日本歯科評論7月号
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林はやし 美み加か子こ大阪大学大学院歯学研究科 歯科保存学講座 教授〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-824 THE NIPPON Dental Review Vol.83 No.7(2023-7) 近年,歯髄組織が高い生物活性と創傷治癒能力を有することが理解されるようになったことを背景に,国内外で歯髄保存の新しい局面が展開されている.わが国の歯内療法学の卒前教育では,従来,歯髄除去療法に分類されていた永久歯の生活断髄法は,間接覆髄法,暫間的間接覆髄法,直接覆髄法とともに歯髄保存療法に分類されるようになっている. 海外では,2019年にEuropean Society of Endodontology(ESE)が,永久歯の深在性う蝕と露髄した歯髄のマネジメントとしてVital Pulp Treatment(VPT)に関するステートメントを発信した■).そこでは間接覆髄,直接覆髄,部分断髄,全部(歯頸部)断髄を取りあげて,歯髄診断,露髄への対応から覆髄材の選択,さらには治療経過まで解説している.ここで注目すべきは,う蝕除去の方法に重点が置かれていることで,Stepwise Excavationを推奨するなど,より保存的に露髄を回避する姿勢を強調している点であろう. 一方,2021年にAmerican Association of Endodontists(AAE)は,Vital Pulp Therapy (同じくVPTと表現)に関するステートメントとして,間接覆髄,直接覆髄,部分断髄,全部(歯頸部)断髄 について,歯髄診断から最新の覆髄材,および最終修復のタイミングについて発信している■).AAEは,う蝕象牙質はすべて除去するとの一貫した立場で論説されている点がESEとⅠ歯髄保存の診療ガイドライン策定の背景1.歯髄保存の現在

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