日本歯科評論8月号
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3₁42 THE NIPPON Dental Review Vol.83 No.8(2023-8)東京医科歯科大学大学院 地域・福祉口腔機能管理学分野 教授〒113-8549 東京都文京区湯島1-5-45 口腔は栄養摂取の入口である.口腔機能低下は,食事摂取に影響を及ぼし,栄養の偏りはやがて全身へと影響を及ぼす.さらに口腔機能が明らかに障害されると,誤嚥や低栄養のリスクが増大し,誤嚥性肺炎や窒息などの重篤な合併症のリスクまでが高まる.少しの口腔機能の低下,いわゆるオーラルフレイルや,歯科医院で定量的に評価されるような口腔機能低下症がすぐに上記のような合併症リスクを高めるわけではないが,口腔機能の低下を放置していると,やがて何かの疾患を発症した際に栄養摂取の障害を引き起こす可能性がある. 一方,医療・介護の現場では,2024年の診療報酬と介護報酬の同時改定に向けて,口腔・栄養・リハビリテーションを一体的に進める方策について議論が進んでいる.本項では,口腔機能と食事摂取,栄養との関連性および口腔と栄養との一体的な取り組みについて考えていきたい.(1)咀嚼嚥下に関わる口腔機能 捕食された食物は,咀嚼運動により粉砕され,唾液と混ざり,食塊形成され,咽頭へと送り込まれ嚥下される.咀嚼嚥下運動には口腔,咽頭の多くの感覚と運動機能が関わり,これら一連の機能が保たれることで,適切な食事摂取が可能となる.咀嚼運動は,食物粉砕のための咬合関係や顎運動だけでなく,その運動に合わせた舌や軟口蓋,舌骨の協調運動によって行われる■).加齢や疾患により,これらの器官の筋力低下や運動機能低下が起こることで,食物摂取に影響を及ぼすこととなる. また,咀嚼により粉砕された食物を食塊としてまとめるためには,唾液分泌が不可欠である.高齢者は,疾患や薬剤の影響で口腔乾燥に陥りやすい(表).高齢者が内服する薬剤は,抗コリン薬,抗ヒスタミン薬,血圧降下薬,抗精神病薬など多くの薬剤が口渇を副作用とする.唾液の分泌抑制により,食事時の食塊形成が困難になり,嚥下困難感も増すPartⅠ 口腔機能低下を改めて考えるはじめに口腔機能低下と食特別企画口腔機能低下への対応―予防から看取りまで松尾浩一郎口腔機能低下と食と栄養

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