読後感


5月号特集「一般歯科臨床における歯の挺出」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』6月号に掲載された内容を転載したものです.)


すえきひであき
居樹秀明


 日常臨床において,歯肉縁下カリエスや骨縁下に及ぶ歯牙の破折などに遭遇することがしばしばある.保存が難しければ抜歯処置を選択するが,できることなら保存に努めたいものである.そのためにも,挺出は必要不可欠な処置法の1つであるといえる.一口に“歯牙の挺出”といっても,矯正的挺出,外科的挺出,そして自然挺出があるわけで,ともするとどの処置を選択すべきか迷いがちである.今回の特集では,そのような場面に出くわしたときにどう対処すればよいか,また矯正的挺出を応用するにあたりどのようなことに注意して処置すべきか,考慮するうえでとても参考になった.
 矯正的挺出を臨床に取り入れるにあたり,歯牙移動時における歯周組織の病理学的変化については,これまであまり深く考えたことはなかった.しかし,臨床を行ううえで理解しておくことは絶対に必要であり,新倉論文ではこれらのことがわかりやすく解説されており,興味深く読ませていただいた.また,歯牙移動後に歯槽上線維を切除する方法やアンキローシス,保定などについても述べられており,矯正的挺出だけでなく外科的挺出を行ううえでも歯周組織の変化を考慮して処置すべきだと痛感した.
 佐藤論文では,埋伏歯を活かす,あるいは抜歯するために,自然挺出・矯正的挺出を応用した症例が紹介されている.特に,下歯槽管に達する下顎埋伏智歯を抜歯する際,術後性神経麻痺の危険性を回避するため自然挺出を利用し,2回に分けて分割抜歯するという方法には,一種の驚きを覚えた.
 われわれ臨床歯科医師にとって,挺出のなかで最も取り組みやすいのは矯正的挺出である.しかし,実際処置を行うにあたり迷うことは意外と多い.装置はどういったものを使うべきか,矯正力はどれくらいかけるものなのか,どれくらい挺出させるべきか…….日暮論文では,実際に臨床で矯正的挺出を行うための基本から注意すべき事柄まで,症例を提示しながらていねいに説明されており,たいへんわかりやすかった.特に,装置の固定源となる隣在歯を3つのパターンに分けて提示したり,パワーチェーンに荷重をかけた写真を掲載するなどの工夫もみられ,臨床に取り入れるうえで参考となる内容であった.
 篠田・西堀論文は,歯周環境に注目しながら矯正的挺出について述べている.矯正的挺出の歯周組織における有益な変化に着目し,歯周治療の一環として取り入れたり,審美障害に対処したり,インプラント前処置として利用したりと幅広く臨床に応用されていて,たいへん関心を持って読ませていただいた.
 治療の目的や生体の条件によって,挺出法はこんなにも多くの利用法(バリエーション)があるということに感心した.場合によっては,対象となる歯牙のみならず,両隣在歯まで良い状態にすることができ,症例を選べばまさに一石二鳥にも三鳥にもなる処置法といえる.
 多くの患者さんにとって,抜歯は恐怖の的であり,歯の数が減っていくことに抵抗を感じている方は多い.抜かずになんとか歯牙をもたせる歯科医師というだけで“名医”と呼ばれることもある.歯科医師サイドからみれば,必ずしもそう言い切れるものではないが,患者さんのニーズに応えるためにもできる限り抜歯せず保存したいものだ.今回の特集を参考にして,歯牙の矯正的挺出を臨床の場に積極的に取り入れてゆきたいと考えている.今後は矯正的挺出だけでなく,外科的挺出・自然挺出も含めた特集を期待したい.




読後感


コラム視点:「史上初マイナス1.3%の中身の評価」「金パラ合金引き下げの影響」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』7月号に掲載された内容を転載したものです.)


おかながさとる
岡永 覚


 今回の改定は,中道先生が指摘するまでもなく,内容的に多くの問題を抱えており,今後の歯科医業経営に与える影響もきわめて大きいものがあります.
 中道先生以外にも多くの先生方が改定内容を分析していろいろとコメントされていますが,いずれも「今回の改定が,歯科医業経営者に経営戦略上の決断を問う,初めての大規模な改定だ」という視点が欠けているように思うのは,私だけでしょうか.今後予想される,(1)医療機関過剰による患者激減,(2)診療報酬の度重なる引き下げ,(3)保険者機能強化による医療機関の選別,それらの前哨戦として今回の改定を位置づけるべきなのです.
 ところで,今回の改定は一にも二にも「かかりつけ歯科医を選択するか否か?」を踏み絵としていることが大きな特徴です.
 「かかりつけ歯科医を選択しない」という選択肢を選んだ場合,つまり補綴物維持管理を選択しない歯科医院は,少なくとも“治療費が安い医療機関”になるわけですから,それを前面に出した宣伝活動を行えば,患者が増えるかもしれません.院内に「補綴物維持管理も,かかりつけ歯科医も選択していないので,他の歯科医院よりも安く治療ができる」旨の掲示をしてはいかがでしょう.将来的には,経済的メリットを保険者にアピールすることで,指定医療機関の契約を結べるかもしれません.
 反対に,かかりつけ歯科医を選択して,提供する医療サービスの質で勝負する選択肢を選んだ場合,十分に説明の時間をとり,インフォームド・コンセントを行い,歯科医,歯科衛生士による予防管理サービス面も充実させていくことで,他院との差別化が図れると思います.歯周疾患継続治療や小児のC管理を選択し,それらを積極的に活用すれば,リコール患者さんも増えるでしょう.
 ただし,一言だけお断りしておかなければならないことがあります.それは,どちらの選択肢を選んだとしても,今までの延長線上で歯科医院経営を続けている限り,収支が悪化の一途をたどり,経営が行き詰まってしまうことです.このような状況下で借金を抱えていると,決算書をチェックした銀行から経営破綻懸念先の分類を受け,貸しはがしされ,そして倒産に追い込まれかねません.
 歯科医院がどんどん増え,過当競争が激化していく現実の中では,限られた予算内でうまくやりくりして“患者さんが目に見えて納得できる成果”を上げ,繁盛店にならなければダメなのです.そのためには,経営者もその家族も,人生の考え方を根本から改めなければならないと思います.
 最後に,「岡永は,どうするのだ」ということですが,残念ながら私はどちらの道も選択できませんでした.街の歯医者としては半ば敗者となっている私に,そのような余裕などないのです.やむなく,顎関節症や歯科心身症などの患者さんの治療に力を入れ,街の歯医者と住み分けを図っていくことにしました.そのような患者さんは,治療に入る前に十分なカウンセリングが必要で,手間ばかりかかって治療が進まず,まったく採算に合わないのですが,何とか企業努力で経営を維持しています.
 「歯科医は儲かる良い仕事」ではなく,「歯科医はなりふり構わず頑張ったものだけがやっと生き残っていける厳しい仕事」になったのです.したがって,他に生計をたてる道があるのならば,無理に歯科医を続ける必要はないのです.転職するのも,一つの選択肢ですよ.




読後感


4月号特集「〈知っておきたい〉救急のための薬剤と器具」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)


もりはなたけふみ
森鼻健史


 約5人に1人は65歳以上という高齢化社会に加え,医学の進歩により従来は病床にあった方々の社会復帰も増え,今後ますますリスクを抱えた患者さんが歯科を訪れる機会も多くなるだろう.しかし,開業歯科での救急に対する危機管理は,いまだ十分とは言い難い.
 救急医療に対して十分な臨床経験を積むことは難しく,講習会や著書から知識を得て,救急に備えることになる.今回の特集では,歯科診療時の救急状態の予防,症状の把握から処置,器具薬剤の使い方および管理,スタッフとの連携まで,写真や絵,図を用いたわかりやすい説明で臨場感があり,講習会に参加しているように読ませていただいた.
 はじめに救急事態を把握するための観察点と対処法,そして,表れた臨床症状に潜んだ疾患について簡潔にまとめられていた.症状は重なって起こってくることもあり,発症時に病態のイメージが浮かぶように記載されたポイントを整理して覚えておきたい.
 隠れた疾患の発見には問診が重要だが,著者も指摘しているように,自分の病気を十分に把握している患者さんは極めて少なく,問診のみで正確に病態を把握することは難しい.そんな時,服用薬のチェックが自覚のない疾患や病状の程度など重要な情報を与えてくれると思う.
 診療室で比較的よく遭遇する脳貧血,高血圧などについて,実際の症例からスタッフと連携の上での投薬,処置の実際が対話形式でわかりやすく述べられており,臨場感があった.救急薬剤の中には馴染みの少ないものもあり,次の機会には他剤についても症例を示して紹介していただきたい.
 リスクのある患者さんの場合,救急症状をいかに早く発見し,適切な処置を行うかが予後を左右する.当院では,モニターはスタッフ全員が使え,判定しやすいパルスオキシメーターと,指や手首用の自動血圧計を平時でもモニター用として使用するようにしている.精度に関してはやや心配な面があるので,スタンド型血圧計で時々チェックしているが,簡易型血圧計の利用上の注意点なども教えてほしかった.
 管理の要点で述べられていたゴムの劣化を私も阪神大震災の後,散らかった診療所を片付けていて,マスクや駆血帯で経験しており,以後年に一度は救急薬品や器具を全スタッフで使用方法を確認しながら点検するようにしている.
 救急医療はチーム医療であり,スタッフとのスムーズな連携処置のため,一次救命処置の手順と役割分担の表を参考にして当院の救急マニュアルを作成したいと考えている.
 日進月歩の医学界においては,数年前の常識が覆ることもある.昨年には,より実際的に変更された新救急蘇生法が発表されており1),常に新しい情報と知識の必要性を感じている.
 日常診療が順調なほど救急に対する意識は薄れるものである.年に一度はこのような特集を組んでいただけると,そのたびに救急医療の重要性が再認識できると思われる.

1)厚生労働省のホームページ参照(URL:http://www.mhlw.go.jp/houdou/0106/h0606-5.html).
  照会先:医政局指導課(Tel 03-5253-1111,内線2554),日本救急医療財団(Tel 03-3835-0099).




読後感


連載「新しい咬合概念“オクルーザルパワーゾーン”の提唱」を読んで
 (『Dental Review(日本歯科評論)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)


かとうもとひこ
加藤元彦


 従来から総義歯学(?)には様々な咬合理論や概念が“無数”にあり,巷間の一歯科臨床医にはどれも異論を挟む余地のない立派なものばかりなので,自分の臨床にどれを採用するか戸惑うばかりである.しかも実際の臨床に当てはめる場面になると,各々の歯科医師の技量と経験や,患者さんの生活習慣や義歯についての思い入れ,理解度や実践度なども影響してくるので,一概に批評できるものではないように思う.
 本論文は,上下無歯顎の咬合関係に「咬合重心域」が存在することを「顎関節や咬合は加齢と共に変化するが咀嚼筋群の起始や停止は不変であるから,これらの筋機能を重視して顎関節の機能や有歯列の咬合を回復させることが望ましい」という基本的概念に立脚し,実践的理論として「オクルーザルパワーゾーン」を乳歯列から成人歯列への解剖・生理学的見解を動的に解説し説明している.結論として,上顎第二乳臼歯の近遠心咬合幅を「ゾーン」と命名し,成人歯では第二小臼歯咬合面と第一大臼歯の近心咬頭の幅がスピーカーブの最下点でもあるので「咬合重心域」としている.また咬合重心域は,前額断面ではウィルソンカーブが上顎第二小臼歯と下顎第一大臼歯の近心咬頭で最も消失し,垂直咬合力が大となることを説明している.
 無歯顎の咬合理論では,ギージー,スワンソンの基本型,パウンド博士のリンガライズドオクルージョン,山本為之先生のKey-Zone guide,横田 亨先生の横田デンチャーなどが脳裏に浮かぶが,いずれも優劣つけがたい,臨床的で実践可能な具体的方法術式を備えている.
 本論文も理論は解剖学に基礎を置いて,上・下顎の咬合関係の生理・病理に言及しており,有歯顎の咬合生理・病理を説明し,その延長線上で無歯上・下顎の機能回復治療の手段としての総義歯の人工歯排列,特に臼歯排列の実践的人工歯を開発して臨床に供している.3回にわたって,その基礎的理論から,有歯顎の咬合関連症状に対するゾーンの応用と臨床的展開,無歯顎の具体的人工歯排列,臨床例による人工歯の自家調整咬合面の発現など,詳細に述べられていることは,読者に対して親切である.それにつけても,人工歯を接着したり,咬合面の硬度に差をつけて機能咬合の自家調整を図ったところが独創的発想として,筆者の臨床医としての面目躍如というところではないだろうか.
 有歯顎患者における“咬合関連症候群”の治療では,オクルーザルパワーゾーンを主体とした治療を微咬合調整に先立って終えておく必要性を強調し,上顎用/下顎用それぞれ機能の異なるスプリントによる症例を紹介し,その後の咬合調整を「10ミクロン前後の咬合紙」を使うことを勧めている.私は患者立位閉眼で表記8ミクロンの咬合紙を使って小・大臼歯の咬合を各個に診査するが,無咬合の咬合面が驚くほどあることを経験している.手元に極薄の咬合紙がなかったら,2時間録音用のテープを使って数人の患者さんの咬合状態を上下1歯ずつ診査してみるとよい.補綴された咬合面がいかに信頼できないか,わかるのではないだろうか.
 上・下の最後臼歯の咬合と頸椎や気道の機能の問題にも言及している.私はこの辺りの問題は,上顎−下顎の咬合関係の歪みが上顎(頭蓋)−頸椎(体幹)に影響した歪みとなり発症するのだから,後頭環軸関節を上顎の機能関節とした“上顎位”からの調整として認識しているが,これは筆者が述べている“生体重心軸”と合意するのではないだろうか?



Random Note


国際シンポジウム「カリエスリスクと唾液学」を聴いて
 (『Dental Review(日本歯科評論)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)


わたなべまさる
渡辺 勝


 去る3月17日(日),東京・砂防会館にて,日本ヘルスケア歯科研究会国際シンポジウム「カリエスリスクと唾液学」が開催されました.会場は700名を越す参加者で埋め尽くされ,盛況のなか幕を閉じました.

トータルリスクと各種カリエスリスクファクターの重み
 まず,熊谷 崇先生(日吉歯科診療所)が,カリエスに対する病因論,う蝕とう窩の違い,口腔内の健康維持のために何が必要か述べられました.氏は,これまでも患者データを蓄積し,客観的に評価する重要性を説いていましたが,今回はその裏付けと活用法について示されました.
 続いて,野村義明先生(国立感染症研究所)が,日吉歯科のデータに基づいた各リスクの重みづけについてコメントされました.今回,日吉歯科(8,000名)の患者データを解析することで,最小限の介入で最大限の利益をあげるために必要なことを解説されました.口腔内のミュータンスレンサ球菌・乳酸桿菌の量が予後因子のなかでも重要な因子であり(オッズ比:1.2〜1.6),日吉歯科ではメインテナンス患者のNNT(Number of Needed to Treat)が6という数字を具体的に示されました.
 これらは,あくまでも日吉歯科のデータであり,各歯科医院ごとに予防プログラムの効果が異なるため,そのまま受け入れられるわけではありませんが,臨床で患者と接するにあたり1つの重要な指標になると思われます.私たちは,唾液検査によって患者のカリエスリスクを知ることができますが,1つ1つのリスクについて,どれがより重要なのか漠然と理解していたようです.そのため患者に対し,必要以上の介入をしていたのかもしれません.

口腔乾燥症と唾液減少症について
 午後は,Jorma Tenovuo先生(フィンランド・トゥルク大)から問題提起を受ける形で講演が始まりました.カリエス治療を行っていると,なんとも邪魔な液体であり,感染の媒体ともなる悪い一面ももっている唾液ですが,生体の防御機能を備え歯や粘膜を保護する良い面ももっています.まず,こうした唾液の基本的な性質について紹介されました.
 また「口腔乾燥症」(口渇を感じる自覚症状)と「唾液減少症」(唾液分泌量の低下)を区別することが重要であるとし,それらの診断,症状,原因について示されました.さらに疾患の誘因となる服薬についても,詳しく述べられました.私たちは普段,刺激唾液を採取していますが,口腔乾燥症の診断には安静時唾液量の測定が合理的だそうです.
 実際に唾液が少ない患者に対する治療,症状の緩和法,カリエスコントロールの方法として,フッ素,キシリトール,CHXについて具体的に示されました.特に,患者は粘膜が過敏になっているので,刺激が強いものは避けるようにとのことでした.

ディスカッション
 鈴木 章先生(日本歯科大学助教授)を座長として,活発なディスカッションが行われました.最後に,以下のことを目的にヘルスケア歯科研究会として,服用薬の調査を実施していくことを確認しました.
 (1) 内服薬の副作用を知る
 (2) 疾患を推測できる
 (3) 薬剤の作用,副作用が歯科治療を困難にする場合がある
 (4) 薬剤の重複投与を防止する

ま と め
 日本ヘルスケア歯科研究会は,過去に探針の使用や喫煙問題など,さまざまなテーマで外に向けた広報活動などを行ってきました.
 今回のシンポジウムは,薬剤の長期使用が高齢者のライフスタイルに影響を与えるファクターであることを認識していくための足がかりとなりそうです.薬の副作用である口渇は,処方している医師らが気に留めていない傾向もあります.こうした問題を議論の場に持ち込み,「患者利益となる歯科医療」を実践していくことを望みます.



Random Note


全国歯科衛生士教育協議会設立40周年記念講演「歯科衛生士教育の過去・現在・未来」を聴いて
 (『Dental Review(日本歯科評論)』5月号に掲載された内容を転載したものです.)


たじまむつこ
田島睦子


 例年どおり,桜の花に追いかけられるように,全国歯科衛生士教育協議会は多くの歯科衛生士学校関係者を集めて,去る3月27日,東京歯科大学の血脇記念ホールにおいて開催されました.今年は設立40周年を迎える記念すべき年ということで,総会の後に記念講演会がもたれ,歯科衛生士教育に長い間携わってこられた3人の先生のご講演をお聴きすることができました.
 お1人20分という短い時間で残念でしたが,有意義な講演会でした.

 過去(榊原悠紀田郎先生)
 40年の歴史を20分で話すのは難しいと資料を準備されてのご講演でした.昭和23年に歯科衛生士法が公布され,昭和24年に教育が始まりましたが,今から思うと,指導の先生方は日常業務の傍ら講義するといった,歯科衛生士養成だったようです.歯科衛生士業務で歯石除去や歯面研磨技術の修得は大切と考え,マネキンの使用等が工夫され,その実習指導者として歯科衛生士教員の役割が認識され,教育内容の充実のために,昭和37年に「全国歯科衛生士教育協議会」の設立が整ったようです.

 現在(善本秀知先生)
 先生は昭和45年より歯科衛生士教育に関わられ,教育年限を延長する際の立て役者ですが,2年制になるまでの経緯をご講演くださいました.昭和43年頃より“歯科衛生士教育には2年が必要である”という動きが始まり,ある時は看護婦さんから「医療関係者は2年以上・短大の教育が必要です」と言われたりして,ようやく昭和63年に2年制になりました.「その間20年かかったんです」と,善本先生が感慨深そうにおっしゃったのが印象的でした.
 また,歯科衛生士の養成は「単に歯科医師や診療所のためだけでなく,21世紀の口腔保健の担い手になる大切な仕事をする,社会のための人材の養成である」と力強い言葉で結ばれましたが,私たち教職に関わる者に活を入れられた思いでした.

 未来(石川達也先生)
 長い間,歯科衛生士教育に携わってくださり,私たちの“頼れる先生”として君臨していらっしゃる先生から歯科衛生士の未来をお聴きできることは,とても楽しみでした.
 第一声が「未来は過去の投影です」でしたが,記念講演のテーマにぴったりで,3人の先生方の繋がりが理解できました.
 現在は歯科界を含めて大学教育が大きく揺れている時であるため,歯科衛生士の役割の大切さも,それに伴う教育を充実する重要性も,誰もが理解しているが,なかなか解決できないこと.しかし,歯科界を含め大学教育に関する諸問題が解決すれば,飛躍的に歯科衛生士教育の問題も解決をみることができること.そして,未来の役割の1つに咬み合わせを含めた口腔の重要性があり,顎運動指導などは歯科衛生士の有力な役割として考えられること等を,時には夢を含めてのご講演でした.結論として,歯科衛生士教育は歯科衛生士の将来の役割を踏まえた上で,何が必要で何が必要でないかを考えることが大切である,とされました.
  
 歯科衛生士教育に関する大ベテランの先生方の,熱き思いが私たちに伝わった素晴らしい講演会でした.
 歯科衛生士が社会の中で,口腔保健の担い手として充実した教育が受けられ,活躍できる日が早く来ることを期待したいと思いました.