![]() 2月号特集「歯科用CAD/CAMの現状と今後の展開――いかに臨床の場に定着させるか」を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』3月号に掲載された内容を転載したものです.) やまぐちよしお 山口佳男 これからの歯冠修復技工を考える上で,審美性の追求と機能性の確保は必要不可欠である.審美性への対応として,メタルフリーによるオールセラミックスおよびインプラント上部構造の製作術式,機能性では生体親和性材料のチタンおよび作業環境改善を目的とした機械加工など,技工技術の高度化ならびに多様化への対応が迫られる. しかし,これらの対応は個別に行うものではなく,歯冠修復物として包括的な対応が必要である.その対策の一法として挙げられるのが,歯科用CAD/CAMシステムである.CAD/CAMシステムによる加工材にはセラミックスやチタン金属が用いられ,優れた寸法精度でコーピングを製作する.このような新たな技術の情報提供としての今回の特集は,歯科用CAD/CAMシステムの現状を整理し,また臨床応用の可能性を示唆していた. そこで,本特集の内容について具体的にまとめると,以下のようになる. まず,現状について2点が挙げられる. 1.スキャニング法について それぞれに長所・短所はあるものの,非接触型計測が主流となるであろう.また,正確なスキャニングをするためには,アンダーカットのない滑らかな支台歯形成,計測誤差の少ない辺縁形態,およびマージン部の鮮明な印象採得が要求される. 単純な形態でCADの形状計測に最も有効な支台歯は,機械加工されたインプラントアバットメントであろう.インプラント上部構造のフレーム製作はCAD/CAMシステムにとって変わる日も近いものと思われる. 2.歯冠修復物の製作 コーピングの製作では,臨床応用に十分満足できる状態であることは各メーカー共通の見解であるが,形態回復,咬合関係などについての評価は分かれるところである.加工技術を向上させることは設備投資の増大につながるため,CAD/CAMシステムの普及を減速させてしまう恐れもある. また,今後の展開としては次の点が挙げられる. 3.インターネット通信について CAD/CAMシステムは高価なため,導入は設備投資の可能な施設に限られる.そこで,CADのみを購入させ,データ通信を用いて加工センターで機械加工させ,その製品を返送させるというメーカーの対応が,一部のメーカーのみならず,多くのメーカーで実現されようとしている. * 良質な補綴物を製作するために技工過程を機械化することは,安定供給する上で必要となる.なかでも,歯冠修復における適合精度は材料の管理や鋳造方法などに大きく影響され,熟練した技術を要求されるため,手技を機械加工に移行できるメリットは非常に大きい. そのためには,法令を守り,歯科技工士の求める品質と歯科医師の要求する品質に整合性を持たせた基準づくりが急務であるが,現実問題として,どこまで対応できるであろうか……? |
![]() 新春展望/21世紀の課題「医療制度改革が進む中での患者対応」*を読んで (『日本歯科評論(Dental Review)』2月号に掲載された内容を転載したものです.) かわはらまさてる 川原正照 われわれ歯科医師と患者をめぐる医療環境は,歯科医師数の急激な増加という供給過剰に加えて,少子化による人口の減少,医療保険制度の改正による受療行動の抑制などにより,需要は減少の一途をたどっている.その上,IT技術の進歩・普及による医師と患者間の情報格差の縮小により,圧倒的な患者優位の環境となった.このような歯科医療環境の中で,いかに口腔保健の重要性を国民に向かって訴え,来院患者を増やすかが問われてくる.受診率の向上が喫緊の最重要課題である開業医にとって,今回の特集はわれわれができる増患対策についてヒントを与えてくれた. まず,かかりつけ歯科医のいる患者においては自己負担増になっても受療行動に抑制効果が見られなかったという報告があることから,かかりつけ歯科医として,患者の抱く疑問や不満を常に解消するように努力しなければならない.たとえば治療期間の不確実性については,歯科医療のゴールの選択権は歯科医師でなく患者にあることを認識し,両者の乖離を埋めるために,あらかじめ治療計画や終了後のイメージを提示してゴールを共有し,患者さんといい関係(public relation)を構築することが大切である. また,歯科に対するイメージが受療行動を大きく規定しているとの報告があることから,今までの「削る」「痛い」のマイナスのイメージから「きれいになる」「健康になる」「さっぱりする」等の明るいイメージに転換する必要がある.それに加えて,これまで歯科は「機能」を評価していなかったが,これからは食事が満足に噛めるか,明瞭な発音ができるか,等の「機能」を評価することが大切である. そのために,歯の本数を減らさないこと,義歯などの補綴物で機能歯数を十分確保することに加え,よく噛む必要のある食品を摂って筋力を落とさないように指導することが重要である.つまり,歯周病を治療することにより糖尿病が改善されたとか,ブラッシングを励行すると老人の誤嚥性肺炎が減少したという事実に加え,これからは,食べ物をおいしく食べるために歯科の重要性を国民にアピールする必要があるのではないだろうか. 一方,今回の医療改革はマイナス面ばかりが強調されている.しかしながらケアマネージメントの影響はいずれ歯科にもプラスとなり,口腔ケアの重要性が広く認識されることが予想される.さらに,厚生労働省は今回の被用者保険本人の3割負担導入により,患者負担と保険料の引き上げという改革の「カード」はすべて使い切ったため,これ以上の患者負担増はまずないのではないかと思われる.したがって,被用者本人の一部負担増による4%のマイナス予想も1日の来院患者を1人増やすことで解消できる程度の数値であり,今回の大変革の中に歯科界の飛躍の鍵がありそうだ,という観測はわれわれに一縷の望みと元気を与えてくれるものであった. * 歯科医療の将来の方向性を見失わないためにも,「公的医療保険では不十分であり,民間保険が必要である」が7割いることに思いをいたし,歯科医療の選択肢を広げたい.また,医科と比較して歯科は,健康診断の受診状況は低いが“定期的に歯科を受診するつもり”と考えている人は多く,それらの人々は将来において歯科受診の可能性が高いことを視野に入れておきたいものである. |