒しない症例もある.
 根管治療の成功率は,抜髄で90%以上,感染根管であっても未治療の感染根管ならば80〜90%の成功率が得られると,多くの研究で報告されている.他方,再治療症例では明らかに成功率が低下している(50〜60%).最初に根管治療を行う術者の責任は重い.
 根管治療にあたっては,ラバーダムを使用してこれ以上の細菌の根管内への侵入を防ぎ,厳密に滅菌した器具を用い,確実な仮封を行うことが根管内の可及的な無菌化に必要不可欠である.これらの技術的な優劣以前の問題が正しく認識されていないという日本の現状が,諸外国と比較して圧倒的に再治療が多いという現実に直結していると言えよう.もちろん,細菌の問題を正しく認識し地道な努力を続けている一般歯科医も増えているが,ラバーダムすら使用しない症例を誇らしげに学会報告する一部の大学の若い歯科医を見るたびに,日本の現状が一向に改善されないことに納得してしまうのは,筆者だけではないであろう.
 本特集では難治性根尖性歯周炎と細菌について述べられているが,歯の解剖学的形態や歯根破折のために難治性になっているもの以外に,除去不可能な器具破折片,穿孔,レッジの形成などによって難治性(医原性)になっている例があることも指摘されている.また,一般歯科医が難治症例として大学へ送った症例の過半数が通常の根管治療のみで治癒した……とも述べられている.
 では,開業医から難治症例として紹介された症例は誰が治療したものであろうか? その難治症例を経験豊かな専門医が治療したから治癒したのであろうか? 本文中に記載はないが,筆者が勤務していた大学では,教育・研究に忙しい教官が開業医から依頼されたすべての難治症例を引き受ける余裕など全くなく,多くの症例を臨床経験数年の若い医局員や学生が治療して好成績が得られていた.諸外国の論文でも,経験豊かな術者と学生との成功率に有意差が認められないという結果が多く報告されている.いかに基本に忠実に治療を行うことが大切であるかが示されていると言えよう.逆に,基本に忠実に治療を行えば,それだけで医原性難治症例は減少するのではないだろうか.不潔な環境下での治療は,容易に再治療という難治症例を発生させているようである.
 今回の特集で,細菌感染と難治性根尖性歯周炎の問題だけでなく,根尖性歯周炎の診断と治療計画についても述べられていることは特筆に値する.「正しい治療は正しい診断に基づいてのみ行われる」ことを改めて指摘され,身の引き締まる思いである.多くの方に本特集に目を通していただきたいが,お忙しい方には特に宮下氏の論文をお勧めしたい.




読後感


2月号特集「歯科用CAD/CAMの現状と今後の展開――いかに臨床の場に定着させるか」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

たかいしよしとも
高石佳知


 独自性とスピードを求める私の歯科医院では,すでにCAD/CAMシステム,特にGN-Iがコアコンピタンスの実践に欠くことのできない重要な役割を果たしています.
 私の歯科医院のコアコンピタンスは次の項目です.

 ・徹底されたインフォームドコンセント
 ・患者様のニーズに応える短時間治療の実施
 ・最善の高付加価値治療をリーズナブルに提供
 ・高齢化に対応した新たな視点の導入

 21世紀の科学技術を代表するITとバイオテクノロジーの結合は多くの歯科医療の形態を変革すると考えられていますが,高石歯科医院でも,幾多の先端技術に支えられた歯科医療実現のために,多くの取り組みを行っています.
 この中でCAD/CAMシステム関連では,第1に,すでに世界で最初のITによるシミュレーション画像を用いたインフォームドコンセントシステムを独自に開発し,日本のみならず国際特許を取得しております.このシステムにより患者様は,ご自身の顔の治療後のイメージを治療前に見ることができ,安心して治療を受けることができます.
 第2に,IT機器の導入による1Day Serviceの実現です.患者様の満足度を高める上で高石歯科医院が世界で最初に臨床導入を図ったシステムがあります.それが,CAD/CAMシステムを使用した1Day Serviceです.患者様の時間を最も尊重し,早期に審美歯科治療を行い,治療を1日で完結することを第一に考慮し,CAD/CAMシステムの導入を図りました.
 最短1時間で補綴物を作ることができるこのシステムは,患者様の歯科治療のイメージを飛躍的に変えることが可能となりました.特に,補綴物設計時の負担が軽減され,加工精度も向上し,同時に製作コストの軽減が図れ,しかも短時間で製作できる点にメリットがあります.従来,セラミックスによる補綴物の製作は,熟練された技工士による手作業であったため,製作物の完成度は技工士個人の熟練度に左右されましたが,CAD/CAMシステムを使用することにより,補綴物を平均して高品質に維持することができます.
 私の歯科医院では,コアコンピタンスの実現のために4年前からGN-Iを導入し,特に,大小臼歯部セラミックインレー,セラミッククラウン,インセラムコーピングを主に私の歯科医院の技工士が製作しています.つい最近も,シカゴから患者様がセラミックス治療で来院し,1泊2日ですべての治療を終了できました.補綴物製作の間,その方は宮本武蔵,トム・クルーズのロケで話題の国宝姫路城,書写山円教寺を訪問され,治療終了後すぐに米国へ帰国されました.
 このように患者様は,日本のみならず世界の地域差,距離の差をなくした歯科治療の受診が可能になります.もちろん,各歯科医院のコアコンピタンス,先生方のコンピタンシーは異なりますが,今回紹介されましたCAD/CAMシステムの中から最適なシステムを選択され,患者様第一主義をベースにした歯科医院の行動規範を確立されることで,21世紀の新たな歯科医療の成功に繋がるのではないかと考えます.




読後感


2月号特集「歯科用CAD/CAMの現状と今後の展開――いかに臨床の場に定着させるか」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

やまぐちよしお
山口佳男


 これからの歯冠修復技工を考える上で,審美性の追求と機能性の確保は必要不可欠である.審美性への対応として,メタルフリーによるオールセラミックスおよびインプラント上部構造の製作術式,機能性では生体親和性材料のチタンおよび作業環境改善を目的とした機械加工など,技工技術の高度化ならびに多様化への対応が迫られる.
 しかし,これらの対応は個別に行うものではなく,歯冠修復物として包括的な対応が必要である.その対策の一法として挙げられるのが,歯科用CAD/CAMシステムである.CAD/CAMシステムによる加工材にはセラミックスやチタン金属が用いられ,優れた寸法精度でコーピングを製作する.このような新たな技術の情報提供としての今回の特集は,歯科用CAD/CAMシステムの現状を整理し,また臨床応用の可能性を示唆していた.
 そこで,本特集の内容について具体的にまとめると,以下のようになる.
 まず,現状について2点が挙げられる.

1.スキャニング法について
 それぞれに長所・短所はあるものの,非接触型計測が主流となるであろう.また,正確なスキャニングをするためには,アンダーカットのない滑らかな支台歯形成,計測誤差の少ない辺縁形態,およびマージン部の鮮明な印象採得が要求される.
 単純な形態でCADの形状計測に最も有効な支台歯は,機械加工されたインプラントアバットメントであろう.インプラント上部構造のフレーム製作はCAD/CAMシステムにとって変わる日も近いものと思われる.

2.歯冠修復物の製作
 コーピングの製作では,臨床応用に十分満足できる状態であることは各メーカー共通の見解であるが,形態回復,咬合関係などについての評価は分かれるところである.加工技術を向上させることは設備投資の増大につながるため,CAD/CAMシステムの普及を減速させてしまう恐れもある.
 また,今後の展開としては次の点が挙げられる.

3.インターネット通信について
 CAD/CAMシステムは高価なため,導入は設備投資の可能な施設に限られる.そこで,CADのみを購入させ,データ通信を用いて加工センターで機械加工させ,その製品を返送させるというメーカーの対応が,一部のメーカーのみならず,多くのメーカーで実現されようとしている.



 良質な補綴物を製作するために技工過程を機械化することは,安定供給する上で必要となる.なかでも,歯冠修復における適合精度は材料の管理や鋳造方法などに大きく影響され,熟練した技術を要求されるため,手技を機械加工に移行できるメリットは非常に大きい.
 そのためには,法令を守り,歯科技工士の求める品質と歯科医師の要求する品質に整合性を持たせた基準づくりが急務であるが,現実問題として,どこまで対応できるであろうか……?




読後感


コラム論点:「日歯はどこに行くのか」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

よういねたくじ
用稲卓司


 日歯代議員で長野県の村居正雄先生の書かれている“日歯の課題”には,会員として深く共鳴しました.全くそのとおりであります.来る3月13,14日に開催予定の日歯代議員会において日歯の次期役員選挙が行われますが,“誰が役員になっても結局は同じこと”と決めつけずに,会員として大いに関心を持つ必要があると思います.
 中でも,私は以下の点に強い関心があります.

(1) 大胆な機構改革の断行
 厳しい現実に直面している会員の,日歯に対する意識変化に対応する戦略的組織(日歯総研)の立ち上げが早急に必要で,年間数億円かけてでも効果の期待できる事業に年会費や連盟会費を活用すべきである.

(2) 30〜50代の声を反映させる
 この年代は,医療保険制度や歯科医師需給問題で最も影響を受ける働き盛りの世代である.
 中央と地方では診療形態(自費診療の割合など)が違うが,地方では保険制度改悪の影響が特に大きく,どんな田舎でも歯科医で溢れている.
 20年前に国民医療費の10%を越えていた歯科医療費が,平成11年度には8.2%にまで減少している.歯科は,国民医療費を引き上げる要因にはなっていないのである.

(3) 会長直接選挙制度の実施
 中央の学閥のたらい回しを打破し,地方出身者の会長を実現して旧態依然とした組織を変える.現在の日歯役員は歯科の良き時代を経験した人たちが占めているので,現実の厳しい会員の経営状況が理解できていない,と言われても仕方がない.

(4) インターネットによる会員との直接対話システムの導入
 代議員を通してしか会員の声が反映されない現在のシステムでは,役員からみれば,自分たちの考えが最も反映しやすいのだろうが,会員の生の声は届きにくい.

(5) 日歯代議員の若返りと定年制の導入
 日歯の年齢別会員構成では40代がピークであるので,30代から50代の代議員が多数を占めても当然である.組織は世代交代がないと衰退するし,実務的にも必要である.したがって,代議員の定年制を導入する.

(6) 日歯,日歯連盟離れへの対応
 現在の日歯および連盟は,“会費負担は大きく,メリットが少ない組織”と多くの若い会員から思われている.この20年間に総額70万円の連盟会費を払い続け,業界代表を希望を持って国会に送り,自民党に毎年多額の献金をしてきても経営は好転せず,挙げ句は健保法一部改正法案に賛成したのが中原参院議員の暴挙である.これについては検証の必要がありはしないか.
 また,年間20億円以上とも言われている連盟会費の使われ方にも問題があるが,「透明性」と「説明責任」は今のところないがしろにされている.

(7) 歯科保健医療の位置づけを高める
 2001年12月9日に開催された鹿児島県歯科医師会主催の「歯科フォーラム2001」で,歯科保健課長は「歯科疾患は,医療費ベースで見た場合には2兆1千億円で,癌などと比べてみても,コントロールするのは当然だという意見がある」旨の発言をされたが,高齢社会を迎えて,口腔保健医療の位置づけをさらに高める必要がある.



 本年4月からの被用者保険本人の自己負担3割を目前に,今こそ会員一人ひとりが立ち上がり声を大にして,急激に求心力を失いつつある日歯の存在意義を問わなければならないと思います.




読後感


新春展望/21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

おかなが さとる
岡永 覚


 昨年の11月,足を骨折して入院し歯科医院を休みました.開業以来,歯科医院を続けて休んだことがなかったので,よい経験をさせてもらいました.そして,新春展望21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」を松葉杖の状態で読ませていただきました.「足の状態がよくなくて,思うように診療ができない!」という苛立ちと同時に,「4月になったら,患者さんが来てくれるだろうか?」という不安に悩まされた毎日でした.でも,自分を見つめ直す絶好の機会となりました.
 私は,病院のベッドで一人考えました.「入院という私事で予約をこちらからキャンセルしておいて,何人の患者さんが再び来てくれるかな?」と,正直言って心配でした.しかし,ほとんどの患者さんは,予約を取り直して来てくれました.ただ,一人,P急発で通院していた患者さんなのですが,入院中の休日に来院し,「診察もせずに休日歯科診療所しか紹介してくれなかった」とさんざん文句を言って,来なくなりましたけれど……(私は,患者さんに感謝しなければなりませんね).
 ところで,4月以降,患者さんの減少を最小限に食い止めるヒントが,足を骨折することでつかめたような気がします.「どれだけ多くの患者さんが,私という歯科医を選んで来てくれるか?」の一言に尽きるなと思いました.「私という歯科医を評価し,頼ってくれる患者さんの存在が,何よりも大切な財産なのだ」ということを,新春展望21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」を読んで再認識させられました.
 私は,病院で一人考えました.「岡永歯科に来ている患者さんは,顎関節症,歯科心身症などに苦しんでいる方が多く,他の歯科医に治療を引き継ごうと思っても難しいケースが少なくないので,代診の歯科医に来てもらっても無理かな」.そして,片足が使えなくても治療ができるように診療内容を工夫し,退院した翌日から診療を始めるしかない,という結論に達し,ひたすら専門書を読みまくりました(片足でも椅子に座れば歯科治療はどうにかなると思っていたのですが,理学療法をする際に不安が残っていましたからね).
 そこで,入院中に今まで顎関節症の患者さんに行ってきた手技療法の見直しを徹底的に行い,必要な器具を購入し,納得できるまでイメージ・トレーニングを繰り返しました.そして,退院してからギブスのまま診療を始めたのですが,患者さんが協力的だったお陰で,何とか診療を始めることができました.「片足が使えないので手技療法はできません」では顎関節症の患者さんが困りますから,歯を食いしばって頑張ったつもりです(それが患者さんに伝わったのかな).
 最後に,4月以降の私的な展望ですが,“ただの歯科医を求めて受診する患者さんは減っていくでしょうが,私という歯科医を評価して頼ってくる患者さんは決して減ることはない”と思っています.後者のような患者さんを一人でも増やしていくことが,21世紀に歯科医を続けていく上でのキーワードとなるのではないかと考えています.