読後感


6月号特集「歯科衛生士との“協働”のために」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』7月号に掲載された内容を転載したものです.)


いとう かな
伊藤華奈


 臨床において歯科衛生士は,「歯科医師の直接の指示の下に」の法に則り,さまざまな業務を行います.その際,歯科衛生士は,知識・技術・心を提供しながら,患者様と密接な関わりを持っています.質の良い歯科医療を行うには,歯科医師と共に働くスタッフ全員の志が一体でなければ,チーム医療として成り立ちません.しかし,種々の要因により“協働”が損なわれている場合も,日常には多く存在します.私自身も“協働”について悩んでいた,歯科衛生士のひとりです.
 以前,歯科衛生士の友人が「先生と協力して仕事がしたい.でも,どうすればいいかわからない.先生には理解してもらえない」という切実な悩みを打ち明けてくれました.私は,「先生に時間を作っていただいて,率直な気持ちを話してみてはどうか」と提案しました.躊躇しながらも,その後,彼女は先生と心を開いて話し合い,より良い関係を築くことができました.
 松尾先生・永瀬歯科衛生士ご両人の「歯科医師・歯科衛生士は良きパートナー」,そして,松尾先生自らが「スマイル・プロデューサー」という考え方は大変参考になりました.さらに,その環境の中でのミーティングや勉強会が,仕事にやりがいを持つために有意義であろうと窺えました.
 菅原先生の述べられている“歯科衛生士の心のうち”については,歯科衛生士が感じている率直な気持ちであり,実際に目にすることがあります.逆に,歯科衛生士には歯科医師の心のうちが見えないことも多くあります.歯科衛生士歴12年の私には,両者の考え方が同時に読める時もあります.両者の間で生じる問題の多くは,コミュニケーション不足による誤解です.拝読しながら,複雑な思いがしました.仕事を円滑に行い連携を図るには,お互いを尊重し理解しようとすることが何より重要だと感じました.
 お互いを理解できるようになると,金澤先生が述べられている「歯科衛生士としての役割」が,自ずと明確になるのかもしれません.指示を与えられた折には,判断ミスに注意する必要があります.そして,ミスを防ぐためには,高津先生の「対人関係能力評価票」などがあることで,自らを省みる手助けになるのだなぁと,勉強になりました.新人に限らず,経験年数の長い歯科衛生士,歯科医師にとっても,患者様に与える可能性のある不快な行動を未然に防ぐ手段になることでしょう.
 村居先生の国際協力やボランティアの事例においては,私の未体験の現場をわかりやすく知ることができました.それらを通じて,歯科衛生士は歯科医師と共に,人間性を向上させ自立にも役立つとは,歯科医療の素晴らしさを再認識させていただきました.
 そして,石井先生の述べられた「21世紀に役立つ歯科衛生士」になるために,歯科医師と共に,与えられたものだけに留まらず歯科の分野を越えて飛躍できるよう,努力をしたいと思います.
 今回の特集で,多角的観点からの“協働”ができるような歯科衛生士として,歯科医療に従事できればと考えています.




読後感


5月号特集「一般歯科臨床における歯の挺出」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


すえきひであき
居樹秀明


 日常臨床において,歯肉縁下カリエスや骨縁下に及ぶ歯牙の破折などに遭遇することがしばしばある.保存が難しければ抜歯処置を選択するが,できることなら保存に努めたいものである.そのためにも,挺出は必要不可欠な処置法の1つであるといえる.一口に“歯牙の挺出”といっても,矯正的挺出,外科的挺出,そして自然挺出があるわけで,ともするとどの処置を選択すべきか迷いがちである.今回の特集では,そのような場面に出くわしたときにどう対処すればよいか,また矯正的挺出を応用するにあたりどのようなことに注意して処置すべきか,考慮するうえでとても参考になった.
 矯正的挺出を臨床に取り入れるにあたり,歯牙移動時における歯周組織の病理学的変化については,これまであまり深く考えたことはなかった.しかし,臨床を行ううえで理解しておくことは絶対に必要であり,新倉論文ではこれらのことがわかりやすく解説されており,興味深く読ませていただいた.また,歯牙移動後に歯槽上線維を切除する方法やアンキローシス,保定などについても述べられており,矯正的挺出だけでなく外科的挺出を行ううえでも歯周組織の変化を考慮して処置すべきだと痛感した.
 佐藤論文では,埋伏歯を活かす,あるいは抜歯するために,自然挺出・矯正的挺出を応用した症例が紹介されている.特に,下歯槽管に達する下顎埋伏智歯を抜歯する際,術後性神経麻痺の危険性を回避するため自然挺出を利用し,2回に分けて分割抜歯するという方法には,一種の驚きを覚えた.
 われわれ臨床歯科医師にとって,挺出のなかで最も取り組みやすいのは矯正的挺出である.しかし,実際処置を行うにあたり迷うことは意外と多い.装置はどういったものを使うべきか,矯正力はどれくらいかけるものなのか,どれくらい挺出させるべきか…….日暮論文では,実際に臨床で矯正的挺出を行うための基本から注意すべき事柄まで,症例を提示しながらていねいに説明されており,たいへんわかりやすかった.特に,装置の固定源となる隣在歯を3つのパターンに分けて提示したり,パワーチェーンに荷重をかけた写真を掲載するなどの工夫もみられ,臨床に取り入れるうえで参考となる内容であった.
 篠田・西堀論文は,歯周環境に注目しながら矯正的挺出について述べている.矯正的挺出の歯周組織における有益な変化に着目し,歯周治療の一環として取り入れたり,審美障害に対処したり,インプラント前処置として利用したりと幅広く臨床に応用されていて,たいへん関心を持って読ませていただいた.
 治療の目的や生体の条件によって,挺出法はこんなにも多くの利用法(バリエーション)があるということに感心した.場合によっては,対象となる歯牙のみならず,両隣在歯まで良い状態にすることができ,症例を選べばまさに一石二鳥にも三鳥にもなる処置法といえる.
 多くの患者さんにとって,抜歯は恐怖の的であり,歯の数が減っていくことに抵抗を感じている方は多い.抜かずになんとか歯牙をもたせる歯科医師というだけで“名医”と呼ばれることもある.歯科医師サイドからみれば,必ずしもそう言い切れるものではないが,患者さんのニーズに応えるためにもできる限り抜歯せず保存したいものだ.今回の特集を参考にして,歯牙の矯正的挺出を臨床の場に積極的に取り入れてゆきたいと考えている.今後は矯正的挺出だけでなく,外科的挺出・自然挺出も含めた特集を期待したい.




読後感


4月号論文「レジン充填に関する臨床医の知恵」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


しぶいちいずみ
四分一 泉


 光重合型コンポジットレジン(以下CR)の高品質化は近年めざましいものがある.さらに,CRの接着システムは長足の進歩をとげて,第5世代の時代に入っていると言われている.しかし一方で,進歩とともにメーカーから実に多数のCRが発売されるようになり,葭田先生の言われるように,臨床現場ではその選択に迷わされることになる.
 私はこれまで,CR充填に関してはデータや文献等を参考にして選んだ同一メーカーの一連の製品を用い,エッチングから充填まで一貫してメーカーの仕様書を遵守するシステムが,理論的にも材料の整合性からもベストの診療と考えていた.事実,自分自身では良い結果が得られていたと思う.しかし本論文を読んでみると,「忠実なマニュアルどおりの治療だけで,多様な患者のニーズに完全に応えられる結果が得られるのだろうか?」という疑問が起こった.葭田先生はCRの既存の治療システムを見直し,あくまでin vivoでの結果を求めるために,温故知新ということも考慮した多くの創意工夫をされている.
 私は,臼歯咬合面のCRには色調を合わせやすい製品を用い,充填物と健常部の境界が判然としなくなるほど奇麗に修復されることに満足していた.ところが葭田先生は,色調の一致があまり要求されない部位であることをふまえ,オーバーフィリングの除去が容易なように,故意に白すぎるCRを使用する工夫をされている.また,窩洞の乾燥には完璧を期すためユニットの配管を変更し,エアー専用のシリンジまで作られている.これは本当に驚嘆すべきことである,私の診療室のユニットでは構造上それができないことを残念に思った.
 さらにボンディング材については,従来「化学重合型のボンディング材とCRの組み合わせは,コントラクションギャップを生じやすく推奨できない」という定説があるが,こういう不利益を甘受してもなお,化学重合型のボンディング材を使用されている点も興味深い.これは,光重合型のボンディング材では窩洞からのはみ出しの硬化により隣接面ではマトリックスの不適合,咬合面ではバイトが当たってしまうという大きな不利益が生じやすく,これらを避けるために,あえて化学重合型のボンディング材を採用され,実践的な“葭田システム”を確立されているのである.
 また,隔壁用ストリップスの選択においては,私の臨床ではこれまで直タイプを隣接面の形状に合わせて金冠ハサミで調整していたが,本論文を読んで早速,曲タイプのストリップスとクリップを注文した.このほか,研磨用ストリップスの選択やその他の器材についても実に懇切丁寧に解説されている.加えて,葭田先生の既発表の論文の中から,そのエッセンスが本論文に解説されていて,CR充填を総合的に学ぶことができた.
 私は,本論文をCR臨床の優れたマニュアル書として活用することにした.葭田先生はまとめの部分で「新製品はすぐにとびつくと失敗の恐れがあるが,全く無視していると時流に遅れてしまう.各自,創意工夫してください」ということを言われている.私も本論文の中から自分の臨床で活用できるところをありがたく頂戴して,私自身のCRシステムを確立させていくことができればと考えている.



Random Note


「日本顎咬合学会第20回学術大会・総会」に参加して
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


こまつともなり
小松智成


 4月13日・14日に東京国際フォーラムにおいて日本顎咬合学会(会長=河原英雄先生)の学術大会・総会が開催されました.私はこの学会に参加するのは今年で3回目になりますが,多数の有名な臨床家の講演が身近に聞けるこのような大会は他にはないように思い楽しく参加させていただいております.最前線のテーマによる特別講演やシンポジウム,教育講演のほか,会員による一般口演,ポスターセッション,さらに技工士部門,衛生士部門の会場もあり,多くの参加者で賑わっていました.
 今年のテーマは「“咬み合わせと健康”−咬合,咀嚼はどこまで健康に寄与できるか−」でしたが,一般臨床家の集まりの学会らしく幅広い内容の発表がみられました.毎年のことですが広い会場のため,移動するのが結構大変でした.私は特別講演,シンポジウムの行われたメイン会場とテーブルクリニックの行われた会場の2カ所に主におりましたが,特にテーブルクリニックは歯科医院経営の講演からインプラントのオペに関するものまで興味のあるテーマが数多く,8名の先生方が同時に講演を進めていましたので,全部を聞くことはできず残念でした.最近はビデオによるライブオペを講演で説明される先生が多くなり,これまでのスライドのみの講演より非常に理解しやすくなったと思います.
 1日目のメイン会場ではアンテリアガイダンスをテーマにした講演とシンポジウムが行われました.特別講演「Reconstruction of Complex Restrative Cases」のWilliam H. McHorris先生はフルマウスリコンストラクションを行う場合において特にアンテリアガイダンスの角度を重要視して,顎口腔系に調和した治療をシステマチックに行っており,下顎位と咬合を安定させるために包括歯科治療が必要なことを再認識させられました.
 今年の企画の特徴の一つとして,1日目のプログラムの最後に臼田貞夫日歯会長の特別講演がありました.現在の歯科界の状況について説明をしていただき,末端の歯科医師会会員の私としては非常に参考になりました.また,臼田会長の特別講演の前に行われた村岡博先生の講演「歯科医療人への提言−歯科医師の心得−」では歯科医師の心得を教えていただきましたが,日本の歯科界の重鎮の言葉には重みが感じられました.1日目のプログラム終了後には例年通り会長招宴が開催され,村岡秀明先生司会のもと,歯科医師によるバンド「デンチャーズ」のバックミュージックを聞きながらの楽しい時間を過ごさせていただきました.
 2日目は,テーブルクリニックのほか,メイン会場で行われた山本美朗先生,河津寛先生の教育講演「インプラント治療におけるリスクマネージメント」,安孫子宜光先生の特別講演「バイオサイエンス応用による未来の歯科医療」が印象に残りました.
 今回この学会に参加して,改めて咬合と全身の健康との関連性を再認識しました.歯科医学(dentistry)が健康科学(health science)の一分野として世間一般に認識されるように,これからのこの学会のますますの発展を私は期待しています.歯科医師だけでなく歯科技工士,歯科衛生士も同時に勉強できる学会は他にはあまり例がないもので,最近停滞ぎみの歯科業界を活性化させてくれるものと考えております.




Random Note


フォーラム『最新口腔生理学の世界』を聴いて
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


あずまさとし
東 智


 4月20日(土),大阪府豊中市の千里阪急ホテルにおいて,『最新口腔生理学の世界』と題したフォーラムが開催された.
 3月末に文部教官を退官された前大阪大学大学院歯学研究科教授・森本俊文先生が,長年,研究・教育に携わってこられた口腔生理学の発展を広く歯科医療界に公表する場を持ちたいとの考えから発案し,退官直後のこの時期に本フォーラムを企画・開催されたものである.口腔機能としての痛覚,唾液分泌,味覚,それに顎運動の感覚系を司る神経系メカニズムの最新情報を,現在,研究の第一線で活躍されている11名が講演した.
 河村洋二郎大阪大学名誉教授による概説の後,岩田幸一日本大学教授〔三叉神経痛〕,松尾龍二岡山大学大学院教授〔唾液分泌〕,笠原泰夫鹿児島大学教授,山本 隆大阪大学大学院教授〔味覚〕,姜 英男北海道医療大学教授,井上富雄昭和大学教授,増田裕次大阪大学大学院講師〔咀嚼運動〕,山田好秋新潟大学大学院教授〔嚥下〕,野首孝祠大阪大学大学院教授〔補綴〕と続き,最後にオーガナイザーの森本俊文松本歯科大学教授が「咀嚼力調節の生理的メカニズム」について講演された.本稿では,森本先生の講演にしぼって内容を紹介したい.
 臨床歯科医学,動物行動学,神経生理学などの技法を用いて,次のようなことが解明されてきた.
 (1)咬合高径の感覚に閉口筋筋紡錘が関わっていることが示唆される(筋紡錘=筋内に存在し,筋の伸展状態を受容する感覚受容器).
 (2)様々な食物を咀嚼する時,その硬さに伴う上下顎間距離を筋紡錘の長さとして感覚し,咀嚼力の調節に役立てていることが示唆される.
 (3)筋紡錘の感覚は,小脳を介して咀嚼力調節のFeedforward Controlの作用を持つことが示唆される.
 総義歯装着者が適正な咬合高径を選んだり,食物の性状に応じて咀嚼力を調節していることなどを通じて,臨床医は(1)と(2)を経験している.(3)についても,実験が進むにしたがって新しい展望が開けることであろう.
 若い頃から常に臨床歯科に興味を持ち続け,咬合感覚と咀嚼力の調節機構との関連を研究されてきた森本先生ならではの講演であった.
 当日の参加者,約230名のほとんどが臨床医であった.フォーラム終了後に行われた懇親会でも,近年の口腔生理学の進展を再認識するだけに止まらず,口腔生理学の研究で得られた知識を是非とも歯科臨床上の機能評価に活用したい,との声があがっているのが聞こえてきた.
 森本先生は,当日の行事がすべて終了した後,「私は学生時代を含めて大阪大学歯学部に44年間在籍しましたが,とても幸せで非常に美しい時を持つことができました」と語っておられた.四半世紀ほど前のこと,イギリス留学から帰って来られたばかりの森本先生がよく口にされた言葉,「reasonable(思考・行動などが道理に合った,合理的な)」と「beautiful(申し分のない,素晴らしい)」が反映された一日であった.森本先生におかれては,大阪大学大学院教授・歯学研究科長(歯学部長)として培ってこられた実績を礎に,松本歯科大学総合歯科医学研究所教授として引き続き活躍されることと確信する.




Random Note


日本歯科漂白研究会国際シンポジウム“美白の世界最新の審美歯科”に参加して
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


あんどうひさひで
安藤寿英


夢の国際シンポジウム開催まで
 去る4月20・21(土・日)の両日,日本歯科漂白研究会主催による国際シンポジウム「美白の世界」−最新の審美歯科−が盛大に開かれた.今回,日本においてこのようなシンポジウムが開催されるに至った経緯は以下のとおりである.
 昨年,Dr.Smigelが主宰するAmerican Society for Dental Aesthetics(以下ASDA)が輝かしく25周年を迎えた.このASDAは,口腔の生理的・機能的回復のみならず,ポーセレンラミネートをはじめWhiteningに至る「審美回復」という「歯科の文化」を社会に大きく定着させる潮流を創った功績を持っている.2000年秋には,世界的に有名なデザイナーであるカルバンクライン氏がDr.Smigelから審美歯科治療を受け大いに感動し,Dr.Smigelに多大な寄附を行ったという逸話がある.
 Dr.Smigelはそれをニューヨーク大学に全額寄附し,一方,それを受けたニューヨーク大学では,審美歯科に多大な貢献をした人に対して“Smigel賞”を設定するに至った.第1号受賞者となったのはAmerican Academy of Esthetic Dentistry元会長のDr.R.Goldsteinで,その受賞記念講演がニューヨークで開催されたのである.
 これらを記念して,今回,親日家であるDr.Smigel,Mrs.Smigel夫妻を中心に,日・米・欧・亜の臨床歯科最先端の代表を迎え,21世紀の審美歯科の限りない発展と「歯科の夢」を語る場として,夢のような国際シンポジウムが日本で開催される運びとなったわけである.

盛況裏に開催
 まず,松尾 通先生(日本漂白研究会会長)の挨拶により,2日間の国際シンポジウムの幕が開かれた.最初の講演者として登場した寺川國秀先生(本会大会長)は「生命の源流と審美,真美,心美歯科」と題し,“機能しなくなった無歯顎の頭蓋骨が廃用性萎縮を起こし骨粗鬆症となり噛めなくなることが,顔面頭部頭蓋にどのような影響を及ぼすか”ということをDentureを中心に述べたが,国際シンポジウムの基調講演にふさわしい内容のレクチャーであった.
 次に,Dr.Smigelが「Beauty White and Prospects of Aestetic of 21st.Century」と題し,ポーセレンラミネートを中心に,その歴史的背景から現在の臨床に至るまで幅広い症例を示した.術前の哀しげな暗い表情をした患者が,まるで人が変わったように明るくにこやかに微笑み,さらにライフスタイルまでもが変わってしまう様子を観て,聴衆の誰もが魅せられた.
 さらに,海外からAACD次期会長のDr.Wynn Okuda(USA),EDAD会長のDr.Galip Gurel(TUR ),IAACD会長のDr.Sandesh Mayekar(IND )らが発表したが,それぞれの国における最新の審美歯科治療の報告と,各学会が発足に至った経緯および現在どのような活動を行っているかに加え,医療には国境も人種も関係ないことを,症例を通して述べた.KACD会長のDr.Seok-kyun Kim(KOR )は審美歯科におけるブランド化ついて,KACD理事のDr.Inchool Park (KOR )は医療におけるマーケティングの重要性について講演した.
 また日本からは山崎長郎先生,本多正明先生,内藤正裕先生,筒井昌秀先生らが講演したが,いずれもわが国における審美歯科の最前線についての話で,講演の中で数多く出された症例はどれも,世界のトップレベルの臨床であることが実感できるものであった.
 各先生方の講演に加え,両日にわたりパネルディスカッションが行われた.初日はMrs.Smigel(ロベルト・リサーチ代表)がBondingの父と愛称されるDr.Smigelの由縁について,木村安气子さんはネイルアーティストの立場から,菅原明美さんはライフコンサルタントの立場から,それぞれの視点で審美についてのディスカッションがなされた.子さんはネイルアーティストの立場から,菅原明美さんはライフコンサルタントの立場から,それぞれの視点で審美についてのディスカッションがなされた.
 翌日は歯科技工界の代表的存在である桑田正博先生を座長に迎え,咬合をはじめとする歯牙の機能・形態はもとより,審美歯科の歴史と現在,そして未来の展望について,熱気あふれるディスカッションが行われた.
 また今回は,椿 智之,永井茂之両先生および歯科衛生士の永瀬佳奈さんにより行われた「歯科衛生士および歯科助手のためのWhiteningに関するワークショップ」や,約60社による審美に関する展示も大盛況の賑わいを見せたが,こんなところからも人々の関心の高さが窺われた.

余韻に浸る
 今回の国際シンポジウムに登場した海外の先生方は,各国で審美歯科におけるトップリーダー的存在であると同時に,多数の会員を導く立場におられる.これは日本の先生方においても同様であり,その方々の話を聞くには2日間ではとうてい事足りるわけはなく,許されるならば,もう少し多くの時間を費やすことができれば……と,心底思う充実振りであった.
 寺川先生が常々おっしゃっている「歯科医学は歯科医のモノではない.病める患者の心をも癒す大いなる力だ.審美歯科は科学で芸術であり,また人間学を背景にした文化でもある」の言葉が実感できた,真に有意義な2日間であった.

謝辞:今回のシンポジウムにスタッフとして参加できる機会を与ていただいた寺川先生,松尾先生,数カ月もの間協力を惜しまず準備に参画された金子先生をはじめとする理事の先生方,事務局として奮闘された中込先生,展示企業のために尽くされた藤井先生,武田先生,日々忙しい臨床のなか大変なご苦労だったと思います.ご苦労様と申し上げると共に,シンポジウムを通じて得たすばらしい出会いに,心から感謝いたします.