要介護高齢者の口腔病変アトラス
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a:人生の最終段階にあって鼻唇溝の消失が現れる.b:抹消に現れるチアノーゼ.*エンゼルケア:死後の処置ともいわれ,死亡確認後に身体の各所に死後処置を行うことをエンゼルケアと呼ぶ.その中に,口腔内を清潔にしたり,閉口を促す処置をしたりすることもある.夜間に心停止などが起こると,処置を行う人手が少ないこともあり,十分な処置ができないこともある.さらに口腔は専門知識がないと清潔にできないために,最終段階で十分な口腔ケアを行っておくことで,エンゼルケアにおける口腔の処置を簡単に済ませることも可能になる.もちろん,死亡確認後,歯科医療関係者が口腔のエンゼルケアを行うこともある. 死期が近い状態になると,口腔周囲にもさまざまな変化が現れる.鼻唇溝の消失も大きな特徴の1つであるといわれる.顔面の表情筋にも力がなくなり弛緩するために,鼻唇溝や顔面表情がなくなる.このような口腔周囲の変化は,口腔管理を行う専門家としては知っていて欲しい事項である.また,口唇や指先にも現れるチアノーゼも,死期が近い状態であることを示す重要な指標である.最後の段階が近いことを把握し,その前段階で十分な口腔ケアを行うことにより,人手が少ない時間帯でのエンゼルケア*に対し,作業を軽減させる効果もある. 人生の最終段階には,口腔にもさまざまな症状が出現する.その多くは,経口摂取ができなくなることによる,口腔乾燥や汚染,栄養障害,易出血性の亢進である.それは,治療によって改善できることではなく,口腔ケアを丹念に,繰り返し行うほかに方法はない. 目にあまる口腔汚染や出血は,歯科関係者以外では対応のしようがなく,放置されているのが現状である.人生の最終段階に口腔を少しでも快適な状態に近づけて,より安楽な最期を迎えられるようにするのも,歯科医療関係者の重要な使命である.ab117人生の最終段階のワンポイントアドバイス人生の最終段階における口腔周囲の変化 80代女性

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