読後感


2月号特集「歯科用CAD/CAMの現状と今後の展開――いかに臨床の場に定着させるか」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

たかいしよしとも
高石佳知


 独自性とスピードを求める私の歯科医院では,すでにCAD/CAMシステム,特にGN-Iがコアコンピタンスの実践に欠くことのできない重要な役割を果たしています.
 私の歯科医院のコアコンピタンスは次の項目です.

 ・徹底されたインフォームドコンセント
 ・患者様のニーズに応える短時間治療の実施
 ・最善の高付加価値治療をリーズナブルに提供
 ・高齢化に対応した新たな視点の導入

 21世紀の科学技術を代表するITとバイオテクノロジーの結合は多くの歯科医療の形態を変革すると考えられていますが,高石歯科医院でも,幾多の先端技術に支えられた歯科医療実現のために,多くの取り組みを行っています.
 この中でCAD/CAMシステム関連では,第1に,すでに世界で最初のITによるシミュレーション画像を用いたインフォームドコンセントシステムを独自に開発し,日本のみならず国際特許を取得しております.このシステムにより患者様は,ご自身の顔の治療後のイメージを治療前に見ることができ,安心して治療を受けることができます.
 第2に,IT機器の導入による1Day Serviceの実現です.患者様の満足度を高める上で高石歯科医院が世界で最初に臨床導入を図ったシステムがあります.それが,CAD/CAMシステムを使用した1Day Serviceです.患者様の時間を最も尊重し,早期に審美歯科治療を行い,治療を1日で完結することを第一に考慮し,CAD/CAMシステムの導入を図りました.
 最短1時間で補綴物を作ることができるこのシステムは,患者様の歯科治療のイメージを飛躍的に変えることが可能となりました.特に,補綴物設計時の負担が軽減され,加工精度も向上し,同時に製作コストの軽減が図れ,しかも短時間で製作できる点にメリットがあります.従来,セラミックスによる補綴物の製作は,熟練された技工士による手作業であったため,製作物の完成度は技工士個人の熟練度に左右されましたが,CAD/CAMシステムを使用することにより,補綴物を平均して高品質に維持することができます.
 私の歯科医院では,コアコンピタンスの実現のために4年前からGN-Iを導入し,特に,大小臼歯部セラミックインレー,セラミッククラウン,インセラムコーピングを主に私の歯科医院の技工士が製作しています.つい最近も,シカゴから患者様がセラミックス治療で来院し,1泊2日ですべての治療を終了できました.補綴物製作の間,その方は宮本武蔵,トム・クルーズのロケで話題の国宝姫路城,書写山円教寺を訪問され,治療終了後すぐに米国へ帰国されました.
 このように患者様は,日本のみならず世界の地域差,距離の差をなくした歯科治療の受診が可能になります.もちろん,各歯科医院のコアコンピタンス,先生方のコンピタンシーは異なりますが,今回紹介されましたCAD/CAMシステムの中から最適なシステムを選択され,患者様第一主義をベースにした歯科医院の行動規範を確立されることで,21世紀の新たな歯科医療の成功に繋がるのではないかと考えます.




読後感


2月号特集「歯科用CAD/CAMの現状と今後の展開――いかに臨床の場に定着させるか」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.)

やまぐちよしお
山口佳男


 これからの歯冠修復技工を考える上で,審美性の追求と機能性の確保は必要不可欠である.審美性への対応として,メタルフリーによるオールセラミックスおよびインプラント上部構造の製作術式,機能性では生体親和性材料のチタンおよび作業環境改善を目的とした機械加工など,技工技術の高度化ならびに多様化への対応が迫られる.
 しかし,これらの対応は個別に行うものではなく,歯冠修復物として包括的な対応が必要である.その対策の一法として挙げられるのが,歯科用CAD/CAMシステムである.CAD/CAMシステムによる加工材にはセラミックスやチタン金属が用いられ,優れた寸法精度でコーピングを製作する.このような新たな技術の情報提供としての今回の特集は,歯科用CAD/CAMシステムの現状を整理し,また臨床応用の可能性を示唆していた.
 そこで,本特集の内容について具体的にまとめると,以下のようになる.
 まず,現状について2点が挙げられる.

1.スキャニング法について
 それぞれに長所・短所はあるものの,非接触型計測が主流となるであろう.また,正確なスキャニングをするためには,アンダーカットのない滑らかな支台歯形成,計測誤差の少ない辺縁形態,およびマージン部の鮮明な印象採得が要求される.
 単純な形態でCADの形状計測に最も有効な支台歯は,機械加工されたインプラントアバットメントであろう.インプラント上部構造のフレーム製作はCAD/CAMシステムにとって変わる日も近いものと思われる.

2.歯冠修復物の製作
 コーピングの製作では,臨床応用に十分満足できる状態であることは各メーカー共通の見解であるが,形態回復,咬合関係などについての評価は分かれるところである.加工技術を向上させることは設備投資の増大につながるため,CAD/CAMシステムの普及を減速させてしまう恐れもある.
 また,今後の展開としては次の点が挙げられる.

3.インターネット通信について
 CAD/CAMシステムは高価なため,導入は設備投資の可能な施設に限られる.そこで,CADのみを購入させ,データ通信を用いて加工センターで機械加工させ,その製品を返送させるというメーカーの対応が,一部のメーカーのみならず,多くのメーカーで実現されようとしている.



 良質な補綴物を製作するために技工過程を機械化することは,安定供給する上で必要となる.なかでも,歯冠修復における適合精度は材料の管理や鋳造方法などに大きく影響され,熟練した技術を要求されるため,手技を機械加工に移行できるメリットは非常に大きい.
 そのためには,法令を守り,歯科技工士の求める品質と歯科医師の要求する品質に整合性を持たせた基準づくりが急務であるが,現実問題として,どこまで対応できるであろうか……?




読後感


新春展望/21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)

かたやましげき
片山繁樹


 昭和63年に開業して,もうすぐ15年になる.その間,バブルが発生して崩壊し,現在は底なしの不況の様相だ.開業歴40年の大先輩も「いままで不況と言われた時代は何回もあったけれど,今回のようにひどくはなかった」とおっしゃる.
 わが身を振り返ってみても,幸運にも開業以来13年間増収を続けていたが,一昨年,昨年と減収になってしまった.医療制度改革が進んできたためなのか,不況のせいか,理由ははっきりしないが,今後の経営方針を考える上で医療制度改革からは目が離せない.そういう意味で今回の「新春展望」の論文はすべて興味深く,本当に役に立つ情報が満載で,示唆に富んでいたと思う.
 世の中ではデフレが進行しており,身の周りのいろいろなものが以前と比べて格段に安く手に入るようになっている.信用金庫の外交員は,「近所の零細企業では収入が3分の1くらいになっているところも多く,後ろ向きの仕事で大変忙しい」とこぼす.歯科界でショックを受けた昨年の医療保険初のマイナス改定は,一般社会から見ると問題にならないレベルなのかもしれない.
 さて,今回の特集の中でも「歯科相談から“歯科医療への要望”を探る」と「患者がのぞむ歯科医療」は特に関心を持って拝読させていただいた.
 「歯科相談」に関心を持ったのは,今年度から歯科医師会の電話相談窓口を担当しているためだ.歯科検診に付随して実施された相談ということで,内容が比較的シビアでないものが多いというのが正直な感想だが,800例という相談数には説得力があり,歯冠修復,補綴治療,抜歯など処置内容別にまとめられていて,非常にわかりやすかった.
 歯科医師会にまで電話をかけてくる相談者にはそれだけ強烈な動機がある場合が多いので,私たち相談担当者が実際に受けている相談は,単純な相談というよりは苦情,紛争に近いものが多い.その根底に今回提示されたような不満,疑問,誤解があるのは間違いない.日々の診療の中でこれらの不満や疑問を解消していく努力が求められている.
 「患者がのぞむ歯科医療」では,患者さんが抱く歯科への不満が「支払いの不透明性」「治療期間の不確実性」
「臨床技術の格差」の3つにまとめて解説されていて,大変参考になった.
 診療費や治療期間をわかりやすく説明することはすぐにでも実践したいが,後者については,はっきり断言しにくいことが多いのも事実である.また,最後の臨床技術についての評価は,ますます厳しくなってきている.「自費診療をしてもらったが,調子が悪い.返金してほしい」「親知らずを抜いてもらおうとしたが,抜けなかった.レントゲンを撮って調べているのに抜けるかどうかくらいわからないのか!」というような苦情も多い.
 この論文でも患者さんの情報不足が問題だとされており,患者さんとの情報格差を解消する努力,すなわち,コミュニケーションの重要性を再認識させられた.



 今回の特集に示されたように,ITの普及,患者さんの意識や政治経済情勢さらにはマスコミ報道の変化など,私たち歯科界を取り巻く環境は急速に変容している.技術不足を「やぶ医者」の一言で済ませてもらえた良き時代は過ぎ去ろうとしている.治療技術の向上に努力するとともに,インフォームド・コンセントにも心がけて,患者さんに感謝してもらえる医療の提供に邁進していきたいものだ.




読後感


新春展望/21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」を読んで
(『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.)


かわはらまさてる
川原正照


 われわれ歯科医師と患者をめぐる医療環境は,歯科医師数の急激な増加という供給過剰に加えて,少子化による人口の減少,医療保険制度の改正による受療行動の抑制などにより,需要は減少の一途をたどっている.その上,IT技術の進歩・普及による医師と患者間の情報格差の縮小により,圧倒的な患者優位の環境となった.このような歯科医療環境の中で,いかに口腔保健の重要性を国民に向かって訴え,来院患者を増やすかが問われてくる.受診率の向上が喫緊の最重要課題である開業医にとって,今回の特集はわれわれができる増患対策についてヒントを与えてくれた.
 まず,かかりつけ歯科医のいる患者においては自己負担増になっても受療行動に抑制効果が見られなかったという報告があることから,かかりつけ歯科医として,患者の抱く疑問や不満を常に解消するように努力しなければならない.たとえば治療期間の不確実性については,歯科医療のゴールの選択権は歯科医師でなく患者にあることを認識し,両者の乖離を埋めるために,あらかじめ治療計画や終了後のイメージを提示してゴールを共有し,患者さんといい関係(public relation)を構築することが大切である.
 また,歯科に対するイメージが受療行動を大きく規定しているとの報告があることから,今までの「削る」「痛い」のマイナスのイメージから「きれいになる」「健康になる」「さっぱりする」等の明るいイメージに転換する必要がある.それに加えて,これまで歯科は「機能」を評価していなかったが,これからは食事が満足に噛めるか,明瞭な発音ができるか,等の「機能」を評価することが大切である.
 そのために,歯の本数を減らさないこと,義歯などの補綴物で機能歯数を十分確保することに加え,よく噛む必要のある食品を摂って筋力を落とさないように指導することが重要である.つまり,歯周病を治療することにより糖尿病が改善されたとか,ブラッシングを励行すると老人の誤嚥性肺炎が減少したという事実に加え,これからは,食べ物をおいしく食べるために歯科の重要性を国民にアピールする必要があるのではないだろうか.
 一方,今回の医療改革はマイナス面ばかりが強調されている.しかしながらケアマネージメントの影響はいずれ歯科にもプラスとなり,口腔ケアの重要性が広く認識されることが予想される.さらに,厚生労働省は今回の被用者保険本人の3割負担導入により,患者負担と保険料の引き上げという改革の「カード」はすべて使い切ったため,これ以上の患者負担増はまずないのではないかと思われる.したがって,被用者本人の一部負担増による4%のマイナス予想も1日の来院患者を1人増やすことで解消できる程度の数値であり,今回の大変革の中に歯科界の飛躍の鍵がありそうだ,という観測はわれわれに一縷の望みと元気を与えてくれるものであった.



 歯科医療の将来の方向性を見失わないためにも,「公的医療保険では不十分であり,民間保険が必要である」が7割いることに思いをいたし,歯科医療の選択肢を広げたい.また,医科と比較して歯科は,健康診断の受診状況は低いが“定期的に歯科を受診するつもり”と考えている人は多く,それらの人々は将来において歯科受診の可能性が高いことを視野に入れておきたいものである.