![]() 4月号論文「レジン充填に関する臨床医の知恵」を読んで (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.) しぶいちいずみ 四分一 泉 光重合型コンポジットレジン(以下CR)の高品質化は近年めざましいものがある.さらに,CRの接着システムは長足の進歩をとげて,第5世代の時代に入っていると言われている.しかし一方で,進歩とともにメーカーから実に多数のCRが発売されるようになり,葭田先生の言われるように,臨床現場ではその選択に迷わされることになる. 私はこれまで,CR充填に関してはデータや文献等を参考にして選んだ同一メーカーの一連の製品を用い,エッチングから充填まで一貫してメーカーの仕様書を遵守するシステムが,理論的にも材料の整合性からもベストの診療と考えていた.事実,自分自身では良い結果が得られていたと思う.しかし本論文を読んでみると,「忠実なマニュアルどおりの治療だけで,多様な患者のニーズに完全に応えられる結果が得られるのだろうか?」という疑問が起こった.葭田先生はCRの既存の治療システムを見直し,あくまでin vivoでの結果を求めるために,温故知新ということも考慮した多くの創意工夫をされている. 私は,臼歯咬合面のCRには色調を合わせやすい製品を用い,充填物と健常部の境界が判然としなくなるほど奇麗に修復されることに満足していた.ところが葭田先生は,色調の一致があまり要求されない部位であることをふまえ,オーバーフィリングの除去が容易なように,故意に白すぎるCRを使用する工夫をされている.また,窩洞の乾燥には完璧を期すためユニットの配管を変更し,エアー専用のシリンジまで作られている.これは本当に驚嘆すべきことである,私の診療室のユニットでは構造上それができないことを残念に思った. さらにボンディング材については,従来「化学重合型のボンディング材とCRの組み合わせは,コントラクションギャップを生じやすく推奨できない」という定説があるが,こういう不利益を甘受してもなお,化学重合型のボンディング材を使用されている点も興味深い.これは,光重合型のボンディング材では窩洞からのはみ出しの硬化により隣接面ではマトリックスの不適合,咬合面ではバイトが当たってしまうという大きな不利益が生じやすく,これらを避けるために,あえて化学重合型のボンディング材を採用され,実践的な“葭田システム”を確立されているのである. また,隔壁用ストリップスの選択においては,私の臨床ではこれまで直タイプを隣接面の形状に合わせて金冠ハサミで調整していたが,本論文を読んで早速,曲タイプのストリップスとクリップを注文した.このほか,研磨用ストリップスの選択やその他の器材についても実に懇切丁寧に解説されている.加えて,葭田先生の既発表の論文の中から,そのエッセンスが本論文に解説されていて,CR充填を総合的に学ぶことができた. 私は,本論文をCR臨床の優れたマニュアル書として活用することにした.葭田先生はまとめの部分で「新製品はすぐにとびつくと失敗の恐れがあるが,全く無視していると時流に遅れてしまう.各自,創意工夫してください」ということを言われている.私も本論文の中から自分の臨床で活用できるところをありがたく頂戴して,私自身のCRシステムを確立させていくことができればと考えている. |